音楽の花嫁 #長編小説

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ノート

【長編小説】音楽の花嫁 19(最終回)

初回はこちら https://note.mu/rayshibusawa/n/n72bb8b7cdf6c

通夜と葬式はつつがなく行われた。最後、煙となったおじいさんを火葬場の外から眺めると、やっと肩の荷が降りたように思って安心してしまった。葬式は疲れる。兄も同じように感じていたようで、慣れないスーツのネクタイを緩めてシャツを腕まくりして、「あちー」と言って手であおいだ。母はそんな私達を見ながらくす

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何かあったら言ってねと言うのなら先に何かを言い当ててくれ
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【長編小説】音楽の花嫁 18

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「おじいちゃんは……お父さんは、フルートの名手だったらしいのよ。その道で食べていこうと考えていたくらい、でもその前に戦争にとられちゃったらしいんだけど。でも私は一度もフルートを吹いているところを見たことが無かった。それどころかお父さんは、ラジオでクラシックがかかると顔をしかめて消すくらいだった

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【長編小説】音楽の花嫁 17

初回はこちら https://note.mu/rayshibusawa/n/n72bb8b7cdf6c

その時の彼の表情の変化――一瞬の出来事だったそれを私は一生忘れないだろう。まるで卵を奪われた雌鶏のように怒りで顔が膨らみ、私に掴みかかるほどの血の気で沸き立ったと思ったら直後、悲しみと安堵と諦めとがいっしょくたになって一気に顔の上を通り過ぎるように青ざめ、しぼんでいった。そして彼の顔はまるで支

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【長編小説】音楽の花嫁 16

初回はこちら https://note.mu/rayshibusawa/n/n72bb8b7cdf6c

ふと視界の端でちらりと何かが動いた。目を上げると、そこにはバイタの群れからはぐれて、誰かの腐った分身がひとり、ぽつりと立っていた。手首につながれた鎖はちぎれ、飼い主に置き去りにされた、いや、飼い主をどこかに置いてきた迷い犬のようだった。こちらを怯えた様子で見つめているが、目は好奇心を隠せずきょ

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ボロを出すことこそボロを出さぬこと私はロボットではありません
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【長編小説】音楽の花嫁 15

初回はこちら https://note.mu/rayshibusawa/n/n72bb8b7cdf6c

遠くからいろんな声が混じり合った、声ともつかない何かが聞こえて来た。それは技師のいた部屋で聞いたマルタの声にも似ていたが、声と言うより悲しみや絶望そのものに近い、素手で心臓に触れてくるような何かだった。バイタの棺の中身よりもっとひどいものを見るだろうという予感が走ったが、足を止めることは出来な

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予定では何月に死ぬさつきちゃん予定通りに五月に生まれた
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【長編小説】音楽の花嫁 14

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「一番好きなものを思い出す」、そして「棺を上手く使う」。ネムルはそう言っていた。それと、「僕の棺によろしく」とも。でも男の人は棺を持っていないんじゃないだろうか。
 エレベーターで考え事をしているとあっという間に降りる階についてふためくように、気付いたら私は細い食道を落ち続けて少し広くなった場

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予定では何月に死ぬさつきちゃん予定通りに五月に生まれた
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【長編小説】音楽の花嫁 13

初回はこちら https://note.mu/rayshibusawa/n/n72bb8b7cdf6c

 

突然空が暗くなったので見上げると、黒いじゅうたんが落ちて来た。粉塵と風が顔を襲うのでとっさに腕でかばう。腕をほどくと、じゅうたんだと思ったのは巨大な鳥だった。夜を背負ったようにまっ黒で、私達二人を食べてもおやつにしかならないだろうというほど大きな、鳥というより恐竜に近かった。頭だけが黒を

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ボロを出すことこそボロを出さぬこと私はロボットではありません
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【長編小説】音楽の花嫁 12

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こんな形でメイドの言っていた「寝室を一緒にする」機会が訪れたのは皮肉だった。私は死に絶えた城で唯一呼吸している生き物、傷ついたネムルの傍にいたかった。自分のベッドに引き入れて飽かず眺めていた。
 ネムルがケガしたのは左腕、指が六本ある方だった。革の手袋は血を吸って赤黒く染まっていた。ネムルは私

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「新聞に載れば翌日ゴミになる」「それなら僕はゴミ箱になろう」
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【長編小説】音楽の花嫁 11

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たったひとりで音楽を作り、聴いた者は全員死ぬ。そんなネムルの今までの孤独とはどんなものだったろう。美しいとは言えないけれど、私はネムルの音楽を心から好きだと思う。もともとオーケストラから派兵されたのだからこれは裏切り行為になるけれど、私はネムルと一緒に戦うこと以外考えていなかった。ネムルの音楽

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かばん買う かばんが入るかばんより大きな袋にかばんが入る
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【長編小説】音楽の花嫁 10

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馬車から下されると、私は要塞のようなすさんだものをイメージしていたのだが、賑わう城下町に囲まれた中世風の美しい城がそびえていた。鎧を着た衛兵がつかつかと馬車に歩み寄る。私だけが連れて行かれる。技師と女性にはもう会わないかもしれない。
 城の中には一体こんなに必要なのかというほど家来が溢れていた

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所詮島そんなに急いでどこへ行くハワイも来るしミサイルも来る
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