デスペラード・カレー

「で、一体なにがどうなってこうなったんだい?」

 俺にかけられた年若い男性の声に改めてバー・メキシコの惨状を見回す。辺り一面は無数の弾痕が刻まれ、CORONAの瓶などは流れ弾でことごとくが砕け散っている。

 撃ち合う気がなかった俺を含めた比較的穏健な連中は防弾加工されたテーブルを倒して盾にし、銃撃戦が収まるのを待っていたのだ。

「カレーだ、O・D」
「カレー?ああ、今日はカレーの日だったね。福神漬け持ってきたよ」

 栗色のもじゃもじゃとした髪型に今日も風変りな詩人めいた服装の、赤ら顔の若者から福神漬けの大入り瓶を受け取るものの、持て余して立て直したテーブルに置く俺。

「全くカレー一つでこのアリサマとはな……」
「いいんじゃない?皆拘りがあるんでしょう」
「カレーは俺も好きだが、流石に皆引き金が軽すぎる」

 ぱっと見は死屍累々といった有様だが、その実誰も彼も致命傷は負っておらずかすり傷程度だ。各々の実力が拮抗しているためだが、それにしてもまあ、よくやるものである。

 パルプスリンガーの中でも数少ない治療技術持ちである、中世の医師めいた外套をまとったJ・Qの前に少々傷が深めの者から並んで行っている。

「まあ、それはいいとして誰がつくるんだい?カレーを」
「S・Cは新しく入荷した紅茶葉の買い出し、S・Rの姐さんは今日は早くは来れない、A・Dはソロマグロ釣りの真っ最中だな……他の作れるヤツも見当たらないし、仕方ない」

 深々とため息ついて姿勢を直すと、いつも通り厭世的な態度でO・Dに俺は告げる。

「俺がつくるから、O・Dは適当に待っててくれ」
「ああ、いいとも」

 さんざんたる有様のバー内より背を向けて厨房に向かう。後片付けは大体は撃ち合った連中が自分でやるからこちらはやる事がないのもある。

 あまり使い慣れていないキッチンに立つと俺はあり合わせの材料を古めかしい冷蔵庫から取り出し、一応持ち込んでいた材料と合わせてバラし始めた。

ーーーーー

「はい、おまちどーさん」

 俺がキッチンにこもって調理に格闘している間に、バー内は既に元通りに修復され、普段通りの胡乱窟の様子を取り戻していた。もっとも、銃撃戦の後なので客足は極々わずかだ。撃ち合いの後だというのに普通にやってくる連中の肝の太さよ。

 自分が手にした、山と米が盛られ、これまた大量のルーがかかった大皿をカレーめあてでやってきていたパルプスリンガー達に配っていく。もちろん、銃撃戦をおっぱじめた連中にもだ。

「ああ、今日はR・Vがつくったんです?」
「他に作れるか作る気があるヤツが居なかったんでな。少々雑なつくりなのはご勘弁、だ」

 たまたまちょうどいい時間帯に戻ってきてO・Dと話していたS・Cにもカレー皿を受け渡すと、おおむね行き渡ったことを確認してから自分もカレーにかっくらいつく。

「む、むむむ?一見普通のご家庭カレーだけど、食べると複雑な味がする……しかもスパイスからじゃないね、これ」
「んー、この味は、京やさいも使っています?」
「ご名答」

 O・DとS・Cに対し、俺は自身の分のカレーをがっつきながら答える。

「通常のカレーの野菜に加えて、金時ニンジン、万願寺とうがらし、それから一玉ニンニクを蒸したのと九条ネギのバター醤油炒めを合わせて複数ブランドのカレー粉をそれぞれ少量ずつ投入。隠し味に高めのソースを少々って感じで、後は従来通りの作り方だ。適当だろ?」
「なるほど、野菜の種類を増やして味の構成を多様にすることで深みを出しているんですね?」
「その通り」
「コレ、中々イケるね」
「この作り方だと量が嵩むから、まだ残りはあるぜー」

 ……とのんきに構えていたのだが、思いのほか減りが早かったのか俺が二杯目をお替りしようと鍋を覗いた時には、すでにカレーも米もすっからかんとなってしまっていた。

「まあ、残るよりはいいか」

 気を取り直してビールクーラーからCORONAを取り出すと、その場で一気に呷る。昼の銃撃戦など大したことではないかの如くバー・メキシコの夜は過ぎていくのであった。

【デスペラード・カレー:終わり】

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