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Weekly R-style Magazine 「読む・書く・考えるの探求」 2018/06/25 第402号

はじめに

はじめましての方、はじめまして。毎度おなじみの方、ありがとうございます。

先週の月曜日、大阪で地震がありました。私のところもかなり揺れました。

その日は夜の3時頃まで原稿を書いていたので、地震が起きた朝8時頃はぐっすり眠っていたのですが、さすがに目が醒めました。そして、長く続く揺れ。とても嫌な感覚でした。はるか昔の体験を、直接引きずり出されているようなそんな感覚。

我が家の被害は、コップ二つと本棚が「あぁ〜あ」みたいな状況になったことだけでしたが、それでも喉の奥には嫌な苦みが残りました。たぶん、消してはいけない苦みなのだと思います。

〜〜〜マンツーマン〜〜〜

妻とテレビを見ていたら、男性と犬が二人っきりのシーンで「マンツーマン」という表現が出てきたので、「それを言うなら、マンツードッグだろう」と私が突っ込んだら、同時に妻が「マンツーワンでしょ」と突っ込んで、すごく負けた気持ちになりました。

審査員が五人いたら、五人とも妻に札を挙げていると思います。

〜〜〜「できることはなんでもする」〜〜〜

「〜〜をするためには、できることはなんでもやらないと」といったアドバイスはよくあります。

たとえば、「物書きは文章を書いて終わりではなく、売るためにできることはなんでもやらないと」といった言説です。

これはたしかにその通りなのですが、「できることはなんでもやる」と「なんでもやる」の違いには注意したいところです。たとえば、前者は犯罪行為(あるいはそれに類するグレーな行為)の実施は含まれていません。能力的に可能であってもそれは「やってはいけないこと」(≠できること)だからです。

それだけではありません。「できることはなんでもやる」は、すべてのタスク化しうるアクションをタスク化すべし、ということも意味しません。時間や能力という限られた資源を念頭におけば、「できること」もまた有限であることがわかります。

時間・能力・他の行動の優先度・規範、といったもろもろを考慮した上での「できることはなんでもやる」は、単純な「なんでもやる」よりも考えることは多いですが、その分、持続性や継続性に分がありそうです。

〜〜〜確信と覚悟〜〜〜

確信、というのがありますね。「間違いなくこうなる」と強く思える感覚のことです。

もし確信があるならば、そこには覚悟は生じないことでしょう。覚悟とは、「もしかしたら良くないことが起こるかもしれないけれども、それでもやろう」と決めることだからです。リスクに対する決意、と言い換えられるかもしれません。

何かを確信しているときは、たぶんリスクが見えていません。

それは怖いことですが、それがないと進めないような細い道もやっぱりあるのでしょう。人生には。

〜〜〜仕事のベースは同じ〜〜〜

執筆業を始める前は、コンビニで小売業をしていました。

で、8年ほど前にジョブチェンジしたわけですが、私の中でベースは変わっていません。

小売業では、買い手のことを考えます。駄菓子を陳列するのは棚の低い位置にし、入り口に買い物カゴを設置し、ビールの六缶パックのあるところにもカゴを置き、コピー機の蓋や釣り銭機の近くに「原稿の忘れ物はございませんか?」といった注意書きを貼り、その週の新商品はまとめて陳列する。

すべて買い手の立場になって、こうなっていたら便利だろう、嬉しいだろう、と考えて仕事を行います。

執筆業では、読み手のことを考えます。わかりやすい文章、読みやすい構成、機能する(であろう)比喩。自分の言いたいことを言って終わりではなく、読み手に届くように文章を仕上げるのが、書き手の仕事です。

でもって、それは文章の中だけで完結するものではありません。

読者さんとは、読み手でもあり、買い手でもあります。どんな告知をすればいいのか、どんな特典が喜ばれるのか、どんなプロモーション施策が受け入れられやすいのか。そいうことも考えて仕事します。

結局のところ、仕事のベースは変わっていません。いつでも相手を見て仕事をしています。

これは三つ子の魂百まで的な話なのか、それとも仕事における根本原理なのかはまだ見分けがつかないところです。

〜〜〜be productive〜〜〜

「生産的になろう!」

という言い方だと、どうにも「たくさん作ればいいんだろう」というイメージが湧いてしまいます。結果、仕掛品をたくさん作ってしまい、利益に貢献しないばかりか財務を悪化させてしまうことも起こりえます。これは避けたいところです。

プロダクトというのは、製品のことです。最終成果物ということです。それを増やすようにする。そのイメージがないと、ゴミを大量生産しかねません。

でもってそのイメージは、「グダグダ言っている暇があれば、手を動かして評価の対象になるプロダクトを作ろう」という姿勢にもつながります。

be productive.

