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【即興実験小説】僕の朴訥な独特な毒、道徳を冒涜、孤独に購読。(15分・705字)

お題:悲観的な兄弟  必須要素: 悲劇 制限時間:15分 
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強盗殺人のニュースが流れた。被害者は強盗に刃物で一撃で殺されており、おそらく犯人は相当のやり手、被害者は何が起こったか把握する暇もなく死んだだろう、とテレビのコメンテーターが言っていた。
「よかったよね、何も考える暇がなかったなんて」
楽観的な弟はいった。
「そうかな? 遺言も残せなかったし、だれに殺されたのか、どうして死ぬのかも分からないのは悲劇だと思う」
悲観的な兄はいった。
「でも、ゆっくり殺されたなら遺言を残せるものかな?」
「多分、そうだと思う」
弟は台所に包丁を捕りに行く。
「じゃあ、10分後に殺すよ。遺言を聞くけど、って言われたらどうする?」
「うーん……」
切っ先を見つめながら兄はうなる。
「本当に殺されるわけじゃないから、せっぱつまらないし、全然思いつかないな」
「お前のそういうところが胸糞悪いんだよ!! いつもねちねち!! 理屈こねやがって!!!」
弟が包丁を振り上げ、兄のふともものすぐ隣にあったクッションに突き刺した。クッションの綿が飛ぶ。
「……どうだった? 何か思いついた?」
「うーん……」
また兄がうなる。
「人生に対してなんの欲求も無いのかな、と思った。あ、パソコンのあのフォルダ消さなきゃ、とか、あの本返さなきゃ、とかしか思わなかった。でもそれも、本当に死ぬならどうでもいいことだし……。ところで、さっきのは本音?」
「ああ、本音だよ。いつでも殺してやりたいよ、兄弟」
兄が挑発に乗り弟の手から包丁を奪う。しかし、すぐに力なくおとす。
「特にやりたいことがない……。もしお前が、何も考えずに苦しまずに、何が起こったさえ分かりたくなく死にたくなったら、おしえて。お前がそうなった時のためだけに生きててもいい。でも、お前は俺に連絡した時点で、何が起きるか分かっちゃうんだから、矛盾だよな。俺のいきる意味……」
「悲観的だな~」
楽観的な弟が言った。



渋澤怜(@RayShibusawa

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お題:悲観的な兄弟  必須要素: 悲劇
制限時間:15分  文字数:705字
http://sokkyo-shosetsu.com/ このサイトを使っています。※二分加筆

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