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学都石川の才知 無料公開講座に参加 その4:無意識の行為を利用したデザイン思考

石川県の一般向け公開講座「学都石川の才知」。
公益社団法人・大学コンソーシアム石川の主催により、県内の大学・短大・高専の教授による広範な分野の講座が、2017年5月から8月の毎週土曜日午後にしいのき迎賓館3階セミナールームで開講していました。

そのうち4つの講座を、ちょっとした興味の赴くままアポなし飛び入りで受講したという話。

最後の第4弾は【16.無意識の行為を利用したデザイン思考】について、講義で汲み取れた内容と、思ったこと感じたことを紹介します。

無意識の行為を利用???

公開講座の中でいちばん異彩を放っている(ように見えた)講座。無意識の行為をデザインに応用?それ一体どういうことやの?と…

「これをこういうふうにしたい!」「これができるようにしたい!」というふうに、明確な意図や目的をデザインするという話ならすぐに合点がいきます。

例えば、折りたたみテーブル。
気軽にちょっとしたモノを置きたい、しかも持ち運びたい。だから、脚をどうやってたたむようにしようか。脚をたためるようにするにしても、天板は当然ながら平らに安定して使えるように。なおかつ、脚をたたんだときには片付けやすく運びやすくするために、天板を2つに折ってたためるようにしたらどうだろうか…だとか。

こういうのは、明確な意図や目的があった上でのデザイン(設計)と言うことができるでしょう。想像がしやすいです。

一方、無意識の行為をデザインに落とし込むとは???

無意識の行為にフィットする色彩や形状を持っている製品や建物・環境。それこそ日用品や、スマホやパソコンのアプリでもなんでもいいのですが、そうしてつくられたものって、とても使い心地が良さそうな気がします。居心地が良さそうな気がします。

だけども、じゃあどうやって、デザインすることへ「無意識の行為」、いわば「気がついたら思わずしてしまっていること」を取り込むのか?

そもそも無意識の行為にどのように意識的に気がつくようになるのか?

無意識を意識する???

考えるほどに不思議な気分が膨らむ一方。
そんな好奇心で受講してみました。

もののデザインに「無意識」を

ここは講座の紹介文をそのまま引用しましょう。

無意識の行為は97%もあるのだそうですよ...

であるならば、発想やデザイン、ものづくりが結実して完成する「道具」に、如何に無意識の行為にフィットする要素を取り込むのか。それをうまく取り込めた道具こそ、ほんとうの意味で「使える道具」になるのではないか。そんなふうに思えてきます。

ユニバーサルデザイン、人間工学、UX(ユーザーエクスペリエンス)…そこへアプローチする方法というか着眼点のひとつなのでしょうか。

そんなことを、金沢美術工芸大学デザイン科の河崎教授が紹介するという講義でした。

レーザー・アイ(対象物を正確に観察する)

講義がはじまるやいなや、受講者の似顔絵を描くワークに入りました。
いきなり!?絵心ないのに!だいじょうぶなのか!?

手持ちのペンだけでシンプルに相手の輪郭や目鼻立ちの形をなぞっていきます。このとき、似顔絵を描くにはひとつ注意点がありました。

紙やペン先、自分の手元には目線を持っていかない。
相手の顔から極力目を離さないで描く。

最初はとても不安でしたが、描く対象物から目を離さないで描いていくほうがむしろ正確に特徴を捉えられる、という講師からの言葉どおり、意外とよく描けました。確かに、自分の目線が対象物と紙や手元の往復をしているようでは、うまくは描けないだろうなあという思いがしました。

このワークには「見ているものの特徴をできるだけ正確につかむ感覚」を体験する狙いがあるようです。それが、対象物を正確に観察する(レーザー・アイ)であるとのことでした。

アクティブメモリーを使った商品事例

「アクティブメモリー」とは、7つの無意識の行為(後述)をデザインに落とし込む過程で出てきた言葉だそうです。

この言葉の意味を正確に汲み取るにはまず「アフォーダンス」という概念を前提として理解する必要があるようですが、それはさておき、とりあえずざっくりと例えるとしたら、熟練の職人が自分の持てる技を無意識に繰り出す感覚に近いというふうに捉えると、イメージしやすいのではないかと思われます。

一流プロスポーツ選手のプレイ
熟練の俳優、音楽家、舞踏家などのパフォーマンス などなど…

彼らは、それらを為すにあたって無意識に身体が動くようになるために普段から練習や訓練に励みますが、その、無意識に技が出る、いわば「手が、身体が、覚えている感覚」がアクティブメモリーに相当するということです。

そのような感覚をデザインに持ち込み、機能へと落とし込む。「無意識の行動に意識を向けて」造られたモノが、アクティブメモリーを使った商品というわけです。講義ではその実例がスライドでたくさん紹介されました。

ちなみに「アフォーダンス」とは…???

