本を書くには時間がかかる/最近のScrapbox事情/万能感を煽る本の弊害

Weekly R-style Magazine ~読む・書く・考えるの探求~ 2019/06/03 第451号


はじめに

はじめましての方、はじめまして。
毎度おなじみの方、ありがとうございます。

5月31日に、梅田の蔦谷書店で開催されたイベントに参加してきました。イベントの感想(というか話を聞いて考えたこと)は、ブログ記事にもしてあります。

当然のように、ライフハックのラの字もないようなイベントだったのですが、そうしたイベントに参加したこと自体がかなり久々で、非常に刺激的でした。

ライフハック系の会であれば、「GTDとはなんぞや」みたいな説明を一切入れずにガンガン盛り上がっていけて、それはそれで楽しさがある反面、今回参加したイベントで出てきたような「フローベルは近代文学の嚆矢である」のような話はあまり出てきません。話題の広がりは限定的です。

つまり、自分が所属するクラスタの集まりは「深まり」であり、そうでないクラスタの集まりは「広がり」と言えます。

この両方を、適度に摂取していけたら、きっと楽しい情報生活(知的生活)を送れるのだろうと思います。

もちろん、時間の制約があるので、なんでもかんでも、というわけにはいかないわけですが。

〜〜〜ひさびさのコード書き〜〜〜

これまたブログ記事にも書きましたが、ひさびさにコードを書きました。

コードといってもごく単純なもので、ほとんどコピペでできているわけですが、なんだかんだで2時間くらいはかかりました。

で、これがまあ、楽しいわけです。

具体的に解決すべき課題があり、それをどうやって解決すればよいかを考えて、手を動かすこと。

誰かからお金をもらっているわけではないので、これ以上の娯楽はありません(やや言い過ぎました)。

でもって、せっかくなのでこのアクションを自分でも使っているわけですが、非常に便利です。便利すぎて「書き込みっぱなし」が増えるのではないかと心配したくなるくらい便利です。

このことで、しみじみ思うのは、コンピュータとそれを使う人の関係は、こういうのがいいよな、ということです。

課題があれば、自分で手を動かして(あるいは多少他の人の手を借りて)、自分で課題を解決する──自分に適切な形で。

執筆とかタスク管理の道具でも、そういうことが気楽にできたらいいなと強く思います。

〜〜〜ひとときの休息、あるいは急速充電〜〜〜

「かーそる」第三号が無事発売となり、自分で思っている以上に気が抜けていることに気がつきました。

タイミング的には、『僕らの生存戦略』に本格的に取りかかるべきですが、そこまでの「覇気」が生まれてきません。

こういうときには、無理をしないのが吉です。

そこで、先週一週間は「プロジェクトの棚卸し」をしていました。ちょうど『僕らの生存戦略』と並行して、もう一つだけプロジェクトを進めようと考えていたので、どんな企画を・どのように進めるのかを時間をかけて検討しました。

最初は、紙のノートに書き出し、次はそれをアウトライナーに入れ、最後は7wrinerという自作ツールのアレンジバージョンを作って、そこに放り込みました。

おおむね、「覇気」(としか呼びようのないもの)がないときは、圧倒的に体が疲れているか、自分の中で状況が整理できていないかのどちらかです。

だからいったん仕事のペースを落としつつ、状況を整理するというのは、どちらの状況にも対応できるなかなかの妙手ではあるでしょう(手前味噌ではありますが)。

とりあえず、その整理の結果として、現状は『タスクリストのつくり方』という、やるおわの続編とでも呼べるような企画案を進めようか、という気持ちになっています。まだ最終決定ではありませんが、かなり有力な候補であることは間違いありません。

そういう見通しも立ってきたので、『僕らの生存戦略』への気持ちも戻りつつあります。

今週ぐらいから、いよいよ本格的に本文を書き込んでいこうかと、考えています。

〜〜〜掲示板の移動〜〜〜

「かーそる」がらみのお話をもう一つ。

電子雑誌「かーそる」の執筆陣は、ぜんぜんバラバラな場所に住んでいて、仕事もまったく関係ないので、普段顔を合わせることはありません。

SNSも、常駐している人もいれば(私のことです)、たまに覗く人や、そもそもアカウントを持っていない人もいて、これまた統一されていません。

よって、情報交換する場所として、Evernoteに共有ノートブックを作り、そこで次の号の打ち合わせや、単なる雑談を書き込むようにしています。

が、そのEvernoteくんが、厄介なのです。いわゆる同期エラー(競合エラー)が起きて、自分が書き込んだはずの書き込みが、まるっと消えてしまう、という悲惨な事態に稀に遭遇してしまいます。

