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着ぐるみマスクを手に入れるまで

着ぐるみコスプレをしていて言われることのひとつに、「どうやって手に入れるんですか?」というのがあります。気になります? ……気になりますよね。

そこで今回は、この疑問への答えを書くことにしました。


着ぐるみマスクってどうやって作られているの?

……と、その前に、着ぐるみマスクの作られ方を簡単に説明します。

ほとんどの着ぐるみマスクはプラスチック製です。そして、プラスチックを顔の形にする方法は、大きく分けて2つあります。

  • FRP(繊維強化プラスチック)を型に入れて成型する

  • 3Dプリンターで積層する

下地処理後、肌色塗装前の朝香果林着ぐるみマスク(FRP製)

そしてどちらも、それなりの材料と道具と場所、そしてまとまった時間を確保する必要があります。また、造型そのものではなくキャラクターの形にすることが目的ですから、腕に自信がなければ二の足を踏むことになります。

ですので、実は「自分で作れるの?」という問題が最初に出てくるのです。

作るか・作ってもらうか

ここから少し、歴史の話をします。

着ぐるみでコスプレする人は当初、着ぐるみの材料と道具と場所、そして時間を確保して、自分で作っていました。しかし、当然自分で作れないという人もいますから、着ぐるみマスクの製作を依頼する人と依頼を受けて製作する人が出始めました。

腕に自信のある人たちには依頼が続けて来るようになり、「工房」と呼ばれるようになりました。そして、腕に自信がない人は「工房」を探して頼むということをするようになりました。

増えてきた工房

そこで、着ぐるみを手に入れたいと思う人の多くは、こんなふうに着ぐるみを手に入れていくことになります。

  1. 「工房」をインターネットで検索する

  2. 見つけた「工房」の着ぐるみの写真を探してみて、その「工房」で自分がほしいキャラクターを作れそうか考える

  3. 「工房」に相談して、自分がほしいキャラクターの着ぐるみマスク製作を依頼する

このような流れが定着した2010年代になると、「工房」が増えました。

ただ、着ぐるみコスプレをしている人は絶対数が少ないうえ、着ぐるみマスクは、パソコンが1〜2台は買えるくらいの値段になりますから、毎月のように買うものにはなりません。そして、FRPでは特にそうなのですが大量生産が難しいので、最初から儲けを目的として「工房」を開くというよりは、自分で作ってみた人たちが作品をインターネットで公開して評判になると、依頼の声に押されて「工房」を開く、という流れがほとんどです。

量産型や半完成品の登場

着ぐるみコスプレをしている人を大きく分けると2通りになります。特定のキャラクターが好きで着ぐるみで再現したい人と、着ぐるみを着たい人です。着ぐるみを着たい人の場合、特定のキャラクターに似せた着ぐるみマスクである必要はありません。ですから、着ぐるみマスクを量産するという発想が出てきます。

こうして、「工房」から「量産」着ぐるみマスクが商品として売られるようになりました。中には「量産」着ぐるみマスクだけを取り扱う「工房」も登場しました(これは大人の事情というやつです)。また、基本的には「量産」着ぐるみマスクを売るが、依頼があればキャラクター着ぐるみマスクも作るというスタンスの「工房」もあります。

さらに、着ぐるみマスクとして最低限の造型を済ませた「半完成品」も登場しました。大掛かりな工作はできないけれどパーツを付けていく程度ならできる、という人には向いています。

朝香果林の場合

ここからは、私が「工房」に依頼した朝香果林の着ぐるみマスクを例に、着ぐるみマスクを手に入れるまでの流れをお伝えしたいと思います。

着ぐるみマスクを手に入れるまでの流れは大きく分けて4段階あります。

  1. キャラクターを決める - 2019年10月から12月ごろ、3ヶ月

  2. キャラクターの資料を集めて、依頼する「工房」を決める - 2020年1月から3月ごろ、3ヶ月

  3. 「工房」に相談し、製作期間を確認したうえで依頼する - 2020年4月から6月ごろ、3ヶ月

  4. 製作期間を経て「工房」から着ぐるみマスクが届く - 2020年6月から2021年末にかけて、1年7ヶ月(いまであればもう少し短くできるようです)

期間を書いてみて、私も驚いたのですが、私は朝香果林の着ぐるみマスクを欲しいと思ってから手に入れるまで2年半かかった、ということになります。

キャラクターを決める

キャラクターを決めなければ何もできません。もちろん、好きなキャラクターであることは大前提ですが、朝香果林が「本当に好きなキャラクターか?」ということはずいぶん自問自答し続けたなと思います。

考えはじめたときはちょうど、ゲーム『ラブライブ! スクールアイドルAll Stars』(スクスタ)の配信が始まったときで、ゲーム内の朝香果林にまつわるストーリーを読み込んで、「あ……やっぱり果林が好き……」と思えたところで、「よし、朝香果林の着ぐるみマスクを手に入れよう」と決めました。

キャラクターの資料を集めて、依頼する「工房」を決める

「工房」は私が再現したいキャラクターを知りません。ですから、キャラクターの資料を集める必要があります。キャラクターの資料は作品から集めます。混乱しないよう、絵柄を統一することが大事です。今回はゲームを基準に集めました。

『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会タペストリーComic Book〜朝香果林〜』
(電撃ムックシリーズ)
これは「工房」に提出した資料ではないのですが、ゲームと同じ絵柄でした。
特に瞳まわりが分かりやすい1ページ。
出来上がった着ぐるみマスクの瞳と比べてみると、資料集めの大切さが見えてきます。

同時に、依頼するかもしれない「工房」をリストアップして、SNSなどにある作例から似たようなキャラクターを探します。そして、着ぐるみと元のキャラクターを見比べ、これだ!と思った写真は見比べられるよう保存します。私の場合は、ラブライブ!シリーズの作品から外見が近いキャラクターの着ぐるみを発見し、それを製作した「工房」を確認して、依頼することにしました。

「工房」に相談し、製作期間を確認したうえで依頼する

「工房」に朝香果林の着ぐるみマスク製作を依頼したい旨を伝えます。今回依頼した「工房」は製作実績が豊富で手慣れていたので、依頼に必要な書類や資料、手続き、そして見積もりが届きます。指示に従って依頼と資料を送れば、あとは待つだけです。

製作期間を経て「工房」から着ぐるみマスクが届く

依頼したあとは1年7ヶ月、製作が完了するのを待ちますが、実際の製作期間は1ヶ月程度です。つまり、製作期間のほとんどは順番待ちなのです。

着ぐるみマスクを製作するには材料と道具と場所、そして時間が必要です。製作期間を短縮するのであれば、順番待ちになることを防ぐ必要があります。「工房」によってはもっと短い期間で製作するところもありますが、抽選制をとっていることが多いようです。ですので、短い期間で製作できることが必ずしも自分の希望する時期に着ぐるみマスクが出来上がることを意味しない、という現実があります。

アクアシティお台場にて、
朝香果林
(着ぐるみ、虹ヶ咲学園夏服アニメ版リボン)
写真=wakuさん

「着ぐるみマスクはどうやって手に入れるんですか?」という問いに対しては、「けっこう時間をかけて手に入れています」というのが答えです。そして、その時間には、着ぐるみを着る人の思いがこもっています。そんなふうに思います。