成長の為の学習サイクル(その3)

前回(その2)に続いて、最後に、自己期待の膨張が悪循環になってしまった場合に、そこから抜け出て、能力の変容を行うためのプロセスを示します。

上図にあるように、家族などからの「過去の期待」の裏側にある文脈を仮定して見ます。

例えば、「しっかりしなさい」という過去の期待の裏側には、「一人で生きいける力をつけて欲しい」という成長を願う「愛情」があるかもしれません。「諦めちゃだめ」という過去の期待は、成長を信じる「信頼」の証しであるかもしれません。

あるいは、家族から「甘えてはいけない」という期待を感じていたとすれば、その裏側には、「本当は助けてあげたい」という気持ちがあるかもしれません。

また、過去の期待については、本来はあくまで過去の期待であり、期待を受けて成長した姿に対して、改めて評価をして期待の再設定をするとすれば、現在の期待(仮定)は、「一人で辛かっただろうね」「ただ、一人でやり過ぎよ」「今後は周りに頼ってあげなさい」といった期待になるかもしれません。

これらはあくまで仮定の話ではありますが、膨張してしまった自己期待を適切に修正していく事が最初のプロセスとなります。

こういった作業は、心理的な療法や治療的な側面があるかもしれません。

再設定された現在の期待(仮定)から、改めて、一人では問題の解決が困難な状況が発生した場合に、「人に頼る事を試みる」(Output(W))を行おう(ステップ①)としても、過去の体験として、苦い実体験があるため、すぐに行動を変化させる事は困難です(ステップ②)。やはり、仮定ではなく、実際の体験は何回も繰り返し記憶に刻まれているためです。

では、これまで通り、「一人で問題の解決を試みる」(Output(S))を行うしかないかと言えば、そこは一呼吸おいて止めることを意識します。

具体的には、現在の期待(仮定)を基にして「一人でやりすぎよ、周りの成長の期待を奪っている」のような、自分への戒めとなるような言葉を自分に投げかけて、今まで通りにはやらないようにします(ステップ③)

では、「周りに頼ることもできない」「一人で問題を解決することもできない」とすると、どうすれば良いのでしょうか?

多くはここで悩む事が多いです。戻ることもできなければ、進むこともできない、立ちすくむような状態です。

これを解決する方法としては

カート・フィッシャーの「ダイナミックスキル理論」を参考にします。

例えば、ブランドタッチという技術はどのように能力が開発されるかというと

もともとあった

(A):「キーボードを打つ能力」
(B):「考える能力」

があった時に、

(A)':「キーボードを見ることなく文字を打つ能力」
(B)':「キーボードを打ちながら、次に入力する事を考える」

というような「差異化」 (A) → (A)'、(B) → (B)'と呼ばれる能力の変化が起きた上で、

(A)'・(B)'の2つの能力を同時に行う事による「統合化」が行われることによって、もともとの能力である、(A)・(B)という能力とは異なり、より質的な次元が高い能力に変化する(  (A)'+(B)' → (T) :これを変容(Transformation)と呼ぶ)事が起きます。

では、この理論を適応した上で、目指す能力である

(T):一人でも問題の解決をする事にこだわらず、状況に応じて適切に人に頼る事ができる能力

を目指す学習戦略を立てます。

まず、現在の能力としては

(S):一人で問題を解決する能力
(W):人に頼る事ができる能力

があります。(S)+(W) → ・・・・ → (T) を目指します

問題があるとすれば、(W)については実践する機会がこれまでなかったために、実質的には使えない能力となっています。

実践で使えるような能力にならないと、実践を通じて磨きをかける事ができないわけですから、そこをどう解決するかがポイントになります。

ここで、コンテクスト(文脈・状況)を変えるテクニックを使います。

例えば、仕事というコンテクストにおいては「人に頼る事」ができない人でも、プライベートでは、「人に頼る事」ができたりします。

このように能力というものはコンテクストによって発揮されたり、発揮されなかったりするものと、カート・フィッシャーは捉えます。

今回の場合は、仕事においては、できる自分を演じようとして頑張っていた自分ですが、プレイベートや小さい事を思い出すと、完璧主義な自分とは違う側面の、パーソナリティ・気質に着目して、それをうまく使うことにします。

例えば、他者とのプライベートにおけるパーソナリティ・気質として

おだてる
からかう
恩を着せる
挑発する
無茶ぶりする

といったものがあったとして、その中の一つとして「おだてる」という能力に着目します。これを、パーソナリティからもじって

(P):人をおだてる事ができる能力

とします。

では、これを使って、

(S)+(P)  →  ・・・・→  (T)

