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Weekly R-style Magazine 「読む・書く・考えるの探求」 2018/07/23 第406号

はじめに

はじめましての方、はじめまして。毎度おなじみの方、ありがとうございます。

7月の23日ということで、新刊の発売日が迫ってきました。

すでに見本分は出版社さんから送っていただいているのですが、何度やってもテキストエディタで書いた「文章」が、「本」という立体物に変身することには不思議な感覚が伴います。やや極端に言えば、魔術がはたらいたような感じがするのです。

もちろん魔術でもなんでもなく、いろいろな人の手と工程をくぐり抜けてきたからこそなのですが、そこが見えないのがポイントなのでしょう。ブラックボックス=魔術的。プリントアウトされたものが製本化される過程を目にしていれば、もしかしたら、ちょっと違う感覚になるのかもしれません(ならないのかもしれません)。

とりあえず、はやい書店さんだと26日くらいから店頭に並ぶそうですし、そう遅くはないタイミングで電子書籍版も発売される予定なので、「ちょっと気になっているよ」という方はちょっとチェックしてみてください。よろしくお願いします。

〜〜〜ビールサーバーの悲劇〜〜〜

こんなニュースがありました。

100円で生ビールが買えるサーバーを店舗に設置する、という施策です。ビール好きとしては好ましく、元コンビニ店員としては「絶対に止めて欲しい」施策です。

売上げ的には、多少良い影響はあるでしょう。ビールだけでなくつまみも売れる可能性がありますし、大抵のつまみは客単価が高いので、そこから売上げへの貢献は計算できます。

しかし、極度の酔っ払いほどたちが悪いものはありません。これは今までの接客経験から言える、かなり確度の高い事実です。

ある人はけんか腰になり、ある人はひたすら絡らんできて、別のある人はコンビニの床に転がって寝始めます。そうなったらもう、警察を呼ぶしかありません。

もちろん、そんなお客さんは全体の1%ほどかもしれません。しかし、そういうお客さんがひとりでもいれば、お店の営業的にはかなり大変なことになってしまいます。お店の雰囲気も殺伐とした感じが生まれるでしょうし、そのことが他のお客さんに与える影響もあります。

飲酒運転等の問題もあるでしょうが、それ以上に客層に与える影響も見逃せません。現場のスタッフの気苦労も間違えなく増えます。

いくら売り上げを作ることが大切だといっても、やはり「超えてはならない一線」みたいなものはあって、それがこのビールサーバー設置なのだと思います。だからこそ、ネットでも大きな反響があったのでしょう。

一つ言えることは、この施策はセブンがこれまで貫いてきた「商品力で勝負する」というのとは明らかに毛色が違う、ということです。何かしら内部的な変化が起きているのかもしれません。

という勘ぐりはさておくとしても、たぶん他の仕事にだって「超えてはならない一線」というのがあって、それが活動の継続の明暗を分けるのだと想像します。

〜〜〜動画と「日記」の研究〜〜〜

脱稿し終えたので、いろいろ溜めていたタスクを少しずつ片付けています。

まず、Scrapboxの簡単解説動画を作りました。一つ2分程度の短い動画です。

イメージ的には「3分クッキング」のように、1トピックを手短に紹介するというコンセプトになっています。今後も、何かネタがあればやってみます。本の紹介も似たようなコンセプトなら手軽にできるかなと想像中です。

もう一つ、新しく進めたのが『「日記」の研究』(仮)です。

こちらはnoteに書いていく記事で、私ひとりではなく、日記についていろいろ書きたいブロガー(的な人たち)がそれぞれに記事を書いていく、というコンセプトになっています。もし十分な量の原稿が集まるなら、それをムック本的にまとめて電子書籍化しようとも考えています。

