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野生のタスク管理/「超」メモ帳徹底解剖/断片的な思いつきについて

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2019/07/15 第457号

はじめに

はじめましての方、はじめまして。 毎度おなじみの方、ありがとうございます。

先日、長らくお休みしていたポッドキャスト番組「うちあわせCast」を再開しました。

今回も非常に面白いお話が聞けたと思います。ちょっと長いですが、お休みの日にでもゆっくりお聴きくださいませ。

〜〜〜記事まとめと意外な展望〜〜〜

R-styleの記事まとめ記事第三弾を作成しました。

これで「iOSショートカット」「Scrapbox」「Scrivener」の三つのコレクション記事ができたことになります。今後もこのコレクション記事を増やしていき、R-styleのアクセス容易性を高めていく所存です。

が、それはそれとして、今回こうしてまとめ記事を作ってみたことで、

1.以前の記事内容が古くなっていることが自覚できた
2.複数のツールに言及する記事を書きたくなってきた

という「効果」が生まれました。前者は記事を読み直すことで生まれた効果で、後者はまとめ記事を並べることで生まれた効果です。でもって後者は、前々から考えていた「複数の知的生産ツールに言及するノウハウ本を書きたい」というニーズに見事に合致します。

言い換えれば、こうして過去記事をまとめたことは、「複数の知的生産ツールに言及するノウハウ本」の下準備を行ったとも言えるでしょう。これは、事前にはまったく想定していなかった「効果」です。

このような事実に直面するたびに、私は「自分の思い通りに完璧に制御すればうまくいく」という考えに疑問を持つことになります。もし私が「想定した」通りの行為を行い、「想定した」通りの結果しか手にできない場合、このような「効果」は抑制されていたことでしょう。それは、単純にいって損失と呼んで差し支えありません。

だから、思い通りにいかないものがあるというのは、可能性なのです。「自分の想像力」の限界に対する可能性です。

〜〜〜数珠忘れを防ぐ〜〜〜

法事に出かけると、1/8程度の確率で数珠を忘れます。もともと仏教徒ではなく、信心みたいなものも皆無なので、「礼儀として最低限必要な服装」には注意を払えても、宗教的装置はつい置き去りになってしまうのでしょう。

そこで、妄想です。

マスター「アリス、7月15日に法事の予定を入れておいて」
アリス「わかりました。会場はオンラインでしょうか」
マスター「今回はリアルの会だ。住所はメールに入っているよ」
アリス「はい。持ち物リマインダーはセットされますか?」
マスター「今回は身内だけの会だから香典はパスして、それ以外の持ち物をリマインダーにセットしておいて」
アリス「数珠以下8点のアイテムを当日のリマインダーにセットしました」
マスター「ありがとう」

こういうシステムがあると俄然楽チンですね。

スケジュール(イベント)には、まったく新しいものと定型にはまるものがあり、定型にはまるものに関しては、必要とされる情報もある程度はパターン化できます。セミナーだったら会費、会場までの地図、開始時間。会議だったら、必要な資料やアジェンダ、参加者のリストといった具合です。

で、それらのイベントは「セミナー」とか「会議」とか「法事」という共通のキーワードを持つので、それに反応させる形で、必要な情報のテンプレートを呼び出すことも可能でしょう。

そこまでツール(というかなんというか)が進化してくれれば、セルフマネジメントもより身近な行為になりそうです。でもって、セルフマネジメントが得意な人は、マスターとアリスの会話を自分一人だけで完結させられているのだとも思います。

〜〜〜下読み〜〜〜

ようやく「日常生活」が再起動しつつあるので、長らく停滞していた『僕らの生存戦略』の本文を書き下ろし始めました。

まだ全体像は固まっていませんが、とりあえず書いてみないとわからないことも多いので、手探りでの執筆開始です。

で、せっかく本文を書き下ろすのだから、これを下読みしてくれる人を募集しようかなと、ぼんやり考えています。セルフパブリッシングでは編集者さんがいないので、原稿を読み、疑問点や改善点を指摘してくれる人を、インターネット経由で集めるわけです。
※結城浩先生の真似です。

これは単純に原稿のクオリティアップのためなのですが、それとは別に「締切効果」の発生も期待できます。なにしろ、セルフパブリッシングでは締め切りの感覚がまったくなく、いくらでも時間を使えてしまいます。やり直そうと思えば、いくらでもやり直せますし、構成を考えるのに三年間を費やすことだって可能です。