の変容を目指します。

結論としては、下記のようなプロセスを経ます。

(S) + (P) → (S)'  : 差異化
「一人で問題の解決を試みる中で、他者をおだてる」能力
(P) +(W) → (P)' : 差異化
「おだてながら人に頼る」能力
(S)+ (P)' → (S)'' :差異化
「一人で問題の解決を試みる中で、一人で問題の解決が難しい部分をおだてながら人に頼る」能力
(P)' + (S) → (P)'' :差異化
「おだてながら人に頼る中で、人が解決できない問題は一人で解決する」能力
(S)''+(P)'' → (T):統合化

図で表すと下記のようになります。

つまり、普段は「人に頼る事」が難しい事を

(P) +(W) → (P)' : 差異化
「おだてながら人に頼る」能力

というように、

(W):人に頼る事ができる能力

(P):人をおだてる事ができる能力
というコンテクストの中で使えるようにする事で、(P)'という実践で(W)を使えるようにする事が大事です。

ただ、いきなり、仕事で人をおだててなかった人が急におだて始めると、周りもびっくりしますので、

(S) + (P) → (S)'  
「一人で問題の解決を試みる中で、他者をおだてる」能力

というように、「おだてる」というコンテクストを、仕事において持ち込む地ならしをするわけです。

例えば、自分も自分の問題を一生懸命解決している中で、ふと、他者が自分の役割をきっちりこなしている姿を見て

「さすが○○先生!、まさに天才だね!」

と言うように、あからさまにおだてても構わないです。その時は、他者から見ると、「なんか、馬鹿にされている?(笑)」と思われるかもしれません。

実際に、自分のパーソナリティなので、若干、馬鹿にしたような表情や口調でおだてられている事を、他者は感じるかもしれません。

ただ、基本的には、褒められているので、相手も気分を害する訳ではないので、そう言う「調子の良いやつだよね」という認知・ブランディングがされてきます。

ここでは、地ならし、セルフブランディングの段階なので、まだ「他者に頼る」ということはしていません。ここでは、自分が一人で問題を解決して「一生懸命」になっている姿から、一転「おだてる」スイッチを入れる練習ですが、そこに抵抗がある場合は、普段の日常会話の中で、「おだてる」という地ならしから入ることもあると思います。

何れにしても、地ならしができたタイミングで、

(P) +(W) → (P)' : 差異化
「おだてながら人に頼る」能力

にシフトします。

最初のうちは、本当に小さなお願いからスタートしても良いかもしれません。

単純な質問を他者に行うときに

こんな質問、○○先生にとっては簡単だと思うけど、・・・・・

と言うような形で切り出すやり方があるかもしれません。ともするとひねくれた言い方かもしれませんが、その人のパーソナリティと合致していれば大丈夫です。

あくまで人に弱みを見せる事が、全然できない段階なので、決して

こんな質問、○○先生にとっては、馬鹿馬鹿しい思うけど、・・・・・

と言うような、「馬鹿馬鹿しい」と言うような、自分の弱さを意味するような発言は決してできない段階です(笑)

このように、小さなお願いからスタートして、だんだん大きなお願いができるようにしていきます。

そして、

(S)+ (P)' → (S)'' :差異化
「一人で問題の解決を試みる中で、一人で問題の解決が難しい部分をおだてながら人に頼る」能力

にあるように、いよいよ、今まで大きな壁だった、一人では解決が難しい部分を、おだてながらお願いする事を実践していく事になります。

この段階になると、おだててお願いしても、相手にとっても、ちょっと難しい問題である可能性もあって、お願いしたときに、「うーん」と悩む場面があるかもしれません、その場合は、本当に「お願い」と素直に表現ができるような実践も加えていくと良いかもしれません。

このプロセスが慣れてくると最終段階としては

(P)' + (S) → (P)'' :差異化
「おだてながら人に頼る中で、人が解決できない問題は一人で解決する」能力

と言うように、おだてながらの無茶振りをどんどんした上で、相手の様子を見ながら、相手にとっても一人ではできない、こぼれた部分を自分がカバーすると言うやり方ができれば、相当に「人に頼る」という能力が磨かれた証拠になります。

以上のような、プロセスはあくまで、順を追って示した一つの例に過ぎないですし、実際には、もっと試行錯誤、複雑なプロセスを経ると思いますが、一つずつ分解する事で、一つの道筋が見えてくると思います。

最終的には、(S)''+(P)'' → (T):統合化

というように、相手や問題の状況によって、柔軟に

(T):一人でも問題の解決をする事にこだわらず、状況に応じて適切に人に頼る事ができる能力

に変容が起きます。

この段階にくれば、単に「人に頼る事ができる人」というものではなく

「調子よく無茶振りするけど、困ったらカバーしてくれる人」

というような、その人ならではの「頼り方」に質的な違いが生まれ、それが強み、武器になると思います。

このようにして、「自分は一皮向けた」「あの人は人が変わった」というような、能力の変容が起きます。

上図にあるように、この変容を引き起こすには、起点となる期待の再設定が必要と考えます。

ここでは、「問題が自分を変容させてくれる」という再設定をしています。

当初は、「一人で問題を解決できる」という期待でした。

この違いは何でしょうか?