アメリカの知覚心理学者である ジェームズ・J・ギブソン が提唱した生態心理学の概念で、一言でいうと「環境が動物に対して提供する意味」と説明されます。

もうすこし噛み砕くと...こういう考えかたです。

モノ自体が、相手(モノを使う動物)に、
モノへの動作や操作をさせる「価値」を与えている。
モノが、モノに対する動作や操作をさせる環境や条件を提供している。

わたしたちの身の周りにある道具や環境は、その道具や環境を使うひとや動物たちに適切な行動を無意識にさせる要素を持っていて、その行動を促している…という話です。

例えば、折りたたみテーブル。
広げた天板にちょっとしたモノを置く、たたんで持ち運ぶ、そういう「行動をひとにさせる」「させる要素を備えている」というわけです。

さらには、わたしたちが身の周りになにげなく置いた道具など…例えば、かばん、スマホ、ノート、ペン、りんご、パイナップル…なんでもいいのですが、何気なく置いたものの「位置」や、置かれたもの同士の「位置関係」もまた、ひとや動物たちになんらかの行動を促す「意味」「価値」を与えている、という見かたも含まれるのだそうです。

ところで、りんごやパイナップルには
人間にペンを刺すという行動をさせる要素を持っていて
その行動を促している!アッポーぺぇん!… あれ(汗)

あらためて、モノを見たり選んだりする行為にも影響を及ぼしそうです。

7つの無意識の行為(Thoughtless Acts)

「7つの無意識の行動」の中身が紹介されました。これらが「無意識の行為を利用したデザイン思考」の基本でしょうか。

なかなかおもしろいので、そのまま引用しましょう。

Reacting(無意識に反応する)
私たちはその場の空間やものに応じて対応する。
 例:暑い日は日陰を歩く
Responding(応答する。無意識のうちにしていること)
自然やモノの特質に出会うと自然と行う行動。
 例:砂に絵を描く。
Co-opting(一時的に取り込む)
私たちはその場の環境に応じてその場のモノを利用する。
 例:チケットをしおりとして使う
Exploiting(素材を意識して活用する)
私たちは既に知っている物質やメカニズムの特質を利用する。
 例:みかん入れのネットに石けんを入れて使う。
Adapting(適合/適応させる)
私たちは自分の都合に合わせてモノの本来の使われ方を変えて使う。
 例:ジュースを凍らせて保冷剤代わりに使う。
Conforming(他人の行動の真似をする、他人に合わせる)
私たちは他人の行動パターンを無意識に真似る。
 例:水たまりに捨てられたタバコを見て、思わず自分も捨ててしまう。
Signaling(合図)
私たちはメッセージや注意を自分と他人に伝える。
 例:結婚指輪を薬指にする。

それぞれに、身の周りのものや、自分がしている行動があてはまりそうな感じはしないでしょうか?こういうことがわかっているだけでも、モノの見る目や発想が一気に広がっていきそうです。

広がりそうなんですけども…その視点や発想を商品や製品の全体や一部へつなげるとなると?というところがそう簡単にはいかない講義で実際に例を出そうとして、あっという間に行き詰まりました...。
そこはやはり、デザインや設計の奥深さなのでしょうか。

ところで、しいのき迎賓館のスロープ沿いのフェンスには、コップのフチ子に器械体操まがいのポーズをさせる意味を提供する…これはResponding(応答する。無意識のうちにしていること)であり、Co-opting(一時的に取り込む)であり、はたまたAdapting(適合/適応させる)でもあるのか!?

おわりに

実はこの講義、受講者はなんと自分ひとりだけでした…

にわかには非常にのみこみにくい内容だったのですが、似顔絵を描いてみるところからはじまり、無意識をデザインに取り込んだ製品の数々がスライドでどんどん登場し、思いのほか身近にどれだけでもあるものなんだなあと驚いたり、数年前にたまたま目にしたことがあった「アフォーダンス」の概念を思い出したり…

モノの見かたや扱う意識を変えそうなほどの影響を及ぼす、文字通り目からウロコが落ちて新たな視界が開けそうなほどの知的興奮が味わえる講義でした。

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