映画『THE FIRST SLAM DUNK』にとても「釈然とした」のでその感動について語る

初めに言っとく。手元に資料がないのでちょいちょいうろ覚えなのはすまん。

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私は原作で山王戦が最高傑作のように言われるのがずっとわからなくて。王者との死力を尽くした戦いだということはわかる。でも、内容はこれまでの他の試合で見たものばかりのような…。目新しいテーマがなく、全体として何が言いたいのかわからないので、読み終わって釈然としなかった。

スポーツ漫画の試合において、「何が言いたいのか」なんて必須ではないことはわかってます。でも、それを期待させられてしまうくらい、試合が熱くてテーマ性のある傑作だったんですよ、『SLAM DUNK』は。

例えば最初の陵南との練習試合。あれは「花道と流川が仙道という超えるべき壁に出会う」話。だから神奈川県予選の最終戦では、練習試合の反省点を踏まえてリベンジを果たした。翔陽戦は「三井が長いブランクを克服することでより強くなる」話。それによって湘北は、個々の能力の高いバランスの取れたチームになった。海南戦は「王者に敗北を喫してチームの課題を再確認する」話、かな。海南を第2の敵として立ちはだからせる目的もあったかもしれないけど、主たる意義はそんなところでしょう。『SLAM DUNK』の試合はひとつひとつに主題があった。そしてそれが、桜木花道と湘北バスケ部の成長の歴史となっていた。

で、山王戦。湘北に起こる問題や王者山王の強さなどについて色々出てくるんですが、どれもいやそれ既に聞いた感。2度の陵南戦や海南戦でもその話はあったよね…沢北の過去エピソードもだから何なのか分からないし(※個人的感想です)。

しかしそんな私の長年のもやもやに、明確な答えを出してくれたのが映画『THE FIRST SLAM DUNK』。作中、目立つのは大幅に追加されあリョータの家族とのエピソードですが、三井との出会いや、赤木体制になるまでの湘北についても痛々しいまでに詳細に描かれました

それら湘北側の描写に加え、個人的に大きな意味があると思ったのが、沢北の願掛けのシーンです。努力は自分で充分するから、経験をくれと願う沢北。このシーンのお陰で、私は心の底から釈然とした!

原作連載時、山王戦の試合内容は試合内容として、確かに死力は尽くしたし結果は結果だからと思えたのですが、その後に納得する結論がなかったのが、私のわだかまりの原因でした(いや、漫画の試合に結論が必要かというのは置いといて)。

そんな私の首を最大角度で傾げさせたのが、山王の堂本監督が試合後、選手たちにかけた言葉です。「今負けたということが後に財産になる」みたいな台詞(手元に資料がないのでうろ覚えです。すみません)。いや、教育者として悪い台詞ではないよ。でも、普通だよね。わざわざこの台詞を入れるということは、彼が普通に良い教育者だと読者に伝えたかった? 何故? ここで? それって彼らの死闘に関する結論になり得る??? …と、私の頭には大量の疑問符が浮かびました。うーん、何だろう~? 試合シーンでも主題がわからなかったし、作者自身今ひとつ内容をまとめきれずに描いた結果なのかな?と、当時の私は最終的に超失礼な結論に達したわけです。

…この堂本監督の台詞の意味が、まさか何十年も時を経て理解できるとは思いませんでした。沢北よ、お前の願掛けが叶った試合だったんだな、山王‐湘北戦は。沢北ら山王バスケ部にもたらされたのは、敗北という「経験」。この試合を単なる通過点と考えていた彼らには、勝利より敗北がより大きな経験となった。

一方、湘北に起こったのは「奇跡」。リョータは故郷を遠く離れ、縁もゆかりもない土地で一度はバスケを諦める可能性もあった。そうでなくとも、兄のいない世界で誰かとチームメイトとして慣れあう気はなかった。そのせいで三井との出会いも一度は無下にし、二度目も最悪なまでに拗れさせ、部内では赤木とも全く馬が合わない。しかしそこに強烈に我の強い2人が加わったことで、湘北バスケ部は奇跡的なバランスでチームとして機能するようになる

しかし湘北が奇跡的に噛み合ったチームだとしても、全国で戦える能力を持つのはたった5人。層の厚い強豪たち、まして王者山王に、普通に考えれば勝てるわけがない。しかしその1試合に全力を賭けた彼らは、いくつもの奇跡の先に必然たる勝利を手にすることができた。ということなんだな!と。彼らの歴史の上に、確かにあの勝利は必然だわ…。

そして湘北にも山王にも未来がある。今勝ったから、負けたからこそのその先の人生があり、答えなんかまだまだこれからだ。寧ろ答えなんか一生出ないかもしれないが、続くからこそまた出会いもある。さあ、再戦といこうか。――それがあのラストなんでしょうね。

『THE FIRST SLAM DUNK』、観てよかった。本当に釈然とした。もしかして私の疑問のために映画を作ってくれたの…?と勘違いしそうなほど、丁寧にテーマを固めてくれた作品だった。この気持ちを、誰かわかってくれると嬉しいです。のでここにしたためた。

長くなりすぎるので割愛したけど、豊玉戦は「強さを追い求めることの功罪」あたりがテーマじゃないですかね。浪花節だけどクサくはなくていい話だよね~。

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