それは、自分の変容を阻んでいた「真因」(真の要因)とは何か?という問いに答えがあります。

それは次のようなものでしょうか?

・親の教育?親の期待でしょうか?
・「膨張する自己期待」でしょうか?
・あるいは、自分のもともとの「性格」でしょうか?
・弱みを見せる事ができないという自分の弱さでしょうか?
・所属するコミュニティなどの組織の文化、制度でしょうか?
・他者の振る舞い、能力、性格でしょうか?
・自分と他者との相性でしょうか?

これらは全て「真因」ではないと考えます。

真因とは、下記図にあるように、

「他者を問題として捉えて、それを自分が解決する」を正しいと思い込み続ける

これが、悪循環を続けていた真因です。

悪循環を断ち切るには、思い込みを変える=リフレーミングが必要です。

どのように変えるかというと、下記図のように

「問題を自分が解決する」から
「問題が自分を解決する」に変える事です。

「問題を自分が解決する」という発想の世界にいるうちは、ずっと悪循環から抜けられないです。前回、シャドーのところで述べたように、実際には、自分の行動の結果に対して、自分の心のうちに発生させている気持ちを他者に投影してしまっている所に認知エラーがあるためです。

認知エラーを正して、自分の心のうちに発生する感情に素直に向き合い、その上で、自分の行動を理想的な変容((S)+(P)→・・・→(T))に向かって、ステップを踏み出していく必要があります。

正し、そのステップに欠かせない「リソース・資産」があります。

それが「他者」です。他者との関係性の中でしか、自分の弱み(W)は磨かれないのです。つまり、「他者」を問題と見なすのではなく、自分の弱み(W)を磨いてくれる貴重なものとして捉える事が重要です。

原石である(W)は磨いて(差異化)、加工(統合化)すれば、素晴らしいダイヤモンド(T)になります(変容)。

そして、自分の原石(W)を、ダイヤモンド(T)に加工させるためには、他者のダイヤモンド(T)が必要なのです。

自己(W) + 他者(T) → 自己(T)

他者が寛容に相手を受け入れる能力、他者(T)が高いほど、

自分の、(P)`=(P)+(W)という「おだてながら人に頼る」という未熟な部分を優しく、受け入れてくれて、自己(W)を磨いてくれるでしょう。

また、重要な視点としては、磨いてくれるのは、他者(T)ですが、自分に磨いてダイヤモンドになる原石(W)がある事を教えてくれるのは、他者(W)なのです。

他者(W)の姿を見て、自己(W)を思い出して、苛立たしくなるシャドーの投影があります。

他人は自分を写す鏡

といいます。自分にないWは、他者に見ることはできないわけです。

つまり、他者(T)だけでなく、他者(W)も自分を解決してくれる貴重な存在なわけです。

以上を理解した上で、変容を生み出す起点(Origine)は、

「問題が自分を解決する」という期待(Expectation)設定であり。

変容に向けた第一歩は、学習戦略を見直して(トリプルループ学習)、変容する(I Will Transform)と決意することから始まるわけです。

これは、意識の質的な変化であり、意識の変容という事ができます。

つまり、能力の質的な変化である、能力の変容は、意識の変容から始まるわけです。

前々回で述べたように

成長とは意識の変化から始まる

という事ができました。そこからスタートした、成長の旅は、能力の量的な変化を繰り返しながら、やがて壁にぶつかる事になります。

この壁を乗り越える、能力の質的な変容については

能力の変容は、意識の変容から始まる

という事ができました。

つまり、

能力の量的・質的な変化・変容は、意識的な変化・変容から始まる

したがって、成長の狭義の定義が

「能力的・意識的な量的・質的な変化・変容」

でしたので、

成長とは「意識的な変化・変容」から始まる

という事ができました。

つまり、成長にとって大事なのは

「変わろう!」(I Will Change)という意識の変化

壁にぶつかった時に、「問題が自分を変えてくれる!」(I Will Transform)という意識の変容

この2つが大事だと考えています。

結論

Growth is Change and Transformation!!


以上、3回にわたって、長々と成長について述べてきましたが、ゆめみにおいては、この原則に沿った上で、普段の職場において、いかに、意識の変化・変容を生み出すかといった成長できる環境づくりに踏み込もうと考えております。

その結果は、またnoteでご報告できればと思います!!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?