見出し画像

5000記事のカテゴライズ/執筆裏話 二重構成の困難/ScrapboxとWorkFlowy その1

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2019/02/25 第437号

 
はじめに


はじめましての方、はじめまして。 毎度おなじみの方、ありがとうございます。

ついに、新刊が発売となりました。

正直、この瞬間はまだ「自分は本を書いたんだ」という実感はほとんどありません。仕事に一つのピリオドが打たれた感覚はありますが、それだけです。

で、もう少し後になって、本を読んでくださった方の感想を見かけると、「あぁ、自分は本を書いたのだ」という達成感(と呼べるもの)がジワジワと湧いてくることになります。

で、もうその頃には執筆時の苦労なんてほとんど完璧に忘却されているので、「よし、次も頑張って本を書くぞ」という決意を新たにするわけです。

その繰り返しで、物書きという仕事は成り立っています(たぶん)。

〜〜〜著者が開催する読書会〜〜〜

以前、『ライフハック大全』と『知的生活の設計』が発売されたときに、それぞれScrapboxでのオンライン読書会を実施したのですが、今回の新刊でもやるんですか?ととある方に質問されました。

それを聞いて、「そうだ、やったら面白いかもしれない」といろいろ思案したのですが、そもそも著者が自分の本の読書会を自分で開催するって、非常に厚かましい気がしてきて若干気が引けているところです。

が、そういう話はいったん横におくとして、Scrapboxにおけるオンライン読書会のプロジェクトをどう設定するのか、というのはなかなか興味深い問題です。

・一冊ごとにプロジェクトを立ち上げる
・オンライン読書会用のプロジェクトを立ち上げる
・本の内容に合わせたプロジェクトで個別に実施する

一つめは一番わかりやすい方法ですが、数を重ねるごとに参加するプロジェクトの数が膨大になってくる問題があります。まあ、一定期間を過ぎたら、プロジェクトから抜けることで、その数を抑制することは可能でしょうが(書き込みたければまた参加すればいい)、手間であることは間違いありません。

逆向きのわかりやすい方法が、オンライン読書会専用のプロジェクトを作り、そこであらゆる本の読書会を実践する方法です。これも話は簡単ですし、また本同士の知識がプロジェクト内でリンクする、というメリットもあります。

ただし、あらゆる本、という条件を考えると、プロジェクトの中身が相当雑多になることが予想できます。その点が良い方向に働けばいいのですが、利用者の混乱が深まる危険性もあります。

で、三つめの方法は、その中間辺りの方法です。

今回の新刊であれば、どう考えてもタスク管理の本ですので、「タスク管理のScrapbox」プロジェクトで実施し、たとえば知的生産に関係する本ならば、「考えて、生み出す技術」プロジェクトで実施する、という具合です。

もともとそのプロジェクトに所属しているメンバーは、その分野に興味・関心を持つ人ばかりなのですから、読書会が盛り上がることは想像に難くありません。また、そのプロジェクトに保存される他の知識と、本の知識がリンクする面白さもあります。

で、情報のリンクを重視する、というScrapboxの方向性から考えれば、二つめ、あるいは三つめのやり方が良さそうな気がします。

あるいは、折衷案として、このすべてのパターンを使う方法もあります。具体的には、まずその本だけのプロジェクトを作成し、そこで読書会を行います。そして、一通り話が出尽くした段階で、そのプロジェクトをエクスポートして、「読書会用」のプロジェクトと、用途事のプロジェクトの両方にインポートするのです。

こうすることで、読書会の最中は雑多なコンテンツに混ざり込むのを避けつつも、最終的にそれぞれの知識は、他の本、あるいは他の専門知識とリンクを形成できます。

ただ、このやり方の場合、読書会の最中では、他の知識とのリンクが発生しない、という問題点は残ります。それはそれでまあいい、という割り切りであれば、こうした折衷案も一つの選択肢に入ってくるでしょう。

とりあえず、こうして一通り考えてみると、

・共有するメンバーと盛り上がり方
・リンクする知識の性質

の二点が考慮すべきポイントだということになるでしょう。もし、Scrapboxでのオンライン読書会の実施を考えておられる方がいらっしゃるなら、参考にしてみてください。

〜〜〜抜け落ちる情景〜〜〜

2月22日の朝、出かけようと家を出たところで、ヤマト運輸のトラックが前に止まりました。

もしかして、としばらく待っていると、ドライバーさんが「倉下さん?」と尋ねてきたので、「はい」と答えると、やや大きめの荷物を持って駆け寄ってきます。

「今から出かけられるところでした?」
「はい」
「よかった、間に合って。じゃあ、こちらにサインを」
サラサラサラ
「〈書籍〉、ですね。勉強用とかですか」
いや、それ僕が書いた本の見本誌なんですよ、と言うのはどう考えても面倒くさい会話に発展しかねないので、曖昧にええ、と頷く。
「そのマスク、もしかして花粉症ですか」
「はい。もう結構来てるみたいですよ」
「僕はまだなんですけど、この季節大変ですよね」
「ほんとに」