ちなみに、この企画自体はオープンなので、ご興味がある方は以下のScrapboxプロジェクトをご覧ください。

やっぱり、こういう動きが簡単にできるのがScrapboxのよいところですね。情報と人を集めやすい気がします。

〜〜〜買えた文學界〜〜〜

村上春樹さんの新作が雑誌「文學界」に掲載されているという話は聞いていたのですが、そのときは原稿カーニヴァルが開催されていたので、「脱稿したら、そのご褒美として読むぞ」と買い控えをしていました。

で、ようやく脱稿して先日書店に出かけたところ、すでに来月号が発売されています。そりゃ毎月発売されているのですから、一ヶ月経てばラインナップは変わります。

「とりあえず、買うだけ買っておけばよかった……」としょんぼりし、Kindle版も発売されていないことを確認したのち、「しゃーないAmazon(の通販)で買うか」とおぼろげに決意し始めていたところ、たまたまよく行く書店の特集コーナーで「村上春樹関連作品」が展開されており、そこに一冊だけバックナンバーの文學界がポツンと陳列されていました。

10年ぶりに、生き別れた弟と再会したような気分で(あくまで気分です)、その一冊を手に取り、そのままレジへと直行しました。

なんというか、こういう体験は嬉しいわけです。まるで私に向けて陳列されていた(≒私との出会いを待っていた)かのように感じられます。むろんそれはきわめて個人的な錯覚(幻想)なわけですが、でも、いつでもどこでも買えるネット販売では、こういう体験はなかなか得られません。

書店という場所は、ネット書店に比べれば不便な部分がたくさんあるわけですが、そういう機能性だけで人間の「買い物」をすべて評価できるかというと、たぶんそうではないと思います。でもって、その辺に一つの鍵がありそうだとも感じます。

〜〜〜自分の領分〜〜〜

以下のツイートを拝見しました。

とあるイベント( http://www.koubundou.co.jp/news/n25021.html )の実況ツイートなのですが、はるか昔に自分が言った言葉が言及されています。もちろん、こんなにこてこての関西弁ではなく、「俺には無理ですよ。実際の学生さんが身近にいるわけじゃないから」みたいな言い方だったと思いますが(記憶はあいまい)、たしかにこの旨の発言をした記憶はあります。

で、これは「大学生向けの知的生産の技術の本を書いてくださいよ」と言われたときの返しのセリフだったと思います。

もちろん、「大学生向けの知的生産の技術の本」が書けるか書けないかで言えば書けると思います。一応は物書きですから。でも、それをもっとうまくやれる人がいるなら、その人が書いた方がいいだろうとも思います。

でもって、その「うまくやれる人」というのは、現実の(つまり想像のではない)大学生のニーズ、課題、その時点での実力等々を把握している人でしょう。

本の作り方というのは、前提とする知識や技能によって結構変わってきます。たとえば、『カフェパウゼで法学を』という本では、頭の方にメールの書き方が紹介されていますが、私が構成案を立てたとしたら、このテーマはまずピックアップしなかったでしょう。そうした技能を「前提」に織り込んでしまうからです。

その意味で、もし私が対象読者を大学生とする本を書くなら、「将来知識労働者になりたい人向けの知的生産の技術」の本を大学生でも読める文章で書く、という形になるでしょう。でもって、それは『カフェパウゼで法学を』のように大学生活で直接役立つ本とは少し(あるいはかなり)異なった毛色になるはずです。

単純に「できるか・できないか」だけで判断するのではなく、「自分に何ができるか」「自分の立ち位置で何ができるか」を考えるのは結構大切で、それが「自分の領分」を見定めることにつながっていくのだと思います。そして、その先に「自分の仕事」というのが立ち上がってくるのでしょう。

〜〜〜Q〜〜〜

Q. 自分の仕事や人生において「超えてはならない一線」というのをお持ちでしょうか。それはどんな風に生まれてきたのでしょうか。

では、メルマガ本編を始めましょう。

今週は、連載四つとなっております。ひさびさにショートショートも書きましたので、気分転換にでもどうぞ。これまでと掲載順が少し変わっていますが、実験中です。目次は以下。

