マーケティングトレース

江崎グリコのマーケティングトレースをしてみた

※クイズの答えは一番最後に書いてあります!

みなさまお盆はどのように過ごされましたか?

私はというとお盆に入った途端夏風邪をひいてしまい、3、4日ほど寝込んでいました。(しかもなぜか目も腫れてしまうという)。

自営業者なので、自分が止まると全てが止まってしまうわけなので、健康には本当に注意しなければ。。

休養中にお世話になったのがこちら

よく学生の頃に朝食卓に出ていたなあと思い、懐かしくなって買ってみました。

変わらぬ美味しさ。もうかなりのロングセラーですよね。

朝食りんごヨーグルトを出している江崎グリコは、お菓子メーカーの売り上げランキングで2位!

大阪が誇る企業です。

お菓子メーカーの売上高ランキングTOP10
1位 カルビー 2,515億円
2位 江崎グリコ 2,128億円
3位 森永製菓 2,050億円
4位 明治HD 1,330億円
5位 ブルボン 1,176億円
6位 不二家 1,059億円
7位 亀田製菓 995億円
8位 井村屋グループ 450億円
9位 寿スピリッツ 373億円
10位 湖池屋 322億円
出典:業界動向サーチ 菓子業界 売上高ランキング(2017-18年)
※1 江崎グリコは菓子+冷菓事業、明治HD、中村屋は菓子事業の売上高

というわけで、唐突ではありますが、今日は江崎グリコのマーケティングトレースをしてみようと思います。

なんで江崎グリコをマーケティングトレースするの?

・単純に好きな会社だから
97年という長い間ずっと支持され続けてきたのには理由があるはずなのでそれを探りたい
・せっかく大阪に住んでるので大阪の企業のことをもっと知りたい
・関西のマーケターコミュニティーを盛上げるべく黒澤さんが企画してくださっている8月27日のマーケティングトレースの準備(これが一番の理由)

江崎グリコは「マーケティング」という言葉が日本で使われるようになる前からマーケティングが超絶上手かった

グリコは97年前の創業当時からマーケティングがとても上手です。

創業当初に発売された栄養菓子「グリコ」のマーケティングを4P分析でトレースしてみたのでご一読ください。


商品(Product)について

①それまでになかった「栄養菓子」

キャラメルに牡蠣エキスを加え、グリコーゲンにちなんで「グリコ」と名づけ“栄養菓子”として売り出しました。

「栄養菓子」というものは当時他になく、グリコが元祖。

牡蠣のパワーを確信し、薬としての活用を考えていた江崎に、ある医者がアドバイスをしました。「病気になった人を治すよりも、病気にかからない体をつくることが大切。予防こそが治療に勝るのだ」。
その言葉にハッとした江崎は、子どもたちが大好きなお菓子を食べながら、健康を促進できるようなお菓子をつくろうと決意。キャラメルに牡蠣エキスを加え、グリコーゲンにちなんで「グリコ」と名づけ“栄養菓子”として売り出したのです。
引用:甘~いお菓子のパワーの素は、大人の味・牡蠣エキスだった!

「少子高齢社会」になりようやく重要視されだした「予防医療」という考え方、グリコはすでに97年も前から取り入れていたんですね。。

②他社と差別化するための赤いパッケージ

他社が森永製菓のキャラメルを真似して黄色いパッケージが多かった中、グリコは目立たせるために赤いパッケージを採用しました。

③イメージ調査を基に「ゴールインマーク」を採用

ターゲットである小学生に直にアンケートをとり、それを基に一番印象のよかった「ゴールインマーク」を採用しました。

当時、利一は「栄養菓子グリコ」のロゴマークについて悩んでいて、いつものようにこの神社に来て、石に腰を下ろしてたところ、お宮の馬場で大勢の子どもがかけっこをしているのを目にします。真っ先に立ったこどもがゴールに入る際、胸を張り両手を上げて、英姿颯爽といったフォームをしていました。
「人は誰でも健康を望んでいる。健康を望む以上は、スポーツをやる。スポーツは永久に愛好される。この運動の姿を商標(ロゴマーク)に入れるべきではないだろうか」。近くの芙蓉小学校で象やペンギン、花などとアンケート調査を実施した結果、このゴール・インのポーズがトレードマークに決まりました。
引用:ここがあのポーズの発祥の地!! Glico社員が創業者ゆかりの地「佐賀」をリポート

④子どもの食べやすさを考え想いを形に

キャラメルといえば四角というイメージですが、子どもが食べるのであればもっと口当たりの良い形が良いのではないかと考え、試行錯誤の上「ハート型」のキャラメルを実現しました。

