鶏と卵

鶏と卵どちらが先に来たか? 

これの解答を出すには1つだけ正しく定義しなければならないことがある。鶏は鶏でいいが、「卵」とは何であるか?の定義が必要。当然、このナゾナゾは「鶏とウズラの卵」についての話ではないので、「鶏と鶏の卵」の話だと考えられる。そこで「鶏の卵」はどう定義するのか? 2つ考えられる。

1. 鶏の卵というのは、鶏が産む卵である
2. 鶏の卵というのは、そこから産まれてくるのが鶏(のヒナ)である卵である

もちろん、一般的に鶏の卵は1.と2.の両方を満たすが、以下に説明するように、そのどちらかしか満たさないことも想定できるので、どちらかに限定する必要がある。そこで、どちらでもいいので、ここではまず1.の定義を採用する。また、ダーウィンの進化論が正しいということも前提とする。

さて、鶏というのはずっと過去に遡れば、鶏とは異なる鳥種を先祖に持つ。最も直近の先祖(鶏に似てるが遺伝子的その他に置いてもはや「鶏」とは呼べない鳥)を「pre鶏」と呼ぶ。pre鶏は繁殖する度に遺伝子レベルで微小な突然変異を繰り返すが、ある時点でその突然変異の累積が十分に大きくなり、もはやpre鶏とは異なる種、すなわち「鶏」が誕生する。

鶏をC 、生物学的に見て「鶏」と呼べる最も古い鶏の個体をC*、pre鶏をpC、そしてC*の生みの親をpC*とする。しばらくはpCが飛び回ってる時代があり、ある時点でC*が誕生し、それ以降はCがpCに取って代り地球上を飛び回ることとなる。CとpCはそれほど違いがないと想定できるので、pCは見た目も鶏に近いし、鶏同様、卵を産んで繁殖していただろう。これを時間軸で表すと:

....pC→pC→pC*⇒C*→C→C...

となる。ここで種の入れ替わりが発生した「pC*⇒C*」の部分を見てみる。

pC*は性交後卵を産み、そこから突然変異したC*が産まれてくる。ここで言う「卵」はpre鶏が産んだので、先ほどの定義に寄ると鶏(C)の卵(Eとする)ではなく、pre鶏(pC)の卵(pE)、である。その次の代でC*が産む卵は、鶏が産む卵なので、鶏の卵(E)、となる。

この考えを元に卵を上の時間軸に挿入すると:

. . . pC → pE → pC → pE → pC* → pE ⇒ C* → E → C → E → C . . .

となる。即ち、このナゾナゾの解答は「鶏(C*)が鶏の卵(E)より先に来る」となる。

ここで、「鶏の卵」の定義を上記の2.にすると、C*が生まれてくる卵はEとなるので時間軸は

. . . pC → pE → pC → pE → pC* → E ⇒ C* → E → C → E → C . . .

となり、ナゾナゾの解答は「卵(E)が鶏(C*)より先に来る」となる。いずれにしても、「卵」の定義さえ明確にすれば、確固たる解答が存在する。

P.S.

もちろん、この説明を聞いて「ここで言う鶏というのは種としての鶏について言ってるのではない。pre鶏だって卵(pE)から産まれるわけだから、結局はこのナゾナゾの本質的なポイントには答えられてない、詭弁である!」という批判が挙がることも想定できる。そこで、簡単にそれについても考察する。

鳥類は遡っていけば恐竜(は虫類)を先祖に持つというのが最近の定説であり、は虫類は遡っていくと魚類を先祖に持つというのが定説。これらはいずれも「卵」を産むことで生殖するので、どこまで遡っても卵が存在する。しかし、十分に遡れば、アメーバのような単細胞生物のように、細胞分裂による繁殖をする種に到達するので、どこかの時点で「卵」によらない生殖をする種(これをαとする)の子(α')が初めて「卵」を産んで子孫を残すような突然変異を成し遂げた、と考えられる。

ここで、ナゾナゾに対する答えは2つ考えられて、「α'が先」という答えと「卵が先」という答えがあり得る。これも、定義によるが、卵を産む種としてはα'が地球史上初なので、α'が先、と答えてもいい。ただ、この場合、α'は間違いなく「鶏」ではないので、もともとのナゾナゾの答えにはならない(つまり「鶏が先」とは言えない)。そう考えれば「卵」が先、という答えも考えられる。いずれにせよ「どちらが先か分からず、答えは出せない!」という一般的に言われることは間違いで、単語の定義や条件を明確にすると、明確に答えがでる問題である。

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