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夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -54- #ppslgr

「これでようやく帰れるな」

そこまで言った俺は、同時にスウェーで上体を後方に逸らす。眼前を銃弾が通過していった。今のは避けなかったらこめかみ直撃コースで、どう考えても突っ込みとしては過剰だが深く突っ込まないでおく。

既に事件は解決しており、俺とM・Kはシャンティカと最後の別れを済ませるために各自のソウルアバターから降機。朝日が差し込む森林の中では、俺達の他にちょっと離れた所からパルプスリンガー各位が木の影よりこちらの様子を虎視眈々と観察している。

「今のその、殺す勢いでちょっかい出すとこなの?」
「いつもの事だ、余り気にするな」

別れのしんみりした空気のはずが一発の銃撃であっさりぶち壊しになると、どうにも形容しがたい雰囲気の中、次の言葉を切りだしたのはシャンティカの側からだった。

「ね、ずっとあなたがそっけなかったの、何か理由があるんでしょ」
「……ある」

離れた所から「そんな理由捨てちまえーっ!」とかヤジが聞こえるが鋼の意志で聞こえなかったことにしておく。

「私聞きたい、その理由を」
「あー……」

まさか異性に一定の距離を保っている理由を聞かれる日が来るとは思わず、どう説明したものか考えあぐねる。大した理由ではないといえばそうなのだが。

「昔から、異性との恋愛では苦い思いばかりでな。恐らく俺の接し方が悪いのだろうと考えてからは一定の距離を保つようにしている」
「でしょうね、あなたってほっんとうに!異性との交流不器用だもの。それこそ、ちょっと一緒に居ただけの私でもわかるぐらいのヘタクソっぷりで」
「おれはひとのこころがないうろんエンタメマシーンだからな」

余りに余りな断言っぷりに、憮然として言い返す。そんな俺の反論を笑顔で受け止めるシャンティカ。

「ええそーでしょうとも。大体あなたってば初めて会った時は私を誘拐しかけて、こっちの世界に連れてきたかと思えば案内はS・RさんとM・Hさんに投げっぱなし!宿を借りたかと思えばあなたは屋外で寝ていて私が良いって言ってるのに中に一向に入らないし!挙句の果てには私がオシャレしても頭ごなしに否定するし!そんな態度で女の子と上手くいくわけないでしょ!!!」
「むぐ……」

ぐうの音も出ない。いや一定の距離感を保って接していたのは意図的な行いなので、致し方無いといえばそうなのだが……いつしかシャンティカは剣呑な雰囲気で俺の眼前まで歩み寄ってきた。

「だから、コレでおあいこね」

彼女は俺の側頭部に手を伸ばしたかと思えばその細やかな指先でぐい、と俺の耳を引っ張った。彼女のそれとは異なり尖ってはいない俺の耳を。
瞬間、彼女は今までの表情から満面の笑顔へと綻ばせて俺から離れる。

「またね!R・V!」

手を後ろ手に可愛らしく組んだ彼女は差し込む朝日の陽光の中で、初めて会った時と同様に光の蛍光めいた粒子になって元の世界へと還っていった。

「またね……?」

どう考えても今生の別れに使う言葉ではない。考え込むも、もはや答えを知る彼女は世界を隔てる壁の向こうだ。そしてもう戻ってくる事はない、はずだ。

「……よし、帰ろうM・K」
「うん、でも良かったのかい?」
「ああ」

異なる世界同士は通常交わる事はない。
この別れは元々来るべき事がわかっていたのだ。

「でもその前に彼らをなだめないと」
「……なっ!?」

M・Kが指差した方向には怒り狂うパルプスリンガーの集団!流石にソウルアバターこそ起動していないがどいつもこいつも殺気に満ち溢れている!

「すまん先に帰る!バーメキシコで会おう!」

彼らが食って掛かってくる前に駆け出すと樹林の幹を蹴って枝葉へと跳躍。
一目散に逃走を開始した!

【夢に舞うは胡蝶、現に横たわるは蚕蛾 -54-:終わり:その-55-へ続く

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