健康を思いやる真心を表し、角のない形で口あたりを良くしようとハート型を思いついたらしいのですが、
当時の技術では、やわらかいキャラメルをハート型にするなんて至難の業!
それでも「ハート型ローラー」を自社で開発して製造にこぎつけたそうです。
引用:企業名トリビア 「Glico」の社名の由来


流通(Prace)について

①有名百貨店

実はグリコの創業者江崎利一さんは大阪ではなく佐賀県出身。

九州から出てきた知名度もない会社の商品を売るにはどうすればいいかと考えた結果、「有名百貨店に置いてある」と言えば買ってもらえるのではと閃いた江崎さんは三越百貨店に交渉。

何度も何度も頼み込み、最終的に百貨店の担当者が根負けして置いてもらえることになったそうです。

ナイスガッツ。。

②映画付きグリコ自動販売機を東京の百貨店などに設置

当時は行列ができるほど人気だったそうです。

値段も店頭で買うより2銭安く、しかも6箱買ったら映画が最後まで見られるオマケつき。

販売とプロモーションを兼ねた面白い施策です。


価格(Price)について

大正10年
競合の森永製菓のミルクキャラメルが18粒10銭だったのに対し、
グリコは10粒5銭。

昭和24年
競合の森永製菓のミルクキャラメルが16粒20円だったのに対し、
グリコは8粒10円。

森永よりも若干ですがお安くなっています。

出典:https://shouwashi.com/transition-caramel.html


広告(Promotion)について

①ネオンサイン

グリコといえば、何と言ってもこれです。

このグリコのネオンサインを設置する際、創業者の江崎利一さんは下記のことにこだわってあの場所にしたのだそうです。

イ.通行人が多いから効果があると云ふ訳には行かぬ
ロ.気が急いで通るより、見物する様な気分でゆっくり歩いて通る所の方が効果が高い。
ハ.光を見せるものは夜の方がよいから≪夜間通行者の多い場所が効果的≫
ニ.通行者は全国的な人であれば尚、宜しい。
引用:大阪商業大学総合交流センター 講演会レポート「挑戦し続けるグリコの「創意工夫」」

こだわりがすごい。

90年以上が経つ今でも同じ場所にあるわけですが、あのネオンサインは自社ビルのため広告掲載費はゼロ円なのだとか、、。

②試食の配布

小さな袋にグリコを2粒入れ「ご風味(味見)願います」と書いて配布しました。現在の試食サンプルです。その後は2粒1銭、4粒2銭の有料試食の商品も試しています。
引用:大阪商業大学総合交流センター 講演会レポート「挑戦し続けるグリコの「創意工夫」」

この試食サンプルをいろんなバリエーションで試しているところがさすがはマーケターの鏡という感じがします。

まだABテストだとかそういう言葉もなかった時代から、賢い人はちゃんとやることをやっていたんだなあと。

こういった江崎利一さんの細やかな「創意工夫」があったから、グリコはここまで大きくなったんだなと思いました。

2019年現在のグリコを取り巻く環境は?

さて、創業時についての振り返りはこのくらいにして、今度は昨今のグリコのマーケティングをトレースしていきます。

まずはPEST分析でグリコを取り巻く環境をマクロに見ていこうと思います。


P:Politics/Political(政治面)

①男女共同参画社会の推進

乳児用液体ミルクの国内での製造販売が2018年8月に解禁

②国民健康づくり運動「健康日本21(第2次)」

基本戦略:ハイリスク戦略とポピュレーション戦略を両方活用する

生活習慣病予防のための戦略には、ハイリスク戦略とポピュレーション戦略の2つがあります。ハイリスク戦略は、ハイリスクの人を早期に発見し早期に改善するもので、特定健診・特定保健指導もこれにあたります。(一部割愛)
 一方、集団全体を良好な方向に動かす戦略がポピュレーション戦略です。たとえば、会社全体で食塩摂取量を減らして、従業員全体の血圧の平均値を下げるというような対策です。会社全体に対して普及啓発や環境改善を行うような対策が含まれます。環境が変わって、みんなで同じことをしますので、個人の努力は少なくてすみます。
引用:健保連大阪連合会「生活習慣病予防の考え方と医療費への効果」

③働き方改革実行計画

1)時間外労働の上限規制
時間外労働の上限規制が導入

2)年次有給休暇の時季指定
年5日の年次有給休暇の確実な取得が必要

3)同一労働同一賃金
正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差が禁止に

④観光立国推進基本計画

・ビザ緩和
・免税制度の拡充
・出入国管理体制の充実
・航空ネットワークの拡大


E:Economy/Economical(経済面)

