O(オー)さんの森 その1

いまじゃ考えられないけれど、子どもの頃は虫を触ることができた。
小学の低学年の頃はクワガタ集めなんかに熱を燃やして、日々、採集に勤しんでいた時期があった。
しかし田舎の子供社会というのは以外にもタテ関係が厳しく、その学年によってクワガタ採集をできる縄張りが定められていた。
高学年に上がるほど、たくさんクワガタの採れるスポットに立ち入れる権利を得ることができるが、当時の私のような低学年生が分け入れる森ではクワガタを採取するのは至難の業だった。
そうなるとモグリで縄張り以外のスポットに入り込む者も出てくるが、どういう情報網があったのか未だに謎ではあるが、だいたい露見してしまった。掟破りのペナルティは言うまでもない、苛酷な制裁が待ち受けている。
しかし例外もあるにはあった。兄貴が有力なワル…つまり縄張りを仕切るガキ大将だった場合は、その弟やその友人などは特例として縄張りへの立ち入りが許されたのだった。縁故というズルのシステムは、子どもの世界にもあるのだ。
ピラミッドの頂に君臨するのは6年生である(中学生になるとバイクとかギターとかに目覚めてクワガタのことはどうでもよくなる)。6年生になればフリー手形を持ったようなもので、どんな森だろうが林であろうが、勝手に入ってクワガタを採ることが許された。
が、そんな6年生であっても絶対に侵してはいけない森が存在した。それは「O(オー)さんの森」と呼ばれていた。田舎の子供たちでその森のことを知らぬ者はいなかったが、足を踏み入れた者はいなかった。その森に入ってクワガタ採集をすると、Oさんという恐ろしい先輩に殺されると信じられていたからだ。
私には4つ上の兄がいて、いつかOさんの森について訊いたことがあった。
「ねぇ、Oさんの森ってどこにあるの」
「ばか。それを口にするな、殺されるぞ」
そう言って殴られた。口に出すことすら憚られるとは、それはもう恐れというよりも畏れに近いではないか。

(つづく)

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小説:おーい、りゅうちゃん!

北海道の新篠津村という田舎で過ごした少年時代を自叙伝みたいな感じで綴ってます。
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