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【ライヴ原稿】僕達の人生はデジタルではない



【原稿】

安易に型破りした奴を褒めないで
「感じ方は人それぞれ」って言って、センス無い奴を甘やかす言い訳にしないで

大変申し訳ございませんが、お客様の使用感ですとそういった感じ方になられることは承知いたしましたが、本製品はそのような仕様で作られており、そういったご対応はできかねます。

みたいな

機械 みたいな 型どおり
左様でございますか 作業でございますよ
機械 みたいな 型どおり
そう 仕様なんです 仕様がないです
機械 みたいな 型どおり

型型型型

キーボードをカタカタ!
カスタマーサービス!
9時5時で出勤!
確実さを重視!
速度も重視!
私語は禁止!
お菓子も禁止!
短針と秒針!
見つめるわたし!

五時になった瞬間 定時退社で休日

私がロボットより得意なのは、休みを喜ぶことだけだ。

でも心臓は休まない
でも人生は休まない
でも時の流れは休まない
だから、「時には休むのも大事」って、私を甘やかすだけの言葉だ。

「休みの日は何してる?」って聞かれるのが嫌いなんですよ。
別に私、休みの日って別にないって言うか、働いてる日と休んでる日があるわけじゃないっていうか、ていうか、別に働いてないし、休んでもないんですよね。働く、休む、って、人生を二つに分けるっていうのが、よく分からない。

休むのはロボットだけ。働くのもロボットだけ。
人間だったらいつもいつだって、型どおりでも安易な型破りでもない、新しい型を夢見てる。退屈を、窮屈を、偏屈を、ぐつぐつ煮えたぎる血潮の暴走を、がんじがらめの世界からの暴走を求めてる

人はそれを遊びというらしい。遊びはロボットにはできない、らしい。

ちなみに、私、まさに今も、遊んでまーす。

僕たちの時計はデジタルで 4時59分59秒と5時の間に時は無い
僕たちのピアノはデジタルで ドとド#の間に音は無い
僕達の人生はデジタルで 男と女しかいない
僕達の人生はデジタルで いいねとよくないねしかない しがない しかたない しかたなかった 勝った? 負けた?

型型型型 カタばっか 
型型型型 バカばっか 
ガタガタガタガタ うるさいな 
型型型型 カスか貴様
型型型型 かたくなだ
型型型型 あ、ごめん、いたかった? いや、全然大丈夫 あ、ごめん、まずかった? いや、おいしいよ
おべっかつかってあからさま まずかったもの あとでトイレに吐き捨てた

あーあー喉乾いちゃった

インドの首都はカルカッタ? ん? 首都? じゃないか? ジャマイカ? コロンビア? 軽んじないで転んだ先の杖 転んだ時に喉元に刺さった僕を殺した杖
杖 杖 つええ つええ 机の上の踏み絵

校長先生の机に生徒がうんこする映画があるんですけど知ってますか? 村上龍が原作の『69』っていう、高校生が学校をバリケード封鎖して反抗して、校長先生の机の上にうんこする映画です見てみてくださーい
校長先生の机の上にうんこできるか? という踏み絵

潰れないでねメンタリティ うるせーせんせーのすすめにしたがわないで
潰れないでねメンタリティ
娘の好きにやらせてやってください
娘は、お行儀良いのも、可愛いおべべも、おべっかも、ブルグミュラーも、バーナムも、バイエルも、吐いて捨てるほど嫌いなんです。教則本ばっかうまく弾けるやつなんて吐いて捨てるほどいるのに、私がやる意味ある? って言うんです。

「やる意味ある?」とか言っちゃう時点でやる意味ない。だって人間、やりたいことって、「やる意味ある?」とか言わずに、やるじゃないすか。

こうして娘はピアノを辞めました。「女の子が生まれたらピアノを習わせるのが夢なの」と言ってママが買ったグランドピアノがむなしくリビングを占領したまま、ほこりをかぶっていきました。
そして娘は、小説を書き始めました。だって、小説は型にはまってないでしょ。教則本なんかやらなくていいでしょ。って。まあ、そんなことないんですが。

型 型 あさはか
型 型 甘い罠

まあ、なにはともあれ、「女の子」と書いて好き
女の子よ、好きに、すすめ、すすめ、すすめ、すすめ
うるせーせんせーのすすめじゃなく 好きに、すすめ、すすめ、すすめ、
うるせーせんせーのすすめじゃなく 好きに、すすめ、すすめ、すすめ、
するめみたいに干される前に すすめ すすめ すすめ すすめ
するめは硬かった 私は味わった まずかった

