Weekly R-style Magazine 「読む・書く・考えるの探求」 2018/07/30 第407号

はじめに

はじめましての方、はじめまして。毎度おなじみの方、ありがとうございます。

先週もご紹介しましたが、7月27日に新刊が発売となりました。

直近いろいろ忙しく、まだ書店で「遭遇」してないので、自分が書いた本が「出版」された実感はないのですが、Twitter経由で感想も頂けており、少しほっとしております。

とは言え、今回は誤植が多かったで非常に反省中です。正誤表は以下にまとめてあるのですが、だからといって誤字による読書体験の損失が消えるわけではありません。深くお詫び申し上げます。

とりあえず、一つ言えることは、進捗が遅れて校正に取れる時間が少なくなるのはマズイ、ということです。次回以降そうならないように最大限の注意を払います。あと、「修正指示した部分」付近ほど別のミスを見逃しやすい、というのは知見として共有しておきます。

〜〜〜イベントさわり告知〜〜〜

新刊発売に関連して、イベントが行われる予定です。8月の上旬に一つと、下旬に一つです。両方とも東京近郊です。

現段階でどこまで開示していいのかわからないので、ぼんやり書いておきますが、8月10日と8月26日が怪しい(?)と思っておいてください。

あと全然別件ですが、7月31日に何か発表できるかもしれません。日付的にブログ記事での発表になりそうです。お楽しみに。

〜〜〜本のための本〜〜〜

今、スティーブン・スローマンとフィリップ・ファーンバックの『知ってるつもり――無知の科学』を読み進めています。たいへん面白い本で、ページをめくるたびに私たちの知識や知能について思いつくことがたくさん出てきます。記述された知識に刺激(ないし触発)されて、私の思考が促進していくのです。

そのような状況をメタ的に俯瞰してみて、「ああ、こういう刺激が本の執筆を進めるのに役立つな〜」なんて思ったのですが、そうして書かれる本はそのテーマについて書かれる本なわけで、つまりそのテーマについて一番の刺激を与えてくれるのはその本なわけで、でもその本を今書こうとしているわけで、……と循環構造にはまってしまいました。

でも、むしろそのことは、新しい本の執筆方法を組み立てる契機になるかもしれないなとも考えました。まず小さい文章を書く。それを自分で読んで、考えたことを新しく付け足す。でもってそれを自分で読んで、あとはその繰り返し……。

おそらくこの方法が、トップダウンを(冒頭において)介在させない、つまり「企画案」というものを最初に作らない執筆スタイルだと言えるでしょう。問題は、分量も見えず、テーマも(冒頭では)わからず、完成までの期間もまったく推し量れないところです。

そう考えると、一般的な出版の企画には使えないかもしれませんが、これはこれで面白そうですし、セルフパブリッシング時代には一つの方法になっていくかもしれません。

〜〜〜向かう道〜〜〜

人間が記述する以上、100%客観的な記述というのはおそらく不可能でしょう。短い文面ならともかく、長くなっていけばどうしても恣意的な判断が混じり込んできます。

しかし、だからといって客観的な記述を目指さなくてもよい、という話にはなりません。わずかでも客観的な記述に近づこうという試みは大切でしょう。でもって、そうした知的操作の中で獲得できることもまたあるはずです。

100でなければ0と同じ、というのは危うい考え方です。

〜〜〜「道具、技術、情報、思考」〜〜〜

この四つは違う点もあるものの、重なっているものも多くあります。でもって、人間を特徴付ける要素が多分に含まれています。

「だからなに?」

と聞かれると非常に答えづらいのですが、この四つの要素(≒カテゴリー)は領域として面白く機能しそうです。

〜〜〜感謝のあめあられ〜〜〜

本の発売後にTwitterを眺めていたら(というかいつも眺めているわけですが)、出版おめでとうございますや、本を買いましたや、本を注文しましたや、本を読みましたとなど、たくさんのお言葉をいただきました。たいへんありがたいもので、「あ〜〜〜〜〜」という気持ちでいっぱいになります。

