音楽の花嫁_表紙

【長編小説】音楽の花嫁 13/19


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突然空が暗くなったので見上げると、黒いじゅうたんが落ちて来た。粉塵と風が顔を襲うのでとっさに腕でかばう。腕をほどくと、じゅうたんだと思ったのは巨大な鳥だった。夜を背負ったようにまっ黒で、私達二人を食べてもおやつにしかならないだろうというほど大きな、鳥というより恐竜に近かった。頭だけが黒を纏い忘れたようにピンク色の肌がむき出しだった。
「驚いた、人形使いか」
 鳥が喋った、というより、胃の中に入っている誰かが喋ったようだった。
「あんた誰ー? 着ぐるみ?」
 ネムルはびびらないのか無邪気にそう言ってのける。
「いつもお目にかかっているじゃないか、ネムル大佐」
「こんなデカい奴知らないよ? もしかして、コンコルド?」
「今回は死体が多いのでね。私も大きくならざるを得なかったのだよ」
 そう言うと、コンコルドと呼ばれた鳥はハテナマークのように長い首をくねらせてオケの死体をついばみ始めた。ついばむと言っても、嘴で大の男をひょいと持ち上げてそのまま呑み込んでしまうのだ。器用な人が箸で豆をつまむようで、あっという間にオケは跡かたもなく消えてしまった。
「で、ネムル大佐、今度は何をご所望かな?」
「それがさー。もう音楽はわりと極めたかなー、と思ってて。もう倒す敵もいなくなっちゃったし」
「すぐ二軍が上がって来るだろう」
「二軍なんかしょぼいよー松脂分泌促進用の事務部隊じゃん」
「それもそうだが。正直私も喰いたいとも思わない」
「でしょー。それでさあ。全滅させてあげたご褒美に、ちょっと、女王様謁見ツアーに連れて行ってほしいんだけど!」
「全滅させたのはこちらのお嬢さんではないか」
 コンコルドがこちらを向いた。巨大な滑り台のように首が私の方へ伸びてくる。
「あ、あの」
「ははは。あなたのことは喰いませんから、そんなに怯えた目をしないで。一軍の上質なお肉をさんざんご馳走になりましたからね」
「あなたが、女王の使いなのね?」
「左様。戦争が平定され、女王も大変お喜びでしょう。是非、大佐と一緒に女王の城にご案内したいのですが」
 どうやらお互いの意図が一致したようだ。
「なんだー、結局連れてってくれるんじゃん!」
 ネムルが跳ねる。
「人形使いが現れたとなれば、女王にお見せしないわけにはいくまい。まあ大方、『じゃあ大佐とこの女を殺し合わせなさい』という話になると思うが」
「ヒツジ、どうするー?」
 そんな、ピクニックに誘われたようなノリで聞かないでほしい。今ぞっとするようなことを鳥が言ったような気がするのだが。
「というより、逆らう道も無いんだがね。せいぜいご褒美の品は何がいいか、道中で考えていてください」
 ふいに視界が真っ黒で埋め尽くされ、濃い獣の匂いが立ち込めた。尻がぞわりとして、浮いたと思ったら、ネムルと一緒に鳥の背中に乗せられていた。
「降りると、死にますから」
 飛ぶと言うより空を串刺しにする勢いで、コンコルドが離陸した。
「わーこれが絶滅危惧種の音速怪鳥コンコルド! 一回乗ってみたかったんだよねー」
 ネムルははしゃいでいるけれど、キーンという音と轟音がカンナで耳を削るようで、私は返事さえ出来ない。身体が機体から引き剥がされそうで、目も開けられない。
「ヒツジ、羽の中に隠れるんだよ」
 ネムルが私の手を引っ張った。再び濃い獣の匂いと、ねとりとしたぬくもりが私を受け止めた。
「これで快適ってわけー外は見えないけどね」
 確かに決して嫌ではない、まるで生まれる前の卵のような安心を感じてコンコルドの羽の中に身体をあずけた。
