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『人を賢くする道具 』「第1章 人間中心のテクノロジー」のまとめ

『人を賢くする道具 』「第1章 人間中心のテクノロジー」のまとめ

概要

私たち人間の脳は、現代的な文明に見あうレベルの能力は持ち合わせていない。人の能力を支援するテクノロジーを自らで作ることで発展してきた。言い換えれば、人の能力は「自分の能力を向上させる道具だて」を自分たちで作れる、というメタさにある。

そのテクノロジーはよかれあしかれ人間に影響を与える。頭をうまく使えるようにもすれば、うまく使えなくするようにもする。もし、頭をうまく使っていきたければテクノ

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『日本哲学の最前線』(山口尚)

『日本哲学の最前線』(山口尚)

同じ著者の『哲学トレーニングブック』が面白かったので手に取ってみた。見覚えのある、しかし詳しくは知らない現代の日本の哲学者の名前も気になった。

國分功一郎、青山拓央、千葉雅也、伊藤亜紗、古田徹也、苫野一徳。本書はこの六人の日本人哲学者の動向をまとめている。面白いのは、「はじめに」において掲げられている「J哲学」なる怪しい言葉だ。

この本は「J哲学」という日本哲学の最前線を紹介する。

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『ツイッター哲学 別のしかたで 』(千葉雅也)

『ツイッター哲学 別のしかたで 』(千葉雅也)

タイトルのツイッター哲学とはなんだろうか。

率直に考えれば、Twitterという短文投稿プラットフォームに関する哲学であろう。あるいは、少しひねってそのようなTwitterにおいて実践される哲学であるとも捉えられる。

本書は、おおむねその両方を意味している。Twitterに関する哲学であり、Twitterで行われる哲学である。そして、その両方をまたぎながら営まれるより大きな哲学へのまなざしでも

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『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』が終わらせたもの

『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』が終わらせたもの

(激しいネタバレを含むので未視聴の方は注意)

中学三年生の頃だった。「新世紀エヴァンゲリオン」のテレビ放送を田舎特有のノイズ交じりの画面越しに食い入るように見ていた。

多感な時期である。格好をつけて「たいして影響なんて受けていないと」うそぶくことすらできない。ほとんどまちがいなく、クリティカルに、マージナルに僕はこの作品に影響を受けている。僕の中の「中二病成分」をDNA鑑定したら、間違いなくこ

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『妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方』(暦本純一)

『妄想する頭 思考する手 想像を超えるアイデアのつくり方』(暦本純一)

想像を超えるアイデアはいかにして生み出されるか。

妄想によって、と本書は答える。もう少し言えば、「頭の中の妄想を、手で思考する」ことによってだ。

ここで言う「妄想」は、本人の思い込みに過ぎないもの、くらいのニュアンスだろう。もちろん、「その時点においては」という保留がつくのがポイントである。言い直せば、現時点において「非現実的」だと感じられる着想が妄想である。

そうした妄想は非-現実-的であ

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『闇の自己啓発』(江永泉、木澤佐登志、ひでシス、役所暁)

『闇の自己啓発』(江永泉、木澤佐登志、ひでシス、役所暁)

「闇の自己啓発」である。「自己啓発の闇」ではない。しかし、本書には自己啓発の闇を睨むような視線もある。といっても、そこで含意される闇とは、高額の自己啓発セミナーにはまって財産溶かしましたとか、民間のカウンセラーの資格を頑張って取ったけど結局ネットワークビジネスでした、みたいな話ではない。そうではなく、正しいことを(なんなら善性を)啓蒙する自己啓発が持つ闇のことである。闇の自己啓発が、自己啓発の闇を

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怯えるとき人は理想を語り始める

怯えるとき人は理想を語り始める

『逃げるは恥だが役に立つ ガンバレ人類!新春スペシャル!!』において星野源演じる津崎平匡は、妻の森山みくり(新垣結衣)に対して「理想の父親」になることを宣言した。後に明かされることだが、このとき平匡は怯えを感じていたのだという。

