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夢が叶った瞬間

 今年もいちじくいちが終わった。二日間の来場者は6,000人以上。秋田県最南端にある「にかほ市」の廃校になった小学校という、アクセスのよくない会場に、こんなにも人が来てくれる奇跡を僕はいよいよ大切にしなければいけないとあらためて思った。

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↑列に並んで入場を待ってくれているみなさん。有難すぎて泣きそう。


 2016年9月、「北限のいちじく」を軸(じく)に、身の丈の豊かさについて考えられる市(いち)、というコンセプトでスタートしたマルシェイベント「いちじくいち」。そもそも僕がなぜこのイベントをやろうと思ったのか? その顛末は、ミシマガジンの連載で事細かく書いているのでぜひそちらを読んでもらいたい。

 ・補助金を使わない理由
 ・入場者数を減らす努力?
 ・退場有料とは?
 ・敢えてアクセスのわるいところで開催する意味

 など、いちじくいちにおいて、きっと不思議に思われるだろうところについては、概ね上記の連載で答えられていると思う。

  なので今回僕がここで書きたいのは、その続きのような話。且つ、地域編集の核心のような話だ。


 僕は今年はじめて、スムージー屋さんとして、いちじくいちの出店者になった。

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 これは僕の小さくも壮大な夢の一つ。それが叶った

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↑お客さんが撮ってくれた写真。許可いただいて転載。

 といっても僕は別に、ジュース屋さんになるのが夢だったわけじゃない。これは、いちじくいちの主体的な運営者から身を引くことが出来たってことだ。去年までの僕は、とにかく会場内を走り回っていた。出店者のケアはきちんと出来ているのか? 駐車場は大丈夫か? 行列はどのくらいか? とにかくいろんなことが心配で、お客さんのクレームにも直接対応させてもらい、とにかく当日は最前線に立つことで、その責任を全部請け負うべく動きまわっていた。特に昨年は、なんとか黒字転換せねばとクラウドファンディングで資金を募り、多くの方に支援いただいたゆえ、その責任を一層重く受け止めてしまっていた節もあるかもしれない。

 そんな僕が、今年は一出店者となった

 それもこれも、のんびり秋田メンバーと、地元にかほメンバーが、驚くほどに頼もしく成長してくれたゆえだ。「成長」なんて言葉を使うのはおこがましいことは承知の上で、それでもその言葉を使わざるを得ないほどに、みんなの姿がたくましく映った。

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 前日の夜は、例年なら「地獄」としか表現できないほど、あちこちで修羅場が繰り広げられ、オープン時間ギリギリまで、徹夜の作業が続くのだけれど、いやもちろん、今回も深夜作業だったんだけれど、昨年までのような鬼気迫る感じがまったくなかった。会場装飾も地元にかほチームが粛々と進めてくれて、僕が会場にたどり着いた時にはすでにほぼ完了していて、ある程度の覚悟のもとやってきた僕は、若干拍子抜けした気持ちになるほど。でもそれはもちろん、最高に嬉しかった。

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 「いちじくいち」というイベントについては、それなりにその裏の泥臭い部分の苦労を公開してきたつもりだけれど、それでも書けないようなことがたくさんある。のんびり秋田チームはもちろんのこと、にかほチームのリーダーとして最前線で頑張っている勘六商店の佐藤玲くんは、地元のコミュニティと、運営者としての実感に基づく未来のビジョンとの狭間で、どれだけ心をすり減らしてきたかわからない。スタッフ一人一人、一つ一つの、その辛い経験の積み重ねが目の前の風景を作っているように思った。


 僕は、地域編集の肝は、よそ者とその土地の者の役割を明確にすることにあると思っている。ちなみに、よそ者の僕の役割はズバリ「決断」だ。物事を進めていくたびに現れるY字路の前で、右の道か左の道かを即答していくのが僕の役割のすべてと言ってしまってもいいくらいだ。イベントを推し進めていくということは、よき判断を選択し続けていくことに他ならない。しかしみんな、その「よき判断」というものがわからないから、二の足を踏む。その結果、様々なほころびが生まれてくる。イベント運営において判断を求められる瞬間というのは、大抵が想定外の事態だ。そういう時に限って熟考する時間がないことが多い。ならば、良き判断とは=いち早い決断だと僕は思う。

 今回、イベント前日に想定外の事態がおこった。それは稀に見る大雨。幸いにもイベント当日には雨は止んでくれる予報だったけれど、メイン駐車場となるはずの運動場のコンディションが最悪となってしまった。普段は地元のスポーツ活動で使われている運動場に大量の車が入れば、どうなるかは目に見えている。しかも、泥だらけの靴のままお客さんが校内に入っていくことを考えると、いまからさまざまな対策が必要になる。ここはどう考えても僕の出番だ。

 しかし違った。

 のんびりチーム。にかほチーム。にかほ市役所チーム。が職員室で緊急打合せを開いた。そこに僕は呼ばれなかった。さらにすごいのが、すぐにその話し合いの結論が出たことだ。

 約200台の駐車スペースとなっていた運動場の駐車場を封鎖することを決定。会場から少し離れた「にかほ市役所象潟庁舎」に駐車してもらい、そこから全てのお客さんにシャトルバスの利用を促すという。

 英断だ。

 僕はこの瞬間、一つの夢が叶った気がした。一番近しいところで尽力してくれている、のんびり秋田チームのリーダー、ヤブちゃんこと矢吹史子は、二年目から僕にこう話してくれていた「今年のテーマは藤本さんにいちじくいちを楽しんでもらうことです」。しかし蓋を開けると、やはりそういうわけにはいかなかった。それがいよいよ違ったのだ。

 イベント当日、リムジンバス5台をフル稼働。それでも最大で1時間半待ちといいう状況もあったにもかかわらず、多くのお客さんがその判断をご理解いただき、大幅に減るだろうと予測していた動員数は、今年も6,000人を超えた。そして僕は二日間ひたすら「いちじくスムージー」を売り続けた。

 よそ者が吹かせた新しい風を、心地よく循環させていく土地の人がいる。言い出しっぺが、いつかそのバトンを渡し、それを強く握りしめ全力で走っていく地元の人がいる。それはまごうことなき