自動保存がないはるか昔のコンピュータなら、そういう事態もお馴染みでしたが、なにせ今は2019年です。そういうのはちょっと困ります。

で、しばらくは「まあ、そういうものだ」という諦観と共に付き合ってきたのですが、さすがにそろそろ厳しいのではないかということで、このたび雑談・打ち合わせの場を、Evernoteの共有ノートブックから、非公開Scrapboxへと移動させました。

もちろん、Scrapboxだって、こうしたエラーが絶対に発生しないとまでは断言できませんが、それでも二・三人の同時の書き込みは余裕でこなしてくれます。

また、自分のアイコンをショートカットキー一発で入力できるので、いちいち発言に「倉下」とかを添えなくてもいいのも楽チンですし、雑談で話が膨らんだら、別ページに切り出せるのもFeel so goodです。

さらに、いろいろな人がちょっとずつ自分の知識を持ち寄りやすい、というのも良いですね。説明が必要ならリンクを作って、そこに書き込めば、そのプロジェクトで「使える知識」が一つ増えます。

同じようなことも、Evernoteだってできるはずですが、あまりそういう行為は促進されなかった印象があります。やはり、何かの違いがあるのでしょう。ツールが使用者に与える影響の違いが。

もちろん、Scrapboxは雑談のためのチャットツールではないので、違和感がまったくないわけではありませんが、それでも全体的には快適に使えています。

せっかくの機会ですので、共同利用におけるScrapboxの使い方をいろいろ研究してみようかと模索中です。

〜〜〜今週見つけた本〜〜〜

今週見つけた本を三冊紹介します。

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 身体の逸脱、性の逸脱、精神の逸脱、法からの逸脱、宗教からの逸脱…逸脱にはさまざまな形が存在する。規範があるから逸脱があり、規範がなければ逸脱も存在しない。逆に逸脱の多様性は、社会を規定する明示的、あるいは暗黙の規範を浮き彫りにする。近代フランスの社会は、男女の身体、情動、欲望をめぐってどのような規範を課し、逸脱はどのように表象されたのか?小説、自伝、日記、医学書、性科学の啓蒙書などの言説をつうじて読み解いていく。
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 古代から2000年代の現代アートまで、多数のカラー図版で具体例を挙げながら、近代に大きく変化した芸術の価値観を問い直す。根源的だからこそ新鮮な絵の見方を示す、刺激に満ちた芸術思想史。
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 もしあなたがWeb時代の文学に興味があるならば、一度はエメーリャエンコ・モロゾフの名を聞いたことがあるだろう。本書は謎めいたモロゾフの文学の精髄に迫る決定版である。本書は本邦初の入門書であり、モロゾフの未訳作品を多く含むほか、インタビューなどの貴重な情報源も収録。ウェブ上に「偏在」するモロゾフ作品のリストも収録している。
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〜〜〜Q〜〜〜

さて、今週のQ(キュー)です。正解のない単なる問いかけなので、頭のストレッチ代わりにでも考えてみてください。

Q. (自分にとって)これ以上ない娯楽を教えてください。

では、メルマガ本編をスタートしましょう。

今週も「考える」コンテンツをお楽しみくださいませ。

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2019/06/03 第451号の目次
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○「本を書くには時間がかかる」 #物書きエッセイ
 時間がかかる執筆という行為について。

○「最近のScrapbox事情1 プロジェクト・タッチ」
 Scrapboxで「プロジェクト」を扱うときのコツをご紹介。

○「最近のScrapbox事情2 日付に付与するメタ情報」
 Scrapboxのページタイトルの使い方をご紹介。

○「万能感を煽る本の弊害」 #情報摂取の作法
 ある傾向を持つ本とのちょっとしたアドバイスです。

※質問、ツッコミ、要望、etc.お待ちしております。

○「本を書くには時間がかかる」 #物書きエッセイ

本を書くには、時間がかかります。

超急ピッチで進めた月刊くらした計画ですら、最短で一ヶ月。平均すれば三ヶ月はゆうにかかっています。

月くら以外の書籍では、三ヶ月ではとても足りていません。世に出ている本の多くも、きっとそれ以上の期間をもって書き上げられていることでしょう。

つまり執筆は長期戦です。短距離走ではなく、マラソン。そんな感覚で付き合っていくことが要諦です。

■短/長距離走

では、マラソン(≒長距離走)の感覚で付き合っていくとはどのようなことでしょうか。

簡単に言えば、それは時間を長く捉えることを意味します。あるいは、長いスパンの中に自分の行為を位置づける、と言えるかもしれません。

夏休みの読書感想文なら、一日頑張ってエイヤと仕上げることはできるでしょう。贅沢に8時間ほど投下できるなら、本を読んだ上で原稿用紙を埋めきることは可能です。一瞬の、つまりは瞬間的な頑張りが、成果に影響を与えます。