型型 からかうな
硬硬 かんじかた

「感じ方は人それぞれ」って言って、味オンチに気付かせるチャンスを奪わないでくれ
「感じ方は人それぞれ」って言って、センス無い奴を甘やかす言い訳にしないでくれ
「使い方は君次第、」とか言って、使う人に丸投げしないでくれ。
作った人なら知ってるでしょ? ピアノが一番良く鳴る鳴らし方。
ピアノが一番良く鳴るのは、ここでも(側面を叩く)、ここでも(弦にボールを叩きつける)、なーい!!
ピアノが一番良く鳴るのはここ!(鍵盤を鳴らす)

君は自由だ、とか言って安易な型破りを容認しないでくれ。
ピアノは良く鳴るために造られているから、どのピアノも大体、良く鳴る鳴り方は同じ。
人間も大体同じ形をしているから、一番良く鳴る鳴り方も大体同じ。でもでも、私が一番良く鳴る鳴り方は今やってるこれなんです。
朗読でも、ポエトリーリーディングでもない、今やってる、これだったんです。
自分のやりかたに気付くのに30年かかった。か た 

型型 さかさま
型型 まさかさ

型にはまるでも型をやぶるでもなく、自分が一番良く鳴る鳴り方を手っ取り早く見つけるために、型を使ったら?

型型 つかいかた
型型 がたがきた

そのうち、人は、型に負けるの。そのうち人は、型そのものになっちゃうの。でも大丈夫、そしたら人をやめればいい。

私はそもそも何でもなかった。私はそもそも何でもなかったはずなのに、何かになってしまったとしたら、ちゃんと、さっさと、解散しよう。音楽のように、音楽性の違いで解散しよう。たまたま隣に並んだ音符みたいに、一瞬並んで、すぐ散って、すぐまた新しい音楽になろう。

僕たちの人生はデジタルではない。


【セルフ解説】


2017.9.23絵本塾ホールで行われたクラシックコンサート「感電アンドロイドは電気ウサギの夢を見るか?」のために書き下したもの。

コンサートのコンセプトは 「現役藝大生と藝大OGが、クラシックやら現代音楽やらファンクなのやら分からないけどピアノをいじり倒すという企画。ラッパー、小説家、サウンドアーティストを巻き込んでのパフォーマンス。」
公式HPより

ピアノとのコラボということで、「ピアノ」「クラシック」などから連想するもの=「堅苦しい」「型を学んだ後に個性が出てくる」「いわゆるお稽古事」「格調高い」などから、テーマを「型」に設定した。

「安易な型破りを認めないでくれ」から始まるこの演目、この一つ前の演目が、奇しくもジョン・ケージ「ウォーターミュージック」という、ピアノの弦を直接引っ張ったり、「型破り」なことをしまくる演目だった。(プログラムが決まるのがぎりぎりだったし、「ウォーター・ミュージック」がどんな曲かは当日初めて観て知ったから、めちゃめちゃ驚いた)
下手するとジョン・ケージをディスってる風に聞こえるよな……と思い、前フリのMCで精いっぱいカバーした。
ジョン・ケージみたいに、クラシックを知り尽くした上で積み重なるものとして現代音楽を作る人なら勿論アリなのだが、そうじゃない人が、ジョン・ケージ的なことをして「安易な型破り」をするのが本当に嫌いだ。

初めての試みというのは色々苦労があるものだけど、今回は演出家がまとめるクラシックコンサートということで、他の演目との兼ね合いとか、客層との兼ね合いとかで、削らざるを得ないところがあり、結構苦しかった。
いわゆる「コンプラ」である。過去の共演者の悪口言って出禁喰らってる私は割と素でコンプラに抵触しまくる名人のようで、「え?!そこだめなの?!そこ削る?!」みたいなこと連発。でも本番さあ、結局さあ、MC役のラッパーに「ファッキンポエマー姉ちゃん!」って紹介されて「ファッキンって言ったな!? 葬式に若干間違った格好で来たみたいな恰好しやがって!」とか言っちゃったよ。(ラッパーさんは黒スーツに黒ナロータイだった)(温和な人なので全然問題にならなかった。寛容~)

ちなみに作中の「基礎練習や教則本が嫌すぎてピアノを辞めて小説を書き始めた女の子の話」は、「渋澤さん本人のことですか?」と聞かれまくったが、全然そうじゃない。ただの創作です。
私は、まあ、東大に入るくらいだからかなり型にハマるのが得意な人間で、だから中三で受験期まで続けたピアノもむしろ喜んで基礎練習をしまくるタイプだった(ちなみに小説は小2から書いてる。)

私はむしろ、基礎練しないバンドマンとかマジ嫌いなタイプですね。あと、高校までクラシックをやっていたため、チューニングにもめちゃめちゃ厳しいです。チューナー使ってくれ、バンドマンよ。個性はその先だ。

【動画】https://www.youtube.com/watch?v=Uec7YyZ793c


※「私はロボットではありません」も、同日に公演しました。動画&原稿はこちら



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