が、その進捗では、物書きとしての仕事はなかなか成立しません。一定の有限化装置が必要です。

「月くら」計画を進めていたときは、明示的な締め切りがあったので定期的に出版できていましたが、現状ではそれがまったく機能していません。下読みしてくれる人をプロジェクトに「巻き込む」ことで、自分の中にも明確な締め切り感が生まれるのではないかと予想しています。

とは言え、どれくらいの人数を、どんな風に募集すれば運用できるのかはまったく目処がついていませんので、最初はごく少ない人からスタートするかもしれません。

もし興味がある方は、リプライなりコメントなりリプライなりで教えていただけると助かります。

〜〜〜狭い怒り〜〜〜

Twitterをみてると、たまにものすごい剣幕で他の人にリプライを送っている人に遭遇するのですが、その意見内容というのが、実に視野が狭いのです。おいおい、もうちょっと広い視点を持とうよ、と思うのですが、よくよく考えれば、「広い視野を持ち多角的な観点から怒鳴り散らしている人」を見かけた経験はありません。

ようするに視野が狭いから、怒りが沸騰状態になっているのです。かかる圧力が一定でも、面積が狭ければ強い力として発現する、というのに似ていますね。ところてん的怒り。

もちろん難しいことではありますが、自分が怒りに駆られようとしているその寸前に、「これって、自分の視野が狭くなっているんじゃないか?」と思い直せるなら、多少の鎮火には役立つでしょう。もちろん、その鎮火が「善」であるとはまったく思いませんが。

〜〜〜『三体』〜〜〜

先週紹介した『三体』を買って読んでますが、すごく面白いです。

いろいろな宣伝文句を目にしたり、帯でも煽りに煽られていたので、「この評価は少し割り引いて受け取っておく必要があるな」と心構えしながら読み始めたのですが、実際ページをめくりはじめたら「これは評価されるのも納得だ」と思える非常に力強い作品でした。

中国の主義・思想的な歩み、この社会の科学の進歩、そしてハードなSF要素を兼ね備えながらも、ノリのよいストーリーテリングが維持されています。作品自体が多重性を持ちつつ、内容自体はちっともややこしくありません。

いやはやすごい。

三部作ということなので、続巻が出るまでじりじりした日を過ごすことになりそうです。

〜〜〜「らしさ」とパターン〜〜〜

次の記事を読みました。

カード名、カードタイプ、コストを入力すると、「それっぽい」カードを自動的に作成してくれる、という面白いサービスです。URLは以下。

で、実際にいくつかカードを作ってみたのですが、これが実に「それっぽい」のです。ランダムに文字列が埋め込まれた感じはまったくなく、むしろゲームの開発陣が作ってきそうなカードの雰囲気が漂っています。

例1.

Fire Spear {1}{R}{R} (uncommon)
Instant
Fire Spear deals 3 damage to target creature. When a dragon is put into an opponent's graveyard from the battlefield this turn, Fire Spear deals 3 damage to that creature's controller.

例2.

Call Of The Dead {3}{B}{B} (rare)
Sorcery
Put target creature card from an opponent's graveyard onto the battlefield under your control. It gains haste. Exile it at the beginning of the next end step. If that creature would leave the battlefield, exile it instead of putting it anywhere else.

このことからわかるのは「それっぽさ」とは、ある種のパターンだということです。そのパターン内に収まっているとき、私たちは対象に「それっぽさ」を感じます。

そして、人間の創造性とは、その「それっぽさ」を意識しながらも、そこから跳躍できる力なのだと思います。言い換えれば、既存の「それっぽさ」から見ればノイズだが、しかし「そのそれっぽさ」を革新できる力。ここが最後の人間の土俵になっていくのでしょう。

〜〜〜DPZデビュー〜〜〜

以下のツイートで衝撃の事実を知りました。

なんと、以下のデイリーポータルゼットの記事で拙著が紹介されている(というか、Amazonリンクが貼られている)のです。

世の中、何が起こるかわかりませんね。実に楽しく、嬉しいものです。

〜〜〜ツッコミどころ満載〜〜〜

ショッピングモールを歩いていたら、家族連れとすれ違いました。

お母さんらしき女性が、お父さんらしい男性に「もっと男の子らしい強さをしつけなければダメでしょ」という旨のことを、ちょっと周りが引くくらいの大声で怒鳴っておられます。子どもは、どこ吹く風な雰囲気で、足早に駆けていきました。

