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小説を審査する事がいかに難しいか ~小説を書く2泊3日合宿「noveljam2018」受賞式レポ~

2/10~12日の3日間、小説を書いて電子書籍出版をする、2泊3日の合宿「noveljam2018」に参加しました。この記事はnoveljam最終日の審査発表を通して思ったことを書いています!


■noveljamの審査基準って?

noveljamは、「初日に発表の『平成』というお題をもとに、3000~10000字以内の小説を書き、電子書籍化する」以外はノールール。つまり、純文学もラノベもSFもケータイ小説も……ぜんぶ同じ俎上に載せられるという大変珍しい舞台でした。

さて、そんな「ジャンル混合戦」の舞台では、どんな基準のもと審査されるんだろう??

私が始めに考えた審査基準は、「noveljamらしさ」つまり、

1 「平成」というお題の料理具合

2 「今、この場で書いたという必然性」(著者・編集者・デザイナーのチームワーク力)(2泊3日で作ったというスピード感、即興感、勢い等)

3 外部から見て、noveljamの成果物として電子書籍で200円で販売することに納得できる(つまり、「ちゃんと完結してる」とか「一定の完成度」とか「読み応え」とか)

この3点でした。


それ以外にも「noveljamである」ということを外れて、純粋に小説を審査する基準としては、

・文学的に新しい挑戦がある(新しいと言っても、「そのジャンルの中では新しい」or「そもそも新しいジャンルを作ってる」、「文体が新しい」…等いろいろある)

・読者が読んで単純に楽しい・面白い

・時代を映している・2018年に書く必然性がある

・文章が上手い、構成力、完成度が高い

・noveljamの名を背負って世に出るに足る完成度

・著者のオリジナリティが爆発してる

……などの審査基準が考えられると思います。


■ジャンルレス小説バトルにおいて私がとった作戦

私はめちゃめちゃ戦略的だし、初日に「売れてナンボ」という話を散々聞かされた(気がした)ので、「よし、売れる作品を作ろう!」「ターゲット読者を想定しよう!」「noveljamの作品が売れるとしたら、『ネットで話題になる』一択じゃない?だって紙で本屋に並ぶわけでもないし、イベントで手売りするわけでもないでしょ?」「よし、Twitterの話を書いて、Twitterでバズらせよう!」と決めました。

そして、そういう戦略も審査の中に含まれると思ったので、最終日の3分間プレゼンでは、「(上記の私の予測審査基準)1・2・3にいかにあてはまってるか」をアピールしました。(プレゼンの作戦については、当日にリアタイで書いた「レポ4」を読んでください!


しかし……フタを開けてみると……


私の予測する審査基準とは全然違ったんです!!!


というわけで私は、16作品中約半数がなんらかの賞をもらえる中、無冠に終わりました……ちくしょう!!!


■noveljamの審査基準はどんなものだったか

ええと、端的に言うと、ふつうに新人賞でした。

つまり、はじめに私が示した審査基準例のうち、

◎「著者のオリジナリティが爆発してる」

◎「文学的に新しい挑戦がある」

これらに高い比重が置かれ、

×「文章が上手い、構成力、完成度が高い」

×「読者が読んで単純に楽しい・面白い」

×「noveljamの名を背負って世に出るに足る完成度」

こっちは後回しにされてるように感じました。

しかし、じゃあ優秀賞となった二作が、文句なく「オリジナル」で「新しいか」というと…………そうでもなく……………………。二作とも「既存ジャンルを再生産した感がある」とツッコマれていました。(だから最優秀作は「無し」だったともいえるのですが)


つまり、バリバリの新人賞として機能してたかと言うと、そうでもなかった。


■「noveljamらしさ」はどれほど評価されていたか

じゃあ、私が初めに予測した「noveljamらしさ」がどれだけ重視されていたかと言うと……、ぶっちゃけ「審査員による」。

具体的には……

■1 平成というお題の料理具合 

→「平成」というお題を設定した審査員の方は、「平成がどんな時代だったか一番真摯に考えた作品に賞を与えた」とおっしゃっていました。しかし優秀賞の中には「お題を聞く前から考えてたプロットを書いた」つまり「お題無視作品」も受賞しています。

■2 「今、この場で書いたという必然性」(著者・編集者・デザイナーのチームワーク力)(2泊3日で作ったというスピード感、即興感、勢い等)

