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【即興実験小説】バツイチ子持ちはバツが悪い(15分・484字)

不倫が嫁にばれ、手ひどいやり方で不倫相手を捨てた。
「バツイチ子持ちか……」
捨てる時初めて男はその時その事実を知った。
「バツが悪いな」
その日から男の視界に大きな「バツ」が浮かぶようになった。仕事中もパソコンの画面をふさぐように。ベッドで横で眠る妻の顔を見てもそれを否定するように。

しかし男はさして気にしなかった。もともとそういう性格だから、不倫したり、不倫相手をバッサリ切り捨てたりできるのだった。今までもそうだった。

数年経ったが、男の視界からバツはいまだ消えず、しかし男は完全にそれに慣れていた。まるでメガネをかける人が常に視界に入るメガネのフレームを気にしないように。

相変わらず男はふしだらな行為ばかり続けていた。不倫はもはや手癖で、枚挙に暇がなかった。

また不倫が嫁にばれ、手ひどいやり方で不倫相手を捨てた。
念のため捨て際に聞いた。
「お前は独身か? 離婚歴は?」
相手は未婚の独身だった。
その日から男の視界に入る「バツ」が二つになった。

「あ、もしかしてこれ、ローマ数字か」
男はもちろん数えていなかったが、これは20回目の不倫だった。


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お題:彼女の幻覚 必須要素:バツ印  制限時間:15分  文字数:484字
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