いちいち細かく指摘することはしませんが、実にツッコミどころが満載で、リアルに頭がくらくらしてきました。

今日もどこかで、「男の子らしい強さ」が再生産されているのでしょう。

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。

Q. 最近強い怒りに駆られた経験はお持ちでしょうか。そのとき、どんな風に対処しましたか。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。

今週も「考える」コンテンツをお楽しみくださいませ。

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2019/07/15 第457号の目次
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○「野生のタスク管理」 #BizArts3rd
 タスク管理の裏側にある価値観について。

○「「超」メモ帳徹底解剖」 #知的生産の技術
 『「超」AI整理法』で紹介されている「超」メモ帳の検討です。

○「断片的な思いつきについて」 #知的生産の技術
 前回の続きで、こざねでもカードでも扱えない情報の扱い方を考えます。

※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。

○「野生のタスク管理」 #BizArts3rd

何かしらの「成功法」があったとしましょう。成功に至るためのノウハウです。

そのノウハウがどれだけ有効であるかは別にして、そのノウハウの前提には「成功」の定義が潜んでいます。

「何が成功なのかは全然よくわかなんないんですけど、こうすれば成功できます」という言説は成立しません。つまり、「こうすれば成功します」という言説の中には、必ず「成功」の定義が入っていることになります。

だからこそ、自分が求めている「成功」と、そのノウハウが目指そうとしている「成功」が一致するのかは、注意深く検討しておきたいものです。

■GTDの前提

GTDの解説書である『全面改訂版 はじめてのGTD ストレスフリーの整理術』にも、いくつかの前提があります。

 >>
 自らをとりまく世界に対して適切なかたちで関わっていくこと
 <<
 >>
 ある時点で何をすべきかについて最善の選択をし、現時点で行っていないことに対して思い悩んだりストレスを感じないようにする手法だ
 <<
 >>
 何をする場合でも、これが今やるべきことだという確信をもち、ゆとりをもってこなしていければ最高だろう
 <<

ここには、

「自らをとりまく世界に対して適切なかたちで関わっていくこと」がよいことである
「ある時点で何をすべきかについて最善の選択を」することがよいことである
「現時点で行っていないことに対して思い悩んだりストレスを感じない」ことがよいことである
「何をする場合でも、これが今やるべきことだという確信をもち、ゆとりをもってこなしていけ」ることがよいことである、

という前提があります。最後の一つに至っては「最高」であるとの評価もあります。ここに、前提となる価値判断が入り込んでいるわけです。

もちろん、上記ような事柄が「良いことではない」と主張したいわけではありません。私個人の感覚でも、そうできた方が(できないよりも)はるかに良い状況だとは感じます。

しかしこれが、普遍的であるとまで言えるかどうかはわかりません。そう言い切ってしまうと、切り落とされてしまうものがあるのではないか、という危惧は残ります。

■高度モデルの背景

他にもGTDは「高度モデル」という考え方を持ちます。詳細は割愛しますが、その高度の最高点付近だけを抜粋してみると以下の二つとなります。

・Horizonレベル4 長期的な構想
・Horizonレベル5 人生の目的とその在り方

ここでも「人生には目的があり、それに沿って生きること」こそが素晴らしいことなのだ、という価値観が埋め込まれています。少なくとも、上記の視点を取れば、その日暮らしで気ままに生活することは、良いことだという風には思えないでしょう。

現在の自分の一つひとつの行動が、将来的な・長期的な・自分の人生の大きな在り方に関係していることが望ましい──そのような価値観が高度モデルには存在しています。

そして、そのような考え方から評価すれば、たぶんフーテンの寅さんは及第点をもらえないでしょう。そこに、抑圧の影を感じてしまうわけです。

■階層的な表現

あえて高度モデルを擁護してみると、「気ままに生きることが寅さんの人生の目的なのだから、寅さんも人生の目的に沿って生きているのだ」と言えるかもしれません。

しかし、その場合、「高度」というメタファーはふさわしくないことに気がつきます。このメタファーには階段的・段階的な印象を強く想起させます。寅さんのように地面のレベルと最高度のレベルが一致しているようなイメージは、このメタファーの範疇にはありません。

でもってこれは、マズローの欲求5段階説にも似たものを感じます。階段的・段階的・階層的・ピラミッド的・官僚的なイメージ──上のものほどよいものだ──で構成されているのです。解釈によっては、フロイトの無意識理論やマルクスの唯物論的歴史観もここに加えられるかもしれません。

非常に多くの考え方が似たような共通性を持っています。

■それは普遍か?

