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『急に売れ始めるにはワケがある』(マルコム・グラッドウェル)

※当記事は、メルマガWRM第99号(2012/08/20)からの転載です。

『ティッピング・ポイント』という本の文庫化版。私の好きな書き手の一人、マルコム・グラッドウェルの本です。

副題は「ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則」。

ソーシャルメディアの浸透で、「口コミ」が持つ影響力が改めて認識し直されていますが、本書はどのようにして「口コミ」が広がっていくのか、そしてその背景を考察した内容になっています。

本書のポイントは、次の文章を引用すれば十分でしょう。

本書はある発想をめぐる伝記であり、その発想はじつに単純なものである。たとえば、それまで知られていなかった本が一躍ベストセラーになる現象や十代の喫煙率の上昇、あるいは口コミによる伝播、あるいは日常生活上の不可思議な変化理解するには、それを伝染病のようなものとして考えるのが一番だということである。アイディア、製品、メッセージ、行動などはウィルスのように広がっていくのである。

情報伝達を伝染病のように捉える。

これが本書の根幹となる思想であり、もっとも卓越した部分でもあります。

ウィルスは人間を(あるいは生物を)媒体として、広範囲に広がっていきます。彼らは別に人を攻撃して滅ぼしてやろう、という意志を持っているわけではありません。彼らなりの生存戦略をまっとうしているだけの話です。

Twitterについて考えてみましょう。

何か面白いツイートを見かけたとします。その時、あなたは「自発的」にそのメッセージを他の人に伝えるためにリツイートボタンを押すかもしれません。そうして、あなたの10人なり100人なり1000人なりのフォロアーにそのつぶやきを広めます。広がった先でも似たような風景が広がるかもしれません。

上の状況は視点を変えるとこのようにも捉えられます。

「メッセージの面白さに誘発されて、人がその伝達を補助した」

お花畑をイメージしてください。花、花粉、ミツバチ。この三者の関係です。

ミツバチは懸命においしいミツを運ぼうと人生の時間を費やしますが、その裏側では花粉を広範囲にまき散らす、という働きも担っています。その働きをミツバチが意識しているのかどうかは私にはわかりません。ただ、花の視点から見た場合、ミツバチはあくまで媒介者でしかありません。主人公をサポートするキャラクターのような存在です。

もし、情報というものに視座を設定できるとするならば、人間はあくまでその情報の勢力を拡大していくための存在という風に捉えられるかもしれません。人が賢明に高速なインターネット設備を全世界に広げ・そして維持しているのは、ミツバチが必至に働いている姿に重なります。

話の脱線が大がかりな方向に流れ出したので、本書の話に戻ります。

本書の原題である「The Tipping Point」(ティッピング・ポイント)とは次のような意味です。

 あるアイディアや流行もしくは社会的行動が、敷居を越えて一気に流れ出し、野火のように広がる劇的瞬間のこと。

この劇的瞬間に至るための原則をグラッドウェルは次の3つにまとめています。

原則1 少数者の法則
原則2 粘りの要素
原則3 背景の力

原則1については、先日紹介した『ウェブはグループで進化する』で否定的な視点が提示されていましたが、よくよく観察してみると、両者が示すものは近い地点に落ち着きます。これについては、現在進めているプロジェクトの中でできるだけ詳しく考察してみる予定です。

原則2は、同じメッセージでも記憶に残る(粘る)表現とそうでない表現がある、ということです。この原則についてはマーケターだけでなく、クリエーターも意識すべきことです。

たとえば、私はときどき「例示は理解の試金石」という言葉を思い出します。スリムでリズムが良く、真実の姿を照らし出したとても良い言葉です。この言葉に最初に触れたのが二年前で、そこから大量のインプットをおこなってきました。普通なら記憶は薄れ、ノイズに紛れてしまっているところです。が、時折この言葉が思い出され、その言葉に出会ったとある小説を思い出します。

「具体例をあげてみると、自分が理解しているかどうかが確かめられる」という表現では、間違いなく雑多な記憶の中に溶け込んでいたでしょう。粘る要素の有無はメッセージの表現において大きな違いを生み出します。

と書きながら、自分自身もこの「粘り」の要素が弱いな、と感じています。まったく関係ない話ですが。

原則の三つ目が、「背景の力」。私たちの内面(心理)は、外部によって影響を受けている、というお話です。これはジブンのトリセツで取り上げているお話なので、詳細は必要ないでしょう。

本書には「インターネット」の話はほとんど出てきません。現実の人間ネットワークがいかに爆発的流行を生み出すのか、というお話です。が、今私たちがウェブ上で人間ネットワークを作っているのならば、本書で紹介されているお話は、そのまま応用が利くはずです。

というわけで『ウェブはグループで進化する』をお読みになって、面白いと感じたかたは本書もぜひチェックしてください。

以上です。

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急に売れ始めるにはワケがある ネットワーク理論が明らかにする口コミの法則(ソフトバンク文庫)

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