で、この「あ〜〜〜〜〜」というのは、サブカルチャーで言うところの「尊い」に近い感情かもしれません。「嬉しい」とか「ありがたい」とか「自分にはもったいない」とか、そのようなさまざまな感情が一緒くたになって、口の中で「尊い」に合成されて空気を震わせるような表現です。

この世界にはさまざまな問題があり、いろいろ思うところも多いわけですが、それだけが世界の全体像ではないよな、と強く思う今日この頃です。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、気分転換にでも考えてみてください。

Q. この世界の良いところを3つほど挙げてみてください。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。

今週は、新刊にまつわる実験話を筆頭に、新しい企画に向けたお話やWebの昨今、そして引き続きリベラルアーツについて考えていきます。目次は以下の通り。

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2018/07/30 第407号の目次
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○「新刊における二つの試み」 #Scrapbox本
 新刊の裏話を少し。

○「頭の切り替え、次の一歩」 #物書きエッセイ
 物を書くことや考えることについてのエッセイです。

○「キャッチーさという入り口」 #リベラルアーツ再考
 現代的なリベラルアーツの意味づけについて考えています。

○「Webは集積文化になっているのだろうか」 #やがて悲しきインターネット
 インターネットにまつわるあれこれについて書いていきます。

※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。

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○「新刊における二つの試み」 #Scrapbox本

今回は、新刊にまつわるお話を書いてみます。二つの新しい試みについてです。

一つはランディングページについて、もう一つは情報補完サイトについてになります。

1)ランディングページもScrapboxで

普段なら新刊発売後は「でんでんランディングページ」を使い、Tumblr上でランディングページを作るのですが、今回はせっかくScrapboxについての本なので、ランディングページもScrapboxで作ってみました。

デザインに凝ることはできませんが、その反面、更新作業がめちゃくちゃ楽です。でもって、もちろん他の書籍とのリンクも生まれます。なかなかいい感じです。

しかし、ブログではないので閲覧者さんがコメントを入れられません。そこでGoogleフォームによるフィードバックBoxを設定してみました。

◇倉下忠憲へのフィードバック
https://docs.google.com/forms/d/17sOI0vqqT_blhmJFd70u_0gkmQmxyDcOpRtbCQIbDqw

このフォームはすごく簡単に作れます。

・Googleスプレッドシートを新規作成
・メニューから「フォームの設置」を選択
・フォームの内容を入力していく

これだけで完成です。でもって、フォームに回答が寄せられるとスプレッドシートに回答が自動的に入力されるので、集計を取るのも楽チンです。

これでTwitterなどのSNSを使っていない人、あるいは私にメールアドレスを知られたくない人でも感想を送れる体制が整いました。もちろん、本書の感想以外にもこのフィードバックフォームは使えるのでどしどし使い回していきたいところです。

ただ、このシートを覗かないと新しい回答が寄せられたのかどうかがわからないのは不便なので(≒見逃す可能性があるので)、IFTTTを噛ませてアラートさせることにしました。具体的には、

・指定したシートに新規カラムの追加が発生したら(トリガー)→メールで通知する(アクション)

というレシピです。フォームに回答が寄せられると新規カラムがaddされるので、無事メールが配信されます。

こうした仕組み作りがすべて無料で行えるのですから、世の中いったいどうなっているのかとちょっと不安になってしまいます。ともあれ、これでランディングページはできました。

2)情報補完サイトをScrapboxで

もう一つ新しい試みとして、情報補完サイトを作りました。本の内容を補強・補完するWebサイトのことです。

そうしたサイトが必要になることは、執筆を進めているときから感じていました。たとえば、本文中にいろいろな人のプロジェクトを紹介する箇所があるのですが、そこにタイトルとURLだけ記載されていても、なんじゃらほい、という感じです。かといって、一つひとつのページのスクリーンキャプチャを載せていったらページがいくらあっても足りません。やはり、実際に踏めるリンクが必要です。

また、操作や動作の説明も、テキストで描写するよりも動画で見てもらった方がはるかに手早く、また誤解の余地が少ないものもあります。

そういうことを諸々考えていて、二つ選択肢が生まれました。

・すでに作っていたScrapbox研究会プロジェクトに混ぜてしまう
・書籍用のプロジェクトを新規作成する

まず、作るのがScrapbox上であることは確定です(じゃなかったら極めて面白いコメディになるでしょう)。その上で、すでにいくつかの知見を集めてあるプロジェクト内に入れるのか、それとも専用のプロジェクトを作るのか、という分岐がありました。