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週の(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、脳のウォーミングアップ代わりにでも考えてみてください。

Q. 最後に覚悟を決めたのはいつのことでしょうか。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。

今週は少し長めの記事を二本立てでお送りします。片方は知的生産の技術について、もう片方は長めのエッセイです。

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2018/06/25 第402号の目次
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○「アイデアストックの扱い方」 #知的生産の技術 #断片からの創造

○「やじるしラバー」 #エッセイ

※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。

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○「アイデアストックの扱い方」 #知的生産の技術 #断片からの創造

状況を確認しておきましょう。

まず、「Scrapboxを使い、メモをカード化していく」というmyプロジェクトが動いています。一行程度の走り書きメモを、肉付けしてScrapboxに書き込む。そういう運動です。

ただし、何かを思いついた直後にScrapboxに書き込むのではなく、とりあえずEvernoteかどこかに一行メモを書き、その中から拾い上げてScrapboxに転記&肉付けするというプロセスをとっています。軽い肉付けであっても、多少の時間はかかるので、こうした工程の分離は、現状では欠かせません。

そうなると、二つのものができます。一つは、断片的なアイデアを保存しておくリスト、もう一つは、その中から選ばれたものが肉付けされたリストです。

前者のリストは、何かを思いつくたびに項目が増えます。でもって、私は日常的にいろいろなことを思いつくので、そのリストはどんどん長くなっていきます。一方、その項目をカード化する速度はそれほど速くありません。一日に多くても3項目くらいでしょうか。つまり、以下の不等式が成りたちます。

断片的なアイデアが増えていく速度 > それをカード化する速度

結果、時間が経てば経つほど、両方のリストは長くなりますが、前者の方がより長く成長します。簡単に言えば、溜まっていきます。

現状はまさにそのような状況です。

Scrapboxの「倉下忠憲の発想工房」(※)プロジェクトは300ページほどになりましたが、「後でScrapboxにしよう」リストは、まったく短くなっていません。むしろどんどん長くなっています。
https://scrapbox.io/rashitamemo/

そのリストに入っているのは「メモをカード化しよう」企画をスタートさせてから後に思いついたアイデアに限定されているのですが、もうすでに手に負えないくらいの量になっています。

というのが、今の状況です。そして、話はここから展開します。

〜〜〜断片的なメモの性質〜〜〜

長く伸びた「後でScrapboxにしよう」リストを眺めていると、気がつくことがあります。そこには、ある種の雑多さがあるのです。

項目の中には、「これはScrapboxに持っていこう」とすぐに思えるものもありますが、そうでないものもあります。そして、そのそうでないものにもいくつかの種類があります。断片は、多様なのです。

Scrapboxに持っていきやすいものは、私の中ではっきり「概念化」されているものです。たとえば、現状のリストの中では、

・メモのインとアウトとScrapbox
・ミニチュアとしてのアウトライン
・見えない綱引き
・情報感度と他者への信頼

といった項目は、すぐにでもScrapboxのページが作れそうです。しかし、

・やじるしラバー
・ヒーローとアイドル
・ビッグデータは、ポスト・ナラティブたりうるのか
・木材は誰が管理するのか

といった項目は、あまりScrapboxing-motivationが高まりません。ページが作れないわけではないのですが、「なんかちょっと、違う」感が行動を阻むのです。

この違いは、実に興味深いものです。一見似ている走り書きメモに見えながら、私の中では差異があるのでしょう。

これがたとえば、

・スクラップボックスで共有データをエクスポートしたらどうなるか。
・一行メモをインキュベーターに置いておき、それをさらにScrapboxでカード化する?
・『ソーシャルメディア時代の自己啓発』

のような項目であれば違いは明白です。これらは、疑問(興味)・タスク前駆体・企画案のタイトルといったものであり、頭の中に浮かんだ概念とはずいぶん色合いが異なります。

もしかしたら他の人には同じように見えるかもしれませんが、私の中ではこれらの項目は、先ほど挙げた項目とは明らかに違って感じられます。よってその処理を分けるのも用意です。

しかし、似たように思える項目にも、違いが潜んでいるのです。その違いはどこから生じているのでしょうか。

〜〜〜Scrapboxとアウトライナー〜〜〜

ここでツールについて考えてみます。Scrapboxとアウトライナーです。

Scrapboxは、情報を部品化し、リンクによってつなげることを促すツールです。ポイントは「部品化」という点で、それ自身が独立的に機能しながらも、他の部品と協調的に機能することが目指されます。プログラミング言語における「関数」のようなイメージです。