そう言って荷物を受け取ると、ドライバーさんは次の配送先に向かってトラックを発進させていきました。

というような日常の一場面を、仮に業務日誌的に簡素に書けば「出版社から見本誌が届いた」という一文になります。そして、この一文にはどこにも間違いは含まれていません。

しかし、その書き込みでは、私は上のような他愛もないやりとりを想起することはまずないでしょう。

良いとか悪いとかではなく、情報を圧縮するということは、常にそういうことを含みます。

〜〜〜電子書籍と焦り〜〜〜

最近少しずつ、ライトノベルは電子書籍で買うようにしています。セール対象品だけでなく、新刊もぼちぼちと電子書籍に移行中です。

で、これまでは、ライトノベルレーベルの発売日(たとえば電撃文庫は毎月10日)に、書店に向かい、そこで新刊を物色して購入する、というルーチンを行っていました。もちろん、ネットで下調べ(具体的に出版社のサイトをチェック)はするのですが、最終的に買う判断をするのは書店です。

しかし、電子書籍に移行すると、こうしたルーチン(というよりも一種の儀式)が少しずつ消滅していきます。最初の頃は10日にBookWalkerのサイトをチェックしていたのですが、電子書籍の場合は、紙の本と違ってそのとき慌てて買う必要はありません。なんなら読みたくなったタイミングで買えばOKです。

紙の本で新刊を買っていたときは、新刊コーナーから移動されてしまうと極端にその本を見つけにくくなる問題と、そもそも返品されてしまって入手できないという問題があり、発売日当日に買うことが習慣になっていました。実際に読むのがその一ヶ月後であったとしても、そのとき買っておかないと買えなくなる(買いにくくなる)のですから、「買う」の一択になります。

しかし、電子書籍ではそのような煩わしさからは解放されます。

これは一見良いことのように思えるのですが、書き手に視点を移せばどうなるでしょうか。

単純に考えれば、そのような儀式性の排除は、新刊の瞬間的な売上げが落ちることを意味します。そして、ライトノベルなどの作品の続巻が発売されるかどうかは、発売直後からある程度短期間の売上げで判断されるのではないでしょうか。

となると、「発売日にわざわざ買わなくて良い」という状況は、連載を望む作家にとってはあまり嬉しくない事態と言えそうです。

別の見方をすれば、紙の本オンリー時代では、「新刊のうちに買っとかないと入手が困難になる」という状況と、「その本の人気を短期の売上げで測る」という指標が、うまく噛み合っていたとも考えられます。が、いつ買ってもたいして変わらない、という状況が生まれつつあるのですから、指標の設定もまた、新しく考案される必要があるのでしょう。

〜〜〜気になった本〜〜〜

今週見つけた本を紹介します。

 >>
 関口ハジメ(小5)はみんなが見えない世界を数学で解き明かしたい。そんな彼は老数学者・内田豊と出会った。天才的な才能があるハジメは内田に導かれ、才能を広げていく・・・。数学がちょっとやりたくなり、世界の見え方が変わってくる漫画、スタート。
 <<
 >>
 「もうひとひねりほしい」と言われたときに!
アガサ賞受賞の著者が教える、物語創作に必須のメソッド。
「TRD」をつかいこなして、読者を熱中させるプロットの書き方をマスターせよ!
 <<
 >>
 名著『ルネサンス 経験の条件』から17年――。
 近代芸術はいかに展開したか。その根幹から把握する、美術史的傑作。
 <<
 >>
 DNA、iPS細胞、遺伝子組換え、臓器製造……愛娘と「僕」が倫理なき生命科学の最先端を探るサイエンス<ノン>フィクション。
 <<

〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQです。正解のない単なる問いかけなので、頭のウォーミングアップ代わりにでも考えてみてください。

Q. 気になる新刊はすぐ買いますか? 読める体勢が整ってから買いますか?

では、メルマガ本編をスタートしましょう。

今週も「考える」コンテンツをお楽しみくださいませ。

――――――――――――――――
2019/02/26 第437号の目次
――――――――――――――――

○「5000記事のカテゴライズ」 #これからのブログの話をしよう
 膨大な記事があるブログの「適切」なカテゴライズについて。

○「執筆裏話 二重構成の困難」 #物書きエッセイ
 新刊裏話第二弾です。

○「ScrapboxとWorkFlowy その1」 #比較ツール論
 二つのツールを比較してみます。

※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。


○「5000記事のカテゴライズ」 #これからのブログの話をしよう

現在、R-styleの記事が約5400ほどあります。

でもって、私のEvernoteのアイデアノートブックには4000ほどのノートがあり、また、inboxノートブックには2000ほどのノートがあります。ある時期から、inbox→アイデアノートブックという移動をしなくなったので、このinboxのうちのいくつかもアイデアノート成分が含まれていると考えて間違いないでしょう。

ということは、ざっくり考えれば、Evernoteにも5000ほどの蓄積があることになります。

もちろん、この5000という数には、ぜんぜん意味なんてないのかもしれません。それでも、10年くらい何かを蓄積してきたら、このくらいのオーダーになるのだろうな、という見込みは立てられます。