為替が円安基調になっているため、原材料の多くを海外から輸入している菓子業界にとっては逆風。
また少子化のため国内の菓子業界全体の売り上げも頭打ち傾向。


S:Society/Social/Cultural(社会/文化/ライフスタイル面)

①少子高齢社会
少子化により従来メインのターゲットだった子どもが少なくなっていく。

②糖質制限ブーム
ダイエットのトレンドがカロリー制限から糖質制限へ。
お菓子人気に陰りが。

③共働き夫婦が増加
夫婦間での家事や育児の分担が課題に。
※18歳未満の子どもがいる男性の家事・家族ケア分担率の割合で、日本は最下位
※総務省統計局の「労働力調査(基本集計)」の2016年平均の結果によると、夫婦がいる世帯のうち共働き世帯の割合は48.4%、夫婦のうち夫だけが働く世帯は26.4%、妻だけが働く世帯は4.1%、夫婦ともに無職の世帯は21.1%

④外国人観光客が増加
円安の影響もあり外国人観光客が増加傾向
※2018年に日本を訪れた外国人観光客は3,000万人を突破

⑤自然災害が増加
地震、台風、豪雨、大雪、噴火といった自然災害が増加傾向に。


T:Technology/Technological(技術面)

①携帯電話・スマートフォンの普及
②SNSの普及
③多言語対応技術の発達
④東南アジアで冷凍物流システムの構築が進む


2000年以降のグリコのマーケティング

上記のPEST分析と、2000年に入ってからのグリコのマーケティング施策を照らし合わせて見ると、3つのポイントが浮かび上がってきました。

グリコのマーケティング3つのポイント
①新顧客との接点の多様化
②消費者ニーズへの迅速な対応
③海外展開

顧客との接点の多様化

少子化に伴いお菓子の市場が縮小していくことが予想される中で、どのようにして売り上げを伸ばしていくのか。。

そこでグリコがとった戦略が「顧客との接点の多様化」です。

ここではグリコの代表商品である「ポッキー」を例にとって、どのように顧客との接点を多様化していったのかを見ていこうと思います。


1.オフィスグリコ

BOXや冷凍冷蔵庫から商品を取り出し、代金を貯金箱に投入するシステムです。オフィスでのリフレッシュメントに注⽬し「置き菓⼦®」という新たな市場を創造しました。
意外にも、普段あまりお菓子を買わない男性が、オフィスグリコを利用してくださっているそう。
オフィスグリコでお菓子を買う習慣がついた男性が、コンビニなどでも購入してくださるという流れができているようです。
導入企業数が11万を超え、ボックス数も13万以上になっています。(2016年時点)売上高は53億円にも達しています。
2007年にはビジネスモデル特許も取得し、競合が真似できない基盤を作り上げました。

参考記事:オフィスグリコ 編 新たな食シーンを開拓した創意工夫と 「 これから 」


2.バトンドール

高級版ポッキーの「バトンドール」を大阪、京都、神戸、福岡の百貨店および空港でのみ販売しています。
普段はポッキーを買わない層にも買ってもらって興味を持ってもらったり、子どもの頃には食べていて最近ポッキーから離れている大人に思い出してもらう狙いがあります。
5億円という当初の年間売り上げ目標は半年で達成し、行列が絶えないほどの人気ぶりだそうです。


3.ぐりこ・や

ぐりこ・やでは、お土産やパーティーなどにぴったりな「ジャイアントポッキー」というビッグサイズのポッキーを販売しています。
また、お土産を買いに来る外国人観光客も多く、ここで「ポッキー」を知った外国人が自国に帰ってからグリコのポッキーに再会して購入する、という流れも考えられているようです。

↑ぐりこ・やでは、商品説明が日本語の他に英語、中国語、韓国語で書かれています


成功事例として有名な上記以外にも、ポッキーでプログラミングができるスマホアプリをリリースしていたり

ファンサイトを運営してみたり

ワゴンを走らせてみたり

体験スポットを作ったり

「Pocky地元応援プロジェクト」と称してポッキーを絡めたクラウドファウンディングをしてみたり

などなど、、。接点を増やすことに対しての「チャレンジの多さ」は、創業者の江崎利一さんの「創意工夫」の精神が今でもしっかり受け継がれている証拠だろうなと感じました。