しかし、長距離走ではそうはいきません。ある瞬間どれだけ頑張ったところで、次の瞬間に足が止まってしまえば、それでお終いです。瞬間の頑張りよりも、行為の継続の方がはるかに重要です。

だからこそ、長いスパンの中に、自分の行為を位置づけなければなりません。

■1分の価値

さて、1分の価値とはどのようなものでしょうか。

一分とは60秒であり、とても些細な時間の量です。少なくとも、日常的な感覚ではそうなっているでしょう。しかし、長距離走ではどうでしょうか。三ヶ月(≒90日)で考えれば、一日における一分は、90分の時間を意味します。

「だから、毎日の一分が大切だ」

という風に考え──がちになります。これが結構な落とし穴なのです。

毎日の一分が大切であるならば、それは二分であった方がいいし、であれば四分で、八分で、十六分であった方がいいでしょう。そうして毎日の時間を増やしていけばいくほど、90日分の成果は大きくなる、だからもっと頑張ろう、と考えてしまえば、結局継続性が阻害されます。そんな頑張りなど、続くはずがないからです。

むしろ、逆に考えるのです。

90日という期間があるからこそ、実はある一日の一分など大した意味はない、と。その一分にこだわるのは、実は短距離走型の発想なのだ、と。そう考えてみるのです。

■結果としての平均

90日間の平均作業時間が59分だった場合と、一時間だった場合は、たしかにそこに90分の差異が立ち現れています。ここでの1分の重みはすごく重いものです。しかしそれは、あくまで「結果として振り返ったら」という話でしかありません。

人間というのは、機械でもプログラムでもないので、ある一日において無理に生み出された一分に(十分に、三十分に、一時間)に足元をすくわれてしまうことがあります。簡単に言えば、休むべきときに休まず、体調やメンタルを悪化させてしまうのです。

「人間は習慣の動物である。だから毎日やることが大切なのだ」という、アリストレテスが言ってそうなことはたしかに正しいのでしょう。でも、だからこそ、逆説的にある一日を休むことは大切です。休まないことで、逆に習慣化が阻害(ないしは破壊)されてしまうことがあるからです。

■長い、メッセージ

長いスパンの中に、自分の行為を位置づけるということは、今日も明日も明後日も明明後日も、これと同じ作業を繰り返していく、ということです。今日の自分が頑張りすぎて、明明後日の自分が作業できなくなるならば、それは懸命な判断とは言えません。むしろ、時間を短く捉えすぎています。

逆説的なようですが、「毎日続けることは大切だ。だからときに休む必要がある」という風には言えるでしょう。むしろ、こういう話を単純化してしまい、「毎日続けることは大切だ」という短いメッセージに変換してしまったとき、悲劇は起こります。

なにせ、「毎日続けることは大切だ」というのは正しいからです。「90日の平均一分は90分の価値がある」という話はどこも間違っていません。論理では、この主張に異議を申し立てできないのです。素直な人なら「なるほど、たしかに」と飲み込んでしまうことでしょう。

でも、これは本来後半込みの話なはずなのです。

「毎日続けることは大切だ。だからときに休む必要がある」

Twitterがもし12文字しか投稿できないなら、きっと前半の話ばかりが流通してしまうことでしょう。あるいは、後半ばかりになって、今度は何かを続ける意義がまったく無視されてしまうこともあるかもしれません。どちらにせよ、不完全であり、不十分です。

もちろん、「毎日続けることは大切だ。だからときに休む必要がある」だって、完全であるとはとても言えないでしょう。だからこうして、補足する話を2000字も費やして語っているわけです。

ここに何か、通奏低音の響きが感じられます。

長さが担保してくれるもの。
あるvolumeによってはじめて形成されるもの。

そのような一つ上の階層に、自分を位置づけることができたなら、きっと風景は変わってくるでしょう。

短から長へのシフト。

それがすべてだとは言いませんが、それでもこの切り替えは持っておきたいところです。

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倉下忠憲

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倉下忠憲

倉下忠憲のWRM 「読む・書く・考えるの探求」

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