――――――――――――――――
2018/07/23 第406号の目次
――――――――――――――――

○「変容した構成について」 #物書きエッセイ
 物を書くことや考えることについてのエッセイです。

○「テンプレートの活用」 #メモから始める仕事術
 タスク管理を掘り下げていく企画。メモを中心した仕事術について考えています。

○「自由に考えられないとどうなる」 #リベラルアーツ再考
 現代的なリベラルアーツについて検討している企画です。

○「全自動人生」 #ショートショート
 読み切りのショートショートです。

※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。

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○「変容した構成について」 #物書きエッセイ

R-styleで、『Scrapbox情報整理術』の執筆に用いたアウトラインを紹介しました。

上の記事でも言及していますし、以前チラッとこのメルマガでも書いたのですが、本書の構成案は一度ガラッと動いています。

当初は以下のような目次案でした。

・序章 現代における情報整理の課題
・第一章 知のコラボレーションツールScrapbox 
・第二章 Scrapboxの操作の基礎
・第三章 新しい情報整理について
・第四章 Scrapboxを実践する
・第五章 Scrapboxをカスタマイズする
・終章 新しい情報マネジメントシステムに向けて

まず冒頭で、現代的な情報整理が抱える課題を指摘します。これはもちろん、「〜〜という問題をScrapboxが解決してくれるのです」という話の流れを想定した配置です。ビジネス書・ノウハウ書でよく使われる構成ですね。

その後に、「そもそもScrapboxって何?」という話から始め、基本的な操作を説明した後で、Scrapboxの中核となる「ネットワークによる情報整理」を説明して、あとは実際にどんな風にScrapboxを使っているのかの紹介と、個人用途に合わせたカスタマイズの話をして本編は終了。その後、情報マネジメントシステムの未来像をラフスケッチして閉幕、という流れです。

別段悪くはありません。問題点は見つからないでしょう。

それがまず、こう変わりました。

・序章 現代における情報整理の課題
・第一章 知のコラボレーションツール「Scrapbox」
・第二章 ネットワーク型による情報整理
・第三章 Scrapboxのプロジェクトについて
・第四章 Srcapboxの記法・操作
・第五章 Tips&カスタマイズ方法
・終章 新しい情報マネジメントシステムに向けて

要素は似通っていますが、順番が変わっています。「ネットワークによる情報整理」が二章に来て、操作方法などについてが第四章に送られています。このときの私が何を考えていたのかを完璧に思い出すことはできませんが、操作方法の話よりも、ネットワーク型情報整理の話の方が重要だ、と考えていたことは想像に難くありません。操作については後回しでOKだと判断したのでしょう。

その構成案が、さらに揺れていきます。

・第一章 知のコラボレーションツールScrapbox 
・第二章 Scrapboxの操作の基礎
・第三章 新しい情報整理について
・第四章 Scrapboxを実践する
・第五章 Scrapboxをカスタマイズする
・終章 新しい情報マネジメントシステムに向けて

こちらはやっぱり、操作の説明が二章に来ています。「はたして、この二つはどちらが本書の構成案として機能するだろうか」。深く悩み、いろいろ検討を続けていました。

とは言え、立ち止まってばかりいるわけにもきません。「順番はどうあれ、書いていこう」。そのような──極めて前向きな──姿勢の中で文章を書いていたときに得られた着想が、がらりと構成案を変化させました。

・ようそこScrapboxへ
・Scrapboxはプロジェクトとページの二つの要素で構成される
・Scrapboxはwikiベースであり階層構造ではなくネットワーク構造で情報を整理する
・Scrapboxはひとりでも複数でも使える
・Scrapboxはカスタマイズして楽しめる(使える)
・知のコラボレーションで時代を切り開く

着想のもとになったのは、二つめのセクションタイトルになっている「Scrapboxはプロジェクトとページの二つの要素で構成される」という部分です。この文章が、第四章のプロジェクトについての説明を記述しているときふと出てきました。