②社会のニーズにいち早く対応

グリコがいち早く社会のニーズを捉えて動いたのが

1.糖質制限ブーム
2.液体ミルク

理念を「おいしさと健康」としているだけあって、社会の「健康」に対する意識の変化に敏感に対応していっています。

また、共働きの増加自然災害の増加による「液体ミルク」の需要の高まりにも即座に対応しました。


1.糖質制限ブーム

・低糖質アイス
・アーモンドミルク

の2つの市場は今グリコの独壇場になっています。

低糖質アイス「SUNAO」

低糖質アイス「SUNAO」は「カロリーコントロールアイス」だったものをリニューアルした商品です。

↓以前のパッケージ
80kcalが一番目立つようにデザイン。
いかにも「機能性食品」ぽいイメージ。

↓現在のパッケージ

「糖質50%オフ」が目立つようにデザインをリニューアル。機能性食品っぽかったイメージを「オーガニック系・ナチュラル系」で「ちょっと高級感もある」イメージに。
「SUNAO」というブランド名を認知してもらうことで、アイス以外のビスケット類にも同じブランド名を活用できるようになりました。

アーモンドミルク「アーモンド効果」

「アーモンド効果」は、もともとアーモンドとの縁が深いグリコが、「栄養価の高いアーモンドを飲料にすることで毎日手軽に摂れないか」という思いから、長年にわたりチョコレートや牛乳・飲料の分野で培ってきた技術とノウハウを活かして開発した新しい商品です。

アーモンドミルクの糖質は、なんと牛乳の15分の1、豆乳の6分の1!!

しかもそれでいて美肌に良いとされている「オレイン酸」や「ビタミンE」、女性に不足しがちな「ミネラル」、そして「食物繊維」などが豊富に含まれており、美意識の高い女性にとても人気です。

7月にはカフェとのコラボ企画なども。

オンラインオフライン両方から美容や健康に関心の高い女性に対してアプローチをしています。


2.液体ミルク

子どもをもつ親御さんたちから「早く日本でも手に入るようにしてほしい」という要望の多かった液体ミルクを一番最初に発売しました。

炎上によりプロモーションは失敗してしまいましたが、子育てサポートのアプリも開発しています。

グリコは母子健康協会も設立しており、創業時からずっと健康、特にその中でも子どもの健康について力を注いでいます。


③海外展開

グリコは現在12ヶ国に拠点を置き、海外展開をしています。

「まっすぐ細いプリッツエルを製造する」というのは日本の高い技術力があってこそ実現が可能なため、ポッキーやプリッツは海外でも競争力の高い商品となっています。

また、東南アジアで冷凍物流システムの構築が進んだことで、まずはタイから、次はインドネシアへとアイスクリーム事業の展開も進んでいます。

★ここで小話(^^)
セブンティーンアイスの自販機が外国人にとっても人気なんだそうです。
観光に来た外国人観光客が、「道頓堀のネオンサイン」と「セブンティーンアイス」でグリコを認知して、自国でもグリコの商品を買ってくれる、、というストーリーを描けるかもしれません。

!問題です!
外国人観光客がたくさん訪れる道頓堀のセブンティーンアイス自販機で、一番人気のフレーバーは何でしょうか??答えはこのnoteの一番最後で!


創業者江崎利一さんの「おいしさと健康」へのこだわりと「創意工夫」の精神が97年間ずっと継承されている

今回、江崎グリコのことを調べれば調べるほど

「この会社、、好き!」

となりました。

マーケティングトレースをしてみて、グリコは「おいしさと健康」の理念と、「創る・楽しむ・わくわくさせる」のスピリッツが隅々まで行き渡っているのが分かったからです。

97年、長く人から愛されているのにはちゃんとした訳があるんだなあと。。

ここまで理念とマーケティングをしっかり一気通貫できていると、安心して商品を買えるな〜と思います。

言っている事、やっていることがブレない!!

そしていつも楽しませてくれる!

これからもたくさんグリコ製品を食べようと思います。


余談(このnoteを書く間に消費したグリコ製品)

なお、この記事を書く間(約1週間)に

・ビスコ(5枚×3パック)1箱
・プリッツ(旨サラダ)1箱
・SUNAO(バニラ) 1個
・SUNAO(バニラソフト) 1個
・CRATZ(ペッパーベーコン)1袋

を消費しました。。^^;
SUNAOが糖質50%オフでよかった。。。笑

↑トレースを口実に買い込んだお菓子たち、、。


8/27マーケティングトレースミートアップ大阪が開催されます!

8月27日に関西のマーケターが集まるマーケティングトレースミートアップが開催されます!

・経営とマーケティングをつなぐ思考を磨きたい
・マーケターとしてレベルアップしたい
・マーケティングトレースをやってみたい!

という方はぜひご参加を!

寺田も参加します^^◎

詳細とお申し込みはこちらから

↓↓↓


※外国人観光客がたくさん訪れる道頓堀のセブンティーンアイス自販機で、一番人気のフレーバーは何でしょうか??の答え:チョコミントでした!

※参考記事:https://livejapan.com/ja/article-a0001209/


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