たしかに子どもを持つことは未知の体験であり、未知の体験に人は怯えるものだ。そうしたとき、人は理想を語り始める。現実とはほど遠い理想を。

それは決して批難されることでは

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『FACTFULNESS』は何をもたらしたのか

『FACTFULNESS』は何をもたらしたのか

2019年、一番話題をかっさらったのは本書だろう。

「ビジネス書大賞2020」の大賞も受賞し、Amazonのランキングでもいまだに上位につけている。2,787個の評価で平均は4.3。かなり高いと言っていいだろう。いわゆる良書に分類される。

では、この『FACTFULNESS』は、もっと言えばこの『FACTFULNESS』の大ヒットは何をもたらしただろうか。

正直なところ、劇的な変化は何も起き

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『すべて名もなき未来』(樋口恭介)

『すべて名もなき未来』(樋口恭介)

はたして本書は書評集と言えるのだろうか。私にはそれがわからない。

なぜわからないかと言えば、私は書評集をほとんど読まないからだ。一番最近に読了した書評集と言えば、スタニスワフ・レムの『完全な真空』であり、この本は存在しない本についての書評集というおどけた(あるいはボルヘス的な)調子で書かれているので、一般的な書評集とは位置づけが異なるだろう。

だいたいにして、書評集を読むくらいなら、その時間で

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『バーナード嬢曰く。: 5』(施川ユウキ)

『バーナード嬢曰く。: 5』(施川ユウキ)

端的に言って、最高だ。読書をこよなく愛する人でなくても楽しめるだろう。表紙で神林さんがカッコよく決めているが、その内実は本編を見てのお楽しみである。

『三体』『カササギ殺人事件』『ダレン・シャン』『本好きの下克上』『ギネス世界記録』……

それにしてもこの漫画を読むと、高い確率で登場作品が読みたくなる。実に不思議な魅力で満ちた作品だ。新聞のお堅い書評とか、アフィリエイト欲求丸出しの手抜きなレビュ

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差異のない物語と虚構の力

差異のない物語と虚構の力

毎日少しずつ『すべて名もなき未来』(樋口恭介)を読み進めている。

今日はA2「ディストピア/ポストアポカリプスの想像力」を読んだ。普段はTwitterに感想を放流していのだが、少し堅い語りになりそうなので、読んだ感想(と呼べるのかはわからないが)をnoteにしたためておく。

■ ■ ■

「ディストピア/ポストアポカリプスの想像力」で著者は、二つの作品の差異と共通点を確認し、社会(に生きる人々

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『2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義』(瀧本哲史)

『2020年6月30日にまたここで会おう 瀧本哲史伝説の東大講義』(瀧本哲史)

2012年の6月30日、東京大学の伊藤遮音ホールで行われた2時間の講義を書き起こした一冊。読んでいると二つの意味で心が熱くなる。

目次案は以下の通り。六つの檄文で構成されている。

第一檄 人のふりした猿にはなるな
第二檄 最重要の学問は「言葉」である
第三檄 世界を変える「学派」をつくれ
第四檄 交渉は「情報戦」
第五檄 人生は「3勝97敗」のゲームだ
第六

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『積読こそが完全な読書術である』(永田希)

『積読こそが完全な読書術である』(永田希)

「積読こそが完全な読書術である」

いったいどんな内容なのだろうか。本を積んでおくことが、完全な読書になる? タイトルを見るだけで、ついつい思考を走らせてしまう。駆動させられてしまう。

積まれた本のタイトルを見ただけで思考が走る。本が何かを語ってくる。いや、タイトルだけではない。装丁を含めた本の全体が発する存在感が、あるいは複数の本たちの「隙間」から立ち上がる気配が、私たちに向けて語りかけてくる

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『ファンベース』(佐藤尚之)

『ファンベース』(佐藤尚之)

副題には「支持され、愛され、長く売れ続けるために」とある。コモディティ競争から抜け出すためには必須の考え方だろう。非常に現代的なマーケティング、プロモーションに関する書籍で、ユーザーをなめている担当者は一読したほうがよさそうだ。

ファンベースとはファベーストは何か? もちろん、ファンを重視する、というよりもそれを「ベース」にする考え方である。ベースとは、ベースキャンプ(基地)とかベースアップ(基

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