なんてことのない文章です。トリッキーさも、キャッチーさもありません。しかし、この文章を書き終えて、自分で読み上げた瞬間に、私の頭の中に「この文を冒頭に持ってきた場合の流れ」が浮かんできました。そして、それがとてもスムーズな流れに思えたのです。慌てて私は、その構成の概要だけを書き出しました。それが上のアウトラインです。

私は少し悩みました。その段階で、すでに第四章までは(ラフに)書き上がっています。この構成案に直すならば、文章も書き直さなければなりません。はたして、その手間をかけるだけの価値があるだろうか。

……Yes!

当初の構成案でも「問題」はなかったと思います。間違ったことは書いていませんし、話も接続し、統一感はあります。しかし、「綺麗に流れているか」というとなかなか微妙なところです。特に、新しく頭に浮かんできた構成案に比べるとギクシャクする感覚は否めません。

それもそのはずです。倉下忠憲ver.Aという脳みそがあり、それが当初の目次案を構成しました。そして、執筆を進めていく中で、私の脳は倉下忠憲ver.Bへと変化しました。ver.Bの脳は、それぞれの項目が「なんであるか」をより深く理解しています。だから、どうすればそれがよく流れるのかについて思いつきやすい状態になっているのです。

残り時間があまりに少なかったり、ver.Bの思いつきがもともとのものと大差ないならば、変更の決断は下さなかったでしょうが、今回は(あくまで実感として)新しい方が良さそうです。それならもう乗り換えるしかありません。

幸い、大幅な記述の追加が必要になることはなく、既存の要素の再配置とそれにともなう記述の変更が大半だったので、なんとか仕上げることができました。そうしてリニューアルされた構成案が以下です。

・はじめに
・序章 ようこそScrapboxへ
・第一章 Scrapboxの構成
・第二章 Scrapboxはネットワーク構造で情報を整理する
・第三章 Scrapboxで知をつないでいく
・第四章 Scrapboxはカスタマイズして楽しめる(使える)
・終章 知のコラボレーションで時代を切り開く

でもって、それをさらに整えたのが完成版の目次です。

●PROLOGUE ようこそScrapboxへ
●CHAPTER-1 Scrapboxの構成と入力方法
●CHAPTER-2 Scrapboxはネットワーク構造で情報を整理する
●CHAPTER-3 Scrapboxで知をつないでいく
●CHAPTER-4 もっと便利にScrapboxを使う
●EPILOGUE 知のコラボレーションで時代を切り開く

さて、この目次はうまく機能しているでしょうか。

そればかりは実際に読んでいただくしかありませんが、個人的には結構「変わった」構成になったと感じています。最初に作った「よくある構成案」をいったんバラして、再構成しているので、ずいぶん珍しい配列になりました。むろん、目新しさを狙ったわけではなく、こうした方が読みやすく・面白くなるだろうという意図が働いています。

さらにもう一つ付け加えると、本書のEPILOGUEは、他の章に比べると少しだけ話が難しくなっています。これも、私のこれまでの本作りでは珍しい部類に入ります。

今までは、すべての章の粒度と難易度を揃えることを是としていたのですが、ここ最近は「必ずしも、そればかりが構成案ではないな」と考えを改めています。

多少難しくても読者さんはついてきてくれるのではないか。完全に理解できなくても何かしら伝わるものがあるのではないか。そういう部分が全体のうちに10%程度含まれていてもよいのではないか。そんな考えに傾きつつあります。

このジャッジメントが本当に正しかったのか、本書が本としてしっかり機能しているのかどうか。これもまた、実際に読んでいただくしかありません。

上記のような新しい試みもあるので、本書の発売に関しては結構ドキドキしております。とりあえず、発売まであと少し。楽しみでもあり、怖くもある今日この頃です。

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8,349字

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