「ねえ、これって本当に音速なの?」
「そうらしいよーコンコルドが嘘言ってなきゃ」
「じゃあここで私が『あ!』って言ったら、その声はずっと私についてくの?」
「ははーヒツジ、バカじゃないのー。そしたら今会話出来てないじゃん」
「そ、そっか……」
 それもそうだった。
「じゃ、じゃあ、素敵な楽器の音がして、ずっといつまでも聴いていたいと思ったら、コンコルドに乗って追いかければいいの?」
 いつまでも聴き終わらない音楽があるとすれば、それはとても素敵な気がする。
「まあ、もしかしたらそうかもしれないけど、実際はソニックブームとかあるし無理っぽいよね、今も外うるさいし」
 そう言えば、オケとの対決が始まる寸前、両耳を貫通するようにキーンという音が走ったのを思い出した。あれはもしかしたらコンコルドがやって来た音だったのかもしれない。審判のように上空を旋回して、私達を見ていたのかもしれない。
「ねえ、じゃあ、もし音速より速く飛んだら、過去の音が聞けるの? 理論上は」
「どうだろうねー。でも実際僕の逆再生エフェクトもコンコルドが作ってくれたんだよ」
「そうなの?」
「うん。とにかくあらゆるエフェクターはソニックブームとやらを利用して作っているらしいよ」
 そんなことを話していると早くもコンコルドが減速し始めた。
「ああそうだヒツジ、言い忘れてたけど、女王の腹の中には女性しか入れないらしいから、ヒツジひとりで行ってきてね」
「ええ?! 何? 今なんかすごいこと言った?!」
 着陸が近付くにつれてだんだんと大きくなる轟音の中で自分の聞き間違いだったことを願う。
「腹の中は酸性だから男が入ると死んじゃうんだってさ」
「ていうより、お腹の中に入るの?」
「うん。まあ、会えば分かると思うけど女王を倒すには内側から以外無いよ。それに人肉食として有名だし」
 ネムルは前方を指さしパイロット気取りで「ちゃっくりーく」と言った。うっそうとした羽の中で私達はドスンとトランポリンのように跳ねた。どうやら地上についたようだ。
「そ、それで、ネムルはどうするのさ?」
「んー、コンコルドと駆け落ちかな? まあ、悪いようにはしないって」
 ずっと今まで一緒だったのに、ネムルと別れて一人、しかも女王に食べられてお腹の中に乗り込まないといけないなんて。地面に降り立つと事態が進んでしまうようで怖かったが、コンコルドがぶるぶる身体をゆすったので、どさりと振り落とされてしまった。
 いつの間にか夜が来たのか。というよりここはいつも夜なのだろうか。黒に慣れ染まり忍者のように息を潜めている、しかし相当大きい城が存在していた。コンコルドの羽根もここにずっといたからこの色に染まったのかもしれない。
「そう言えば、褒美は決まったのか?」
 コンコルドは無様に地面に落ちた私達二人を見下しながら言った。ネムルは立ち上がり、
「僕とランデブー、で、どう?」
「は?」
「僕はヒツジと刺し違える気は無いからさー。作戦を練ったわけ。ヒツジが女王の腹の中に飛び込んで、内側から女王を倒す。クーデターってやつさ」
「……」
 コンコルドは今にも突き刺そうとするように嘴を差し向けて、ネムルを睨んだ。私はいくらコンコルドとネムルが仲よさそうに見えたって、臣下にクーデターの話をするのはまずいんじゃないかとひやひやした。しかしコンコルドの嘴はネムルを突くことは無く、
「今まで女王の腹の中から帰った者はいないが……人形使いなら、あるいは」
と神妙な様子で言葉を洩らした。
「でしょ。君だっていつまでも女王にお仕えして腹の中のものを献上するのは嫌でしょ」
