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財布のヒモが超固いし他人の意見も全然聞かない私が、店員さんにほだされてコロッと高いお菓子を買ってしまった話


いつも読んでくれてる人ならご存知だと思うけど、私は、他人の意見を全然きかない。めちゃめちゃ頑固でプライド高くて他人に頼るのが下手だから、他人に相談してうまくいったためしがないし、それゆえさらに相談しなくなって相談下手が加速していく……というスパイラルに入ってる人間だ。服屋に行っても、店員さんのいう新作ですよとか着回し効きますよとかやっと再入荷したんですよとかは全部ラジオだと思って聞き流して、家にある服を思い出しながらうまく合わせられるか高速でシュミレートするのに夢中だ。

そんな私が、少額とはいえ、店員さんにほだされて買う気の無い高いお菓子を買ってしまったことは、屈辱的であるとともにかなり痛快な買い物体験だった。だから今日はこれについて書いておこうと思う。

それと、私がリスペクトしてる下田美咲さんも「自分が他人にお金を払ってもらうためには『自分がどんな理由でお金を払うのか』を記憶、学習するのが大事」ということを言っていたので、そういった意味でも書き留めておきたいと思う。

それではヒアウイゴ。

2/25、引っ越し二日前の私は、中野マルイを訪れていた。新居の大家さんと隣家への挨拶用のお菓子を買うためだ。

(中野のマルイの一階はデパ地下みたいになってていろんな和洋菓子が売っているんだけど、しみったれた店が多いため、全然評価してない、ただ、試食の気前がやたら良いので近くに来たら必ず立ち寄っている。)


入店前に

・大家さんには1000円くらいのそれなりのもの。

・お隣さんはそもそも挨拶しない人もいるくらいなわけだしあげるだけ十分。うちと同じ単身暮らしの間取りだろうから、小さいお菓子一個入りの500円以下のでいいや

と決め、しみったれてるかわりに値段も手頃な中野マルイでさっさと安いお菓子を買って最短で出ようと決めていた(そう決めないと、あまりにお菓子が好きすぎて延々と売り場をぐるぐるしてしまうからだ)。

別にお隣さんの舌が肥えてるか分かんないし、そもそもお菓子が好きかもわかんないから、私がおいしいと思うお菓子を送る必要はない。最短、最安値で決めようと思っていた。

だから、期間限定店として出店していた京宇治茶ポップコーンの錦一葉なんて、一目みてマルイの価格帯より上なのは分かったし、試食くれそうだから足を止めただけで、全然買う気は無かった。

「あ、試食ある」と思って近寄ったけど、それを悟られたくなくて真面目に物色するフリをしていた私にたいして、販売員のお兄さんは、にっこりほほえんで速攻で試食をくれた。試食を出し惜しみする店員って多いから、これは嬉しい。三種類あるポップコーンのうち、ほうじ茶ポップコーンを手の平にのせてくれる。食べる前の私は「別にポップコーンって好きじゃないし、お茶味~?」と思って全然期待してなかったけど、これが、ほうじ茶の香りがふわっと鼻までのぼってきて、でもしっかり甘く濃くもあり、すごくおいしくて驚いた。一時流行った、リッチで甘い高級ポップコーンの、甘いだけじゃないバージョンって感じ。

私がほわほわと感動していると、お兄さんは矢継ぎ早に玄米茶味、抹茶味もくれた。つまり売ってる味の全てを味見させてくれた。これだけで好感度アップだ。だいたい皆、季節の推しの一品しか味見させてくれないじゃないか。

あとのふたつも超おいしかったけど、ほうじ茶のファーストインパクトを超えるものはなかった。そもそもほうじ茶味って珍しいし、初めての味覚体験というだけでインパクト大だ(二番目においしかったのは抹茶だけど、やはり既出感が否めない)。

おいしかったけど買う気の無い私は、

「一とおり他のお店も見て、また来ますね~」

と言ってその場を離れた(買う気が無い時の常套句だ)。で、中野マルイのレギュラー店舗をまわって「やっぱ、パッとしねえな、ゴディバと横濱フランセが幅聞かせてる時点でパッとしねえよな。安いけど」と思いながら再びポップコーンの前に戻って来た。当たり前だけど一店舗だけ価格帯が抜き出ているから魅力的なのだ。

数分しか経っていないので私の顔を覚えていたお兄さんは、

「これ(700円の筒)の倍の量はいっているのがこちら(1200円の筒)で、こちらは三種類の味が楽しめるからお得ですよ」みたいなことを言ってきた。

その時の私はまだ、「700円の方はお隣さん用としては予算オーバーだし大家さん用には小さすぎる、1200円の方は大家さん用としても予算オーバーだしポップコーンってどうも定番じゃなすぎるし好き嫌いもある気がする……」とか考える冷静さがあった。