これは簡単には答えが出しにくい問題です。

プロモーション的には、書籍用のプロジェクトを作った方が良いでしょう。そのプロジェクトのタイトルも、"『Scrapbox情報整理術』サポートページ"とかになるでしょうし、その方がネームバリューはアップします。

しかし、それだけでは広がりが少ないのではないかと感じました。そのようなプロジェクトを作ってしまうと、本の内容に関係しないものは言及しなくなります。はたしてそれで本当に役立つサイトになるのだろうか?

いろいろ考えたあげく、「Scrapbox研究会」プロジェクトを公開場所に定めました。パブリックなプロジェクトで、メンバーも自由参加できるようになっているプロジェクトです。本の執筆を始める前からそのプロジェクトは作成しており、すでに多数の情報が集まっています。そこに、本の中身に関する情報もアップしていくことにしていきました。

単純にテクニック・ノウハウだけを見るならば、『Scrapbox情報整理術』に含まれているものは「Scrapbox研究会」で参照することができます。本書の第二章の前半や終章で書かれているような話はそのプロジェクトには掲載されていませんが、単に機能を知りたいだけならば、これらの話はまったく不要です。

つまり、私は二つのタイプのScrapboxコンテンツをこの世に放り込んだことになります。

一つは、ツリー上に整えられ頭から終わりまでを読んでいくことを前提に作られた『Scrapbox情報整理術』という本。もう一つは、ネットワーク上に展開し、次々とコンテンツが増殖していく「Scrapbox研究会」というプロジェクト。この二つです。しかも後者は私という一人の語り手だけでなく、Web上の人間ならば誰でも知見を追加できるようになっています。つまり、両者はぜんぜん違うもの、ということです。

注目したいのは、この二つがメディア形式だけでなく、コンテンツ的にも異なっている、ということです。

片方は、有限化され、流れに沿って配列され、語りかけるように語られています。もう片方は、上限というものがなく、恣意的な配列もなく、部品的に記述されています。

両者に含まれている情報に重なるものはあるにせよ、情報受信者の受け取り方はずいぶんと異なるでしょう。そしてそれは、どちらのコンテンツが上なのか、という話ではなく、それぞれのドキュメントが果たす役割の違いなのだと思います。

たとえば、Scrapboxというものをまったく知らず、今から入門するという人には『Scrapbox情報整理術』の方がわかりやすいでしょう(そうであることを願うばかりです)。いくら情報量が豊富であるとは言え、「Scrapbox研究会」を覗いても初心者はさっぱりなはずです。というかむしろ、情報量が豊富であるがゆえに、圧倒されて近づきがたい印象を覚えるかもしれません。

逆に、ある程度Scrapboxに慣れていて、頭の中に概念地図みたいなものが形成されているならば、目的の情報を探すのは「Scrapbox研究会」の方が使いやすく、『Scrapbox情報整理術』は冗長に感じられるかもしれません。

このように、コンテンツの違いは機能の違いとなって表れ、さらに情報受信者にとっての「使いやすさ」の違いにもなります。この点が、ツリーとネットワーク(あるいはリゾーム)の違いでもあるでしょう。

というわけで、もし未読でこれから本を読むよ、という方は一度「Scrapbox研究会」を覗いた後で本を読み、その後で再び「Scrapbox研究会」を覗いてみてください。そして、前後でどのような感触の違いがあったかを確認してみてください。

すでに本を読まれた方も、「Scrapbox研究会」を覗いてみて、なるほどリンクネットワークは便利なのだな、というのを体験していただければと思います。

今後も似たようなことを行うかはわかりませんが、縦横無尽に広がっていくネットワークと、その一部を刈り取ったツリーという二つの構図はいろいろな場面で顔を出しそうな気がします。

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Weekly R-style Magazine 「読む・書く・考えるの探求」 2018/07/30 第407号

倉下忠憲

180円

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倉下忠憲

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