「まあ、試す価値はあるな。それで、ランデブーというのは?」
「ヒツジが女王の腹に入ったら、僕を乗せて逃げて欲しいんだ」
「お嬢さんを残して?」
「大丈夫。このお嬢さんは最強だよ。僕だって死にかけた」
「ほう、大佐が」
「ねえ、僕の城、今死体パラダイスなんだよ。無事連れ出してくれたらいくらでも喰わせてあげるよ」
「それは任務外の食事だから、思いきり咀嚼出来るな。魅力的だ」
「ねえ、ネムル、なんだか、意味が分かんないんだけど」
 私はネムルの軍服の裾を引っ張った。
「ヒツジ、いいことを教えてあげるよ。さっきからものすごく大きな、君とよく似た心拍が聞こえる。もしかしたら女王と君は、何か近いものがあるんだよ」
「え」
「それと、その中からもうひとつ、似た音が聞こえる。もしかしたらおじいさんかも。腹の中で再会出来るかも」
「そうなの? ていうか女王って一体何なの?」
 ネムルはそれには答えず、私の両肩をがしっと掴んだ。
「ヒツジ、これは試練だよ。お客さんとして来たからにはこの世界に用事がある。それを済ませないとここに来た意味が無いし、そもそも帰れないし、何者にもなれないんだよ。ヒツジ、君と同じくらい美しい心拍を女王は持ってる。女王にも音楽があるんだ。女王の音楽を鳴らすんだよ」
「え、意味分からないんだけど。もしかしてネムル、自分が女王の中に入れないからって、都合のいい女がやって来るの待ってたんじゃないの? 私を利用する気なの?!」
「おっと、それくらいにしてください。衛兵が近い」
 コンコルドは羽を振りかざして私達を制した。

 普通の人間の二倍以上の背丈があるコンコルドもやすやす入れる大きな城門には、お飾りにしか見えないサイズの普通の人間がおり、コンコルドが近付いてくると目礼をした。コンコルドは目礼を返すことも無く、私達に続けと言わんばかりに城門をくぐり抜けてぐいぐいと進んでいった。
 城の中も真っ暗で、ひたひたと廊下に響くコンコルドの足音だけが道しるべだ。ときどき目の高さに白いものが浮かんでいて、ヒトダマかと思ってぎょっとするのだが近付いてみると見張りの兵士の白目なのだった。
 黒い世界をひたすら歩くので時間の感覚も麻痺してくる。もう一晩経ったんじゃないかと思った時、コンコルドが唐突に立ち止まった。大分闇に目が慣れていたのでコンコルドの前にとても大きい扉がそびえているのが分かった。
「ついた。ここが、女王の間」
 ここにも勿論衛兵がついていたが、コンコルドの方がはるかに位が高いのか、睨まれることさえ無かった。
「おっじゃまっしまーす」
と言って果敢に扉を開けるネムルに対しても何も咎めが無かった。
 板が割れるような音がして扉が開いた。扉の先はまるで朝を閉じ込めたように明るく、光は闇に慣れた眼球に消毒液のように染み込む。あまりの痛さに瞼を閉じたがまるで無力で、光は容赦なく私の眼窩から入って頭蓋骨の裏側までを突き抜けた。光が染み込むのと共に頭の中が洗い出されたように新しい考えが生まれて来た。そうだ、一度は捨てた身だ。ネムルに利用されていたのか、なんて、あさましい。用無しだったはずなのに利用してくれるなんて嬉しいことじゃないか。進める方向に進もう。
 ゆっくりと目を開けるとその部屋にあるものは全て白く、シャンデリアも大理石の床も互いが互いに反射してぴかぴか輝いていた。
 体育館のステージを覆う緞帳のように大きな白い布が、私達の視界の大半を占めていた。そこから二匹の恐竜のように白い何かが頭を出している。
「待っていたよ」
 はるか頭上から降って来たその言葉で、その布は女王のスカートで、恐竜は女王の足なのだと分かった。ネムルと私、二人で見上げて思わず息を呑む。コンコルドでさえ女王の膝にしか届かないだろう。白い布に包まれた肉が積み上がって、一番上の方には車くらいある肌色のあごが見える。確かにこれは人間のようであった。