また、それくらいの数が集まると「整理」なんてやってられなくなる、という気持ちも、体感的にはっきりしています。

というわけで、今回はこの5000の蓄積の「分類」について考えてみましょう。

■R-styleの実情

たとえば、R-styleにおいて〈「タスク」の研究〉カテゴリを選択すると、181の記事が表示されます。〈知的生産の現場〉で201、〈Evernoteの使い方〉で165です。

正直に言って、そんなに大量の記事が表示されても困るだけでしょう。どれか一つを読むにしても、どれを読むのかを決めるために、まず大量のタイトルに目を通さなければいけません。よほど強い興味を持っていないかぎり、それを実行する人は稀でしょう。

つまり、このカテゴリは、「個別記事への動線」としてはほとんど機能していないことになります。
※そのカテゴリの直近の記事を探すためには使えます。

では、逆に考えましょう。どのような形になっていれば、個別記事への動線として機能するでしょうか。

■細かく切り分ける

たとえば、まとめページはどうでしょうか。

そのページには、個別記事のへのリンクと、それらの記事の概要が軽くまとまっています。さらに、どの順番から読めばいいのかも示唆されていると良いかもしれません。

ただし、そのページにリンクが100も200もあればお手上げでしょう。自分のウェブ体験の実感から言えば、せいぜい15~20くらいが「上限」になりそうです。

では、目一杯の20として計算してみましょう。

5000 / 20 = 250

つまり、250個の「分類」が必要になります(重複は考えないものとします)。

とは言え、WordPressのカテゴリリストに、250個の項目が並んでしまうのは、それだけで圧迫感を生みますね。となると、それらを「分類」して、階層化したいところです。

7つ程度のカテゴリをまとめた親カテゴリを作ると、だいたい35個できるので、さらにそれを7つ程度でまとめて、全部で5ほどの祖父カテゴリができます。

ここまでくれば、全体の「分類」は綺麗に整います。

■机上の空論

しかし、上の話はいくつかの問題を含んでいます。その中でも一番大きい問題が、「ブログの記事は増え続けていく」ということです。

たとえば、一つ記事をアップすると、それまで20ピッタリだった「まとめページ」にその記事を追加したくなるかもしれません。そうなると、記事の出し入れと新カテゴリの作成が必要となります。

で、新カテゴリが作られると、今度は親カテゴリの上限も変わってきて、その調整が必要なり、それを調整すると祖父カテゴリにも調整が必要になり……、というように、まるでドミノ倒しのように必要な作業が広がっていきます。

上記のような「分類」作業は、ブログの更新を止めた後でならば完璧に機能します(簡単ではないでしょうが)。しかし、動いているブログでは、かなりの困難を伴うでしょう。

となると、更新中のブログの「分類」は、

・そもそも諦めてカテゴリを動線としては使わない
・かなりの労力をかけてカテゴリの整合性を保ち続ける

のどちらかを選ばなければなりません。

これが、以下のページで書かれていることの、ブログでの実際例です。

おそらく1000記事以下のブログでは、「整理」はまだ手に負える作業でしょう。しかし、あるスケールを超えると、階層整理によるナビゲーションはほとんど機能しなくなるか、機能させるために膨大なコストを要求するようになります。

この問題は、基本的には避けて通れません。手間を掛けないという選択はできますが、そうするとR-styleのカテゴリのように「機能としては存在しているが、それを使って必要な記事にリーチすることはできない」という状態に陥ります。

■人の頭はつながっている

言い換えれば、情報整理ツールにおける「カテゴリ」は、情報を絞り込むために存在しているにも関わらず、そこにどんどん情報を追加していけば、絞り込んでいるのにまだまだたくさん残っている状態が生まれてしまう、ということです。

そうなると、WordPressの場合であれば、「めっちゃがんばって整理する」か「過去記事へのリーチを諦めるか」の二択になります。悲しい選択肢です。

もちろんこれは、WordPressだけの話ではありません。蓄積していく(特にデジタル)情報ツールなら、一般的に発生する問題です。

もし、そのツールの使用者が、20記事書くたびに──まるで阿修羅像のように──頭がくるっと回って、それまでとはまったく関係ないことを書き始めるならば、「分類」は比較的容易い作業になるでしょう。そこでは「追加」は必要になっても、「再編」が必要になる可能性は小さいからです。

しかし、人の頭は、基本的に似たようなことを考えています。共通項(リンク)を持つ事柄を考えています。そうなると、「分類」は難しさを増します。「あれをここに入れると、これがこうなって、そうなるとあれが……」みたいなこんがらがった事態が生まれます。

■まとめ

だったら、どうすればよいのでしょうか。「カテゴリ」を捨て、動線を諦め、過去の記事は埋没するままに任せればいいのでしょうか。

おそらく、他の方法もあるでしょう。

それについては、次回考えてみます。

(つづく)

――――――――――――――――――――――――

ここから先は

9,557字 / 3画像

¥ 180

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?