アウトライナーは、入れ子上の階層構造で情報を断片的に扱えるようにしますが、それらは決して「部品」的ではありません。言い換えれば、独立的ではありません。それは部品というよりも、体組織・細胞のようなものです。ある全体の一部であるときにのみ、要素としての機能を発揮します。

アウトライナーでは、ある項目と別の項目は、異なった情報でありながらも、同一平面上に位置しています。そして、そのことに意味があります(あるいは、それが意味を生じさせます)。それを究極的に突き詰めたのがWorkFlowyです。そこではあらゆる項目が同一平面上に位置します。全体を構成しているのです。

その同一平面上で、それぞれの項目は移動し、位置を変えます。Scrapboxでは、ページのソート順を変更できるので、一つめに表示されるページと二つめに表示されるページは、「あるソート順における序列」以外の関係性を持ちません。しかし、アウトライナーでは、二つの項目が並んでいることにははっきりとした意味があります。

おそらくこの点が、ある種の走り書きメモに対して、Scrapboxing-motivationが高まらない理由なのでしょう。

〜〜〜輪郭線の有無〜〜〜

走り書きメモの中には、私の中ですでに固まっている概念が記述されたものがあります。その固まり方はコンクリートほど固いものではないにせよ、それ自身で自立する程度の固さは持ち合わせています。

一方で、そこまで固まりきっていない概念、あるいは概念の前段階を記述したメモもあります。そうしたメモも、肉付けされるのを待っているのですが、その肉付けは「すでに固まった概念があり、それを表す見出しとしてのメモがあり、後はその詳細を書き込んでいくだけ」という肉付けとは少し違っています。

それらのメモは、まだ輪郭線を持っていません。むしろそうしたメモは、他のメモと結び合わさることで、はじめて輪郭線を獲得するようなところがあります。

この「結び合わさる」は、他の項目と「リンクする」ことではありません。もしそうであればScrapboxでOKでしょうが、そうでないからこそ、Scrapboxing-motivationが高まらないのです。

ある記述と別の記述がくっついて、より大きな記述となること。いや、この場合、大きさが問題なのではなく、概念の固まり具合が問題なのでしょう。つまり、ある記述と別の記述がくっついて、より輪郭線がはっきりすること。それが「結び合わさる」ことの意味です。

〜〜〜ツールにおける扱いの差異〜〜〜

一つの概念になる前の記述をたくさん集め、同一平面上に配列する。

アウトライナーでは、一つひとつの項目に境界線・輪郭線はありません。すべての項目は「地続き」です。だからこそ、ある項目と別の項目が結合して、より大きな項目に成長することが起こりえます。

もちろんScrapboxのページ内にはアウトライン操作機能がありますので、一項目一ページではなく、全項目一ページの形で保存すれば、Scrapboxでも結合可能性は生じます。ただし、アウトライナーに比べると機能的に足りない部分は多々あり──たとえば項目の開閉やドラッグでの移動──、だったらアウトライナー使えばいいかな、という気はしてきます。

とは言え、項目の開閉やドラッグでの移動が、そうした結合待機メモの管理においてどのくらい必要なのかは現段階ではわかりません。案外Scrapboxのアウトライン操作程度で充分、ということもありえます。

その場合は、二種類のメモをSrapboxで統合的に管理すればよいでしょう。しかし、そうでない場合は、アウトライナーを使う必要が出てきます。

〜〜〜おわりに〜〜〜

これはきわめて微妙な問題です。

結合待機メモとカード化メモは同じ場所で管理すればいいのか、それとも別々に分けた方がいいのか。そして、そのツールと管理方法はどのようなものになるのか。

現段階ではまったく答えは見えてきません。しかし、少なくとも一つ言えることがあります。それは、Scrapboxでメモをカード化しようという試みを始めたことで、こうした差異に気がつくことができた、ということです。おそらくEvernoteに貯め込んでいるだけ、アウトライナーに並べているだけでは、この違いにはうまく気がつけなかったでしょう。

「動かしてみようとすること」

たぶん、これが大切なのだと思います。

とりあえず、これらの結合待機メモについては、Evernote、WorkFlowy、Scraopboxにそれぞれ保存するようにして、どれが一番使いたくなるかを見極めてみます。こればかりは頭で考えているだけではどうしようもありません。実地的に行い、結果を実感してみることが大切です。

そして、その結果は、私の「断片からの創造」構想に大きな影響を与えることになるでしょう。

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