「女王様、先ほど行われた戦いはネムル大佐軍の大勝利、オーケストラ軍を全滅させました」
 コンコルドは女王の膝元に飛び乗り、精一杯首を上に伸ばしてそう告げるのだった。おかしい、怪鳥コンコルドが可愛いペットのように見える。
「はあ、そんなことより私はお腹が空いたよ、コンコルド。早くそのふとっちょなお腹の中身を見せて頂戴な」
「かしこまりました」
 コンコルドは女王の膝から飛び降り、
「ぐえっぐえっ」
と首を絞められたような奇怪な声を出しながら首を突き出すと、おじぎするように床に嘴をつけて苦しそうに何かを吐き出した。胃液がつるつるの床を汚し、私達の方へも耐え難い臭いが迫って来る。コンコルドが次々と吐き出しているのはぬるぬるの粘液に包まれた人くらいの大きさの何かであり、怖れながらも目を凝らして見ると、それは、やはり、先ほど負けて食われたオケの男達だった。見覚えのある顔もある。コンコルドの腹の中で漬物のようにびしゃびしゃになって、次々と重なり合いながら床に押し出されてくる。
 何分もかかってコンコルドがやっと五十人分の死体を吐き出すと、
「どれどれ」
と言ってブルドーザーのような巨大な女王の指が死体をつまんでいく。高くてよく見えないが、確かに女王はそれを口の中に放り込んでいる。
「全滅って言ったかね? 随分とまた沢山運んで来てくれたことだねえ」
「はい。人形使いの娘が現れたのです。ネムル大佐の助っ人として」
 女王の指がつまんだところが悪かったのか、すでに溶けかかった男の身体から首がぼとりともげた。
「うげー」
 今まで耐えていたのについに限界が訪れたのか、ネムルが苦しげな声を洩らす。私は息を止めて、自分が吐きそうになるのを堪えている。
「おや、誰かいるのかい?」
 ネムルの声を聞き取って女王が言った。
「はい、ネムル大佐と、人形使いの娘を連れて来ております」
 コンコルドはすっかりスリムになり、そして吐き疲れたのかぐったりとした様子で答えた。
「どれどれ、乗せておくれ」
 女王が言うと、コンコルドはよろよろと近寄り私たちを拾い上げ、ネムルを女王の右手、私を左手の上に乗せた。ふかふかの手の平はトランポリンの上を歩いているように沈み込み、動きにくい。
「ほう」
 女王の顔は私達の方を向いていない。さっき声を発するまで私たちの存在に気付かなかったし、どうやら盲目のようだった。
「ネムル大佐、このたびの大勝利、おめでとう。よく働いてくれたね」
「どーも、どーも」
 ネムルは鼻をつまんで手を振りながら答えた。女王が口を開くと、先ほど呑みこんだ死体の臭気が降りかかってくるのだった。
「それと、こっちが人形使いの娘ね。命を投げ出して楽器に堕ちるならともかく、生きたまま自らを楽器に仕立てるなんて、これは、見上げた、そうそういない、見世物だね。忌まわしい……、よくものうのうと表を歩けるものだね」
 あまりの臭気が目にまで染みて涙が止まらない。しかし女王の言葉は私の心を蝕みはしなかった。
「別にいいの。私は音楽を聴ける、そして、歌うことが出来る。あんたと違って、色のついた鮮やかな世界を生きていける」
「はっはっはっは。私の手の平の上でものを言っているのを忘れるんじゃないよ。それでネムル大佐、この娘をどうするの?」
「どうするもこうするも。妻ですから末永く幸せに暮らすとしますかな、ちゃんちゃん」
「妻?」
 女王の手の平が激しく振動し転びそうになる。
「夫なら棺を奪って差し上げなさい。恥ずかしくないのかい。それとも、それが憚られるくらいの醜女なのかい? コンコルド?」
「ハッ、棺の中身はまるで天使のごとく光り輝く美しい娘でございます。オーロラ色のドレスを纏い、頬は薔薇色、肌は陶器のように白くなめらかです」
 女王が両の手の平を近づけたので、ネムルと私は普通に話せるくらいの距離になった。
「だとしたら、なおのことどうして?」
 降ってくる女王の声に
「それは、ヒツジが望んでないから」
と叫ぶようにネムルが答えた。
「女の幸せは重い棺を愛する人に取り去ってもらって、幸福な家庭を作ることだよ、棺を歌わせることじゃない」
「嘘だ。その愛する人とやらと幸福な家庭とやらを作って満足している人が何人いる? みんな、死にたがってるじゃないか。僕が全部殺してる、それでお前が食ってる。こんな世の中は終わってる。女王、音楽を世の中に返して下さい。あんたは古いよ」
「なんだって? 男はともかく女はそれで幸せだよ。少数の、家庭を顧みない者が戦争に明け暮れているだけじゃないか。難しいことを考えないで嫁さんの幸せだけを考えてやりなさい」
「ヒツジは幸せだ」
「はー。戦争ボケの大佐には分からないわね、女心は」
 ぴきりとこめかみが動いた。なんだかこのいらつきは懐かしくもあった。メイドのおばさんに対して感じたような、いや、もっと昔によく感じていた、全然好きではないけれど、でも親しみのある感情。
 女王がくっくっくっと笑ったのが手の平の揺れで分かった。
「どう、ネムル大佐。選ばせてあげよう。今すぐこの娘と交わるか。それとも殺して棺を奪うか」
 女王が手の平を閉じた。私とネムルは首から下を女王の四本の指にがっしり掴まれ、逃げられない。
「僕は、どっちも、嫌だ!」
 ネムルが叫んだ。
「じゃあ、どっちも食べちゃおうかしら?」
 その時コンコルドが素早く飛んで来て女王の肩に止まった。
「女王、ネムル大佐は身体中に機械を身につけており、消化が悪うございます。私めが取り外しておきますから、先に人形使いをお召し上がりくださいませ」
「あら? そう? しかし女は女で消化が悪いのよ」
「人形使いの踊り食い。この世の珍味として有名でございます」
「そうなの? コンコルドは何でも知っているねえ。久々に食べる踊り食いが珍味とは、私もラッキーだこと」
 コンコルドが女王の開いた手の平からネムルを受け取った。逆の手の中の私は高く持ち上げられ、早くも女王の口の中に放り込まれそうになる。歯の一個一個が遺跡のように大きく、隙間だらけでいくつかは朽ちていた。これだったら咀嚼されずに腹の中へ落ちるのは簡単だと思った。
「ヒツジ! 一番好きなものを思い出すんだよ! それと、棺を上手く使うんだよ!」
 コンコルドの背の上でネムルが叫んでいた。
「何言ってるんだか知らないけど、夫婦の別れの割にはあっさりしてるねえ」
 女王が言う。
「ヒツジ、信じてる! あ、それと、僕の棺によろしく!」
 ネムルがそう言うのとコンコルドが素早く羽根を一枚抜き、女王の口にダーツのように投げ込んだのが同時だった。あまりに素早かったので女王は羽根を呑みこんだことに気付きもしない。そしてコンコルドは音も無く、滑るように部屋を去った。
「ふうん」
 女王は指先で私を弄びながら眺めた。目玉は水たまりのように大きく、そして黒目は白目に溶けるように薄かった。
「ふうん……親不孝者め」
 女王が呟き、指を離した。ブラックホールのようにまっ黒な口の中に吸い込まれ、食堂へとつながる細い道を落ちながら、女王の発したその言葉が妙に引っ掛かった。
「……親?」


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