→「ジャム感」を高評価されて受賞した作品もあります。しかし上記の通り「家からもってきたアリモノのプロット」で受賞した作品も複数あり。

■3 外部から見て、noveljamの成果物として電子書籍で200円で販売することに納得できる

→正直、私のように平均よりは文字慣れしてる人間でも「これは……読めねえよ…しんどい…」と思ってしまう作品も受賞してました。つまり、いわゆる新人賞っぽい作品です。(通常「文藝」とか「群像」とかの新人賞って、審査員の講評(激オシメッセージ)とともに世に出るんですよね。そういう講評がつくから、下手or難読文体でも、「へえ、これすごいの? まあ読んでみるか」ってことになるわけだ。でも、今回は、そういう激オシメッセージもつかずにいきなり世に出ちゃうので、外部の多くの読者が「これは……読めねえよ…しんどい…」「いや普通に下手じゃない?」と思う作品も世に出ちゃってるけどそれは大丈夫なんだろうか、って思う)


つまり、「noveljamらしさ」が評価されてるかと言うと、「微妙」「人による」としか言えませんでした。

審査員の講評を聞いても、正直「マジで人によって審査基準がマチマチすぎる」。

「これじゃあ受賞した人は『自分のどこが良かったか分からない』からポカンとしちゃうし、落ちた人も『自分のどこがダメだったか分からない』から苛立っちゃうんじゃない?!」と思ったし、実際そういう人が沢山いました。

まあ、私は懇親会で審査員の人にガンガン話しかけまくったから、『自分の作品が落ちた理由』にかんしては完全に納得してるのですが(自分の小説の反省についてはこちらに書きました)、が、『あの受賞作品が評価された理由』が分からず、いまだモヤモヤしてる面もあります。


正直、最終日はかなりのモヤモヤを抱えたまま、東京のはずれのセミナーハウスを去ることとなりました。


…………が。


二晩が経ち、ちょっと考え方が変わりました。


■私が評価できる小説なんてそもそもほんの一握りだ

皆さんももちろんそうだと思いますが、私は日々読書や執筆をする中で、私なりの「好きな小説」「すごいなと思う小説」「読みたい小説」「書きたい小説」という評価軸をもっています。つまり、誰の中にも小さな審査員がいるんです。

そして、私の中の小さな審査員が高く評価する小説は「新しい」「時代を映している・2018年に書く必然性がある」などです。(くわしくはここに書きましたので興味があったら読んでください!)

「新しさ」に過重配点する私は、正直「◎◎モノ」ってカテゴライズされた時点で「カテゴライズされちゃうってことは、新しくないんだな」と思って読む気なくなるし、「ラノベです」とか言われた時点で読む気なくなったりもする。それはただ単にラノベが好きじゃないということでもあるけど、そもそもそうやってジャンルを断言できちゃうものがあんまり好きじゃないんだよね。例えば私は基本的に純文学が好きだけど、純文学の中でも「SFぽい純文学」とか「ミステリぽい純文学?」とか言われる、境界的な作家が好きで、実はバリバリの純文学は割と興味ないんです。オールドファッションな純文学を読むと、「あー、身体とか血縁とかモラトリアム青年が出て来て愛と性と死の話するやつかー。古ー」って思っちゃう。

だからそもそも私の中の小さな審査員は、「ラノベの中でも新しいもの」とか「身体とか血縁とかモラトリアム青年が出て来て愛と性と死の話する純文学」は、拾えないんです。

正直、noveljamの16作品の中には「あらすじの時点で興味わかない」「読む前からノーサンキュー」ものが、半分くらいあった。

そんな狭い見識の私が「なんであの作品が受賞するんだ! 意味わからん!」とか言うのって、ナンセンスだよな……ときづきました。だって極論を言えば、私は「最高のラノベ」の良さも分からないはずだもん。


■ジャンルレスの小説コンペをジャッジする審査員マジですげえ

審査員方だって、当然「好み」や「自分が目指す文学」などの偏りはあるだろう。

でも、いったんそれをフラットに戻して、「普段だったら絶対読まない小説」も含めた16作品を読んで、審査しなきゃいけない。

これが純文学新人賞の審査だったら、「はい、これはラノベだから審査対象外!」が通じるだろう。しかし、今回のジャンルレス審査では、それが通じない。「俺は純文学作家だからラノベのことは知らん」じゃだめで、「純文学作家だけど、一応ラノベの流れも一通り組んでるよ」という人にしか審査は務まらない。

