福島市、信夫山で考えたこと。

 7月から始まった出版ツアーもすでに35箇所を超え、残りは約20箇所。いやあ〜まだまだだな。とはいえ、年内にはお終いにするのでなんとか頑張ろー。それにしても昨夜の福島県福島市「BOOKS & CAFE コトウ」でのイベント。楽しかったなぁ。何より学びの多い夜でした。そして今回も満員御礼、ほんと有難い。

 福島に来るのは震災後よく立寄ってた頃以来だから、もう3年は来てなくて、しかも福島駅に降り立ったのは初めて。「中合(なかごう)」という見知らぬ百貨店を見上げながら、通り一遍な地方都市ではない町の骨格を感じていたら、コトウの小島くんがひょこっと目の前に現れた。

 今回福島に呼んでくれた小島くんは、以前仙台のイベントに来てくれてご挨拶していたんだけど、滲み出る人の良さと腰の低さを前に、小島くんってこんなに背が高かったっけ? と思う。

 そんな彼が最初に連れてきてくれたのは「BarnS(バーンズ)」というお洒落なセレクトショップ。今夜のトーク会場でもある小島くんのお店「BOOKS & CAFE コトウ」はその二階にある。だけど彼はそんな立地的必然以上に、オーナーの高橋省吾さんを僕に紹介したいと思ってくれていたようで、商品から伝わる省吾さんの目利きセンスと、それを感じさせない人懐っこい笑顔に、省吾さんと小島くんの関係を想像して、そこにこの町の良心を垣間見た気になる。

 見知らぬ町にやってくると僕は、経済的な軸とは違う、その町の良心を知りたくなるのだ。そこから形作られていく町の骨格は簡単にうつろうものではなくて、それがその町の個性なんだと僕は思っている。

 イベント準備を早々に済ませたあと、小島くんは僕を信夫山の頂上に連れて行ってくれた。福島を南北に分けるようにある信夫山からは、福島市が一望できる。お天気も抜群で、神がかった風景に言葉をなくすほど感動したけれど、頂上に上がるまでの道から見た、除染廃棄物の仮置場の風景が僕の心を乱した。

 除染で取り除いた土壌が黒い袋に詰められ大量に積み上げられたその様は、陽を浴びてキラキラと輝くこの美しい町の影だ。いまもなお増大する除染廃棄物。あくまでも仮置場だとは言うけれど、いったいいつまでが<仮>なんだろう? 除染廃棄物の搬入先となるはずの中間貯蔵施設の目処もたたず、またそれだって<中間>だと言っている。<仮>だとか<中間>だとか、うやむやにされたまま、何が東京オリンピックだ、何が地方創生だと、どうしようもない苛立ちが黒い影となって僕の心の中に積み上がる。

 信夫山のテッペンで小島くんは、まさかハンドドリップでコーヒーを淹れてくれて、僕はあのコーヒーの味を一生忘れないだろう。というより、忘れたくない。この悶々とした思いをコーヒーの苦味に変えて飲み込んだその味は、僕の気持ちと裏腹に彼の優しさに溢れていて、おかげでそのコーヒーはとても美味しかった。そしてこれが人間というものの強さなのかもと思った。

 最高の青空と太陽とその光に照らされる町。それらと対峙するように在る表示板が放射能の線量を僕たちに知らせていた。

 関西に住んでいると、福島の現状なんてほとんどなにもわからないと言っていい。マスメディアから福島の文字はほぼ消えて、なんだかまるでタブーのよう。知り得ない、よくわからないものの代表のようなこの町のことを考えることなく、僕らは淡々と日々を過ごしている。福島の桃と、岡山の桃が目の前にあったときに自然と岡山の桃を手に取る関西人の気持ちを僕はとてもよくわかるし、実際は安全なんだから福島の桃を食べようと積極的に手に取る人の気持ちだってよくわかるし、もはや無思考にただ安い方を手に取る人の気持ちだってよくわかる。

 目に見えぬ不安のなか、それぞれに折り合いをつけて日々過ごしている福島の人たちを前に、まっすぐ放射能の話が出来た懇親会の夜は、僕にとって何かのはじまりのような気がした。いま見つめるべきもの。向かうべきところ。やるべきこと。それらが僕の中で静かに立ち上がっていく。

 ちなみに懇親会の料理はコトウの目の前にある「王芳」という中華料理屋さんのもので、シンプルな玉子炒飯も、添えられるザーサイも、餃子も麻婆豆腐もすべての料理が、良心の塊のような味だった。小島くんが店を始める前、接客を勉強したくて「王芳」でアルバイトをさせてもらっていたと教えてくれて、その小島くんの誠実さと、さらに彼が「福島の親父のような人です」と言う大将との関係に胸が熱くなった。

 ああ、この町の人たちが僕は大好きだ。小島くんというメディアを通して知ることが出来た福島の人たちの日々。どうかみなさんの心の雲がはれればと思う。僕たちにとっては当たり前な子供達の登下校の風景だって、ある日を境に一度子供たちの姿が消えてしまったことがあるこの町にとっては、とても特別で感慨深い風景なのだ。STREET GARDENと称された何気ない道路脇の植栽だって、除染で土を引っぺがした上の植栽で、そこに鳥小屋をつくるのは、はっきりと確かに未来を思う福島のみなさんの希望でありメッセージだ。

 「出版記念ツアー」も終盤になって、いよいよその意味を考えたりするけれど、この旅は間違いなく僕の未来を作ってくれている。編集者としての自分の使命を今日も考えながら、山形に向かう電車に揺られている。

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