もちろん、共通性を持つたくさんの考え方があるのだから、このような見立て方こそが普遍的であると論じることも可能でしょう。

しかし、『パタン・ランゲージ』の著者であるクリストファー・アレグザンダーは、都市はツリー構造ではないと指摘していますし、また1962年に『野生の思考』を出版したレヴィ=ストロースは西洋中心主義を痛烈に批判しました。欧米が進歩的な存在(上位)であり、そうでない野蛮な存在(下位)は劣っているのである、という考え方はあまりに偏っているのではないか? 

そうした疑問を持っておくことは、安易に他者を貶めないためにも有用です。

■階層的でない表現の可能性

別の視点を持ち込みましょう。

松岡正剛さんとドミニク・チェンさんの対談をまとめた『謎床』では、コンピュータの世界が「デスクトップ」というメタファーに席巻されていることに懸念が表明されています。たとえば日本的な「庭」といったメタファーを使ったコンピュータの可能性もあるのではないか。そのように考えることは、レヴィ=ストロースと同様に西洋中心主義とは距離を置く考え方と言えるでしょう。

また、千葉雅也さんの『アメリカ紀行』では、こんなことが書かれています。

 >>
 性のアメリカ的分類をそのまま適用したり、あるいは細分化したりハイブリッドにしたりするのでは取り逃してしまう性のあり方が、日本や中国などにはあるのではないかという視点。アメリカ的分類を無理に使うことで、日本の当事者がかえって悩みを深くする可能性もあるかもしれない。
 <<

ここで言及されているのは「性」に関する分類ですが、ここまでの話を踏まえればもっと広範囲に捉え直せそうです。

つまり、人がいかに生きるべきか/どう生きるのか、ということに関する価値観や情報分類の手つきが、すっかり「西洋的」に染まってしまっていて、別の可能性が見落とされているのではないか、という論を立てられるのです。

■素晴らしい生き方のバリエーション

たしかに大きな目的に向かって一歩一歩進んでいき、それを達成するのは素晴らしいことではあるでしょう。しかし、それだけが素晴らしい人生を生きることなのでしょうか。そうでない人生は素晴らしさが欠落してしまっているのでしょうか。もし、そう考えるとしたら、西洋以外の文化を見下して捉えている人と同じ状況に陥っているのではないでしょうか。

特に、大きな目的に向かって一歩一歩進んでいくような生き方をしていない人を見たときに、非難したくなる気持ちが湧いてくるとしたら、それは要注意です。あまりに考え方が狭くなっている可能性があります。

素晴らしい生き方は人それぞれ形が違いますし、もっと言えば人間は(ある程度までなら)愚かしく生きる権利があります。それを忘れて他者にとやかく言ってしまうのは、一種のパターナリズム的権利侵害です。

だからこそ、普遍的でないものを、あたかも普遍的であるかのように捉えるのは怖いのです。

■おわりに

もちろん、自分が「人生の目的」に沿って生きたいと望むなら、十全にそれを行えばよいでしょうし、そのときにノウハウは非常に活きてきます。

しかし、あたかも「そうあるべきだから」というような見えない規範性に動かされてそうするのは避けた方がよいでしょう。そこには何の納得感もなく、ただ義務感があるばかりで、しかもそれが他者に向けられる「正義」としても機能してしまいます。

自分がどのように生きたいのか、あるいは在りたいのか。そのことについて一度は、考えておいた方がよいでしょう。そうした上で、ようやく自分に合ったノウハウが選択できるようになります。

もちろん、即座に答えが出るものではないので、試しては考え、考えては試す、ということが必要になってくるでしょう。なかなか長い道のりです。

その長い道のりの最終的な結論として、すごく雑に生きてもいいし、いっそ何も管理しなくてもいい、という考えになるかもしれません。多くのことがうまくいかなくても、人は生きていけるし、それで十分という考え方も一つの考えです。

それを安易に否定するこは、是非とも避けたいところです。

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