実際、審査員方とお話しした際には、たった5分の会話でも「この人……めちゃめちゃ本読んでるな……!!」とビシバシ分かって、震えました。

多忙な中、大変な責任や使命感を背負って審査にあたられた審査員の方々には頭が下がるばかりです。とくに海猫沢めろんさん、米光一成さんは、「審査基準を明確に言語化できるスキル」が本当に素晴らしくて、作家のみならず審査員としてこれ以上力量がある方ってそうそういないんじゃないかと思います。あと、新城カズマさんはTwitterでマメにケアしてくださいました。審査に関して疑問が残る人はTwitterでつぶやくと、ひろってもらえるかもしれませんよ!

ちなみに、「は? この人、何言っとんじゃ? 全然わっかんね」という審査員の方もいました。そういう意味でも「私の内なる審査員はとても料簡が狭く、私と評価軸の異なる人間はごまんといる」と知れる良い機会となりました。


■ただ……

そんな中でもやっぱ、このコンペに対する要望を言うと……

審査基準は事前に明確にしてほしかった!!!

ジャンルレスバトルだからこそ、事前にルールを明確にしてほしかった!!

正直、「今回はこういうのが評価されるだろうな」と思って戦略的に動いた人間ほど損をして、天然の人が勝っちゃった印象があります。

我々著者のためのみならず、大会を外部から見てた読者や、来年参加を検討してる人のために、事後でも良いので、全審査員の審査基準について文字でまとめたものを、どっかで読みたいと思います。

※追記 後日、米光一成先生が審査員レポを書いてくださいました! 順次更新のようです。うれしいー


■そして…… 渋澤怜全作品レビューの始動

私はこれから、noveljamの16作品全部を読んで、レビューしてみようと思います。もちろん、審査員とは全然異なる評価軸=「私の中の内なる審査員」による評価レビューになりますが、それを書くことによって学びがあると期待するためです。

すなわち「あ、私はこういう小説を高く評価するんだな」「この作品の良さは私には全然分かんなかったけど、あの審査員の人はこう言ってたな。そういう良さもあるんだろうな」という学びです。


■最後に!!

ここまで読んでくれてありがとう。そろそろ、「いやいやお前いろいろ言ってるけど、お前が書いた小説はどんなんじゃい?」と思い始めた頃じゃないですか??

私がnoveljamで著した7000字の短編「ツイハイ」は、こちらで200円で販売してます! 立ち読みで6割読めるので、とりあえず読んでみてください!

kindle版はこちら(こっちだと立ち読みできないっぽいです、お手数ですが立ち読みは上記のbccksを参照ください)

そして! 最終日で大マケした私のために、逆転のチャンスがあるんです! それは3/26に行われる「アワード」で、そこでは一番売れた作品が受賞するんです!! もう私はこっちを狙うしかありません。このレポを読んで何か思う所があった方は、この電子書籍を購入してもらえると嬉しいです!面白いです。

実際、審査発表前の前評判では、かなりキテてたんですよ、「ツイハイ」……みんながあまりに褒めてくれるから、私も普通に最後に呼ばれる=優勝だと思ってたんだよ笑

「面白い」小説を読みたい人はツイハイがおすすめだよ!



■noveljam参加中の私のリアルタイムレポはこちら→ レポその1 その2 その3 その4

■「noveljamって何?」という方は、鈴木みそ先生のこのレポマンガがめちゃめちゃ分かりやすいのでぜひ一読を! 私も出てます笑https://note.mu/miso/n/nf820acc8c4e5 ↓↓


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★渋澤怜のTwitter→ https://twitter.com/RayShibusawa

★『なんで東大卒なのにフリーター? 〜チャットレディ、水商売、出会い系サクラ…渋澤怜アルバイト遍歴とこれまでの人生~』
https://note.mu/rayshibusawa/n/nb6ca37670da8?magazine_key=mf858e39e18e9

★おすすめエッセイ https://note.mu/rayshibusawa/m/mb0d4bde3bf84
★おすすめ創作群 https://note.mu/rayshibusawa/m/m70e04479475e







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