なので、お兄さんに対し「すごくおいしかったんですけど、あげる相手がポップコーン好きか分からないんで、迷ってるんですよ~」と返した。これまた、試食したけど買わないときの罪悪感を消すための常套句だ。(ほかにも日持ちや個数が合わない、とか、いくらでも断り方はある)

そしたら、それに対するお兄さんのアンサーはこうだった。

「そうなんですね。うちのポップコーンは、お茶うけとして作っているんです。珈琲にも、日本茶にも、紅茶にも合うようにできてるんですよ。それと僕の個人的なおすすめは牛乳と合わせることですね。クリーミーになってすごくおいしいんですよ」

なんだかその言葉を聞いた途端、私の口の中で先ほど展開していたほうじ茶ポップコーンの香りが一瞬で蘇り、牛乳と素敵なマリアージュを繰り広げ始めた。

「うわっ、たしかに、牛乳と合いそう……!!」。

私は元から牛乳が大好きなのだ。

(ちなみにお茶受けという概念が、私はよく分からない。お菓子がおいしすぎてお菓子お菓子お菓子お菓子と永遠に食べてられるしそれ以外に何もいらない、どんなにおいしいお茶でも絶対にお菓子に負けるから、「お茶受け」なんていうお茶の二軍みたいになるお菓子なんか存在しないと思う。だからこの時点で私が「このポップコーン、牛乳に合いそう」と思えたのはかなり奇跡的なマリアージュだったから、と言える)

お兄さんはさらに「こちらの紙袋に入れて、更に手提げにお入れする形になります」と説明してきた。

それを聞いて私は、「あ、『大家さんにあげるにはポップコーンってチャラいしこのプラスチックのパッケージも微妙』と思ってたけど、二重包装にしてくれるならきちんと感も出て良いかも!」と思い始めてしまった。もう前提ぐらぐら、「必要」から「買いたい」へ見事にシフトしてしまっており、あれよこれよと屁理屈をつけて「買いたい」私が「必要」担当の私へ必死のプレゼンをし始めている。

そういうのを見越してるのか知らないが、お兄さんは「やっぱりほうじ茶が一番珍しくておすすめですよ」と促してきた。

「そうですね、ほうじ茶が一番おいしかったですし……じゃあ、これください」

と、気づいたらわたしは、700円のほうじ茶ポップコーンを買っていた。意味が分からない。大家さんにあげるなら700円じゃあ小さすぎるのに。もしお隣さんにあげる気なら、両隣用に2個買う必要があったのに、私が買ったのはひとつだった。

ちなみに、その後の対応も見事だった。「すぐにお渡しになりますか? すぐでないのなら、紙袋がしわにならないようにたたんだままお渡ししますね」とな。

ちなみに、会話の後半から気づいたのだが、彼は京都弁だった。本当に京都の人が遠征して売りに来てるんだなあ、と思った。



以上が先日の記憶だ。彼の勝因は、私が女より男の方が好きだとかポップコーンがめちゃめちゃうまかったとかいろいろあると思うが、最大のポイントは「カレが本当にポップコーンをおいしいと思って、売る気だった」ということだと思う。

試食を3つくれたことは「どれもおいしいからぜひ味見してみて」「買うとしたら3つの味全部試したいよね、ていうか買うよね」という強気のあらわれにも見える。個人的には牛乳がおすすめです、という言葉からは、「僕はこの商品のオリジナルの食べ方があるくらいこれが好きです」というメッセージを感じる、京都弁なのも、本部の人がはるばる売りに来たっていう感じがする(違うかもしれないけど)。だから私は、彼のそのメッセージに押されたんだと思う。

正直、「すごくおいしかったんですけど、あげる相手がポップコーン好きか分からないんで、迷ってるんですよ~」に「うちのポップコーンは、お茶うけとして作ってあるんです」という受け答えは、あんましかみ合ってない。大家さんがポップコーン好きかどうかわからないという問題は全然解決してない。いろんな飲み物に合うお菓子だからヒット率が高いですよという意味かもしれないけど、正直、牛乳という単語が出てくるまでは「あ、マニュアル読んでるなー」と思っていた。

だから、「あーこの人この商品めっちゃ好きで、めっちゃ売る気だわ」というメタメッセージで力押しして、大家ポップコーン好き嫌い問題を崩壊させたのが彼の勝因だ。



人間、「おいしいから」買うわけではない。

理屈に見合うから買うわけでもない。

むしろ理屈屋な私は、理屈で推してくる奴にはめったに負けないが、理屈以外で押してくる奴にはめっぽう弱いのだ。


ポップコーン程度ですめば良いが、実は、私の恋愛のツボもこの辺にある(気がしてきた)。

いくらおいしそうなポップコーンでも、買わない。でも売る気を見せられると、たとえ購入条件に合っていなくても買っちゃう。

ま、売った方は売っただけで満足しちゃうんだけどな。


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ちなみにポップコーンは自分で食べた。

大家さんとお隣さん用には横濱フランセで別なお菓子を買った(が、結局それも自分で食べてしまい、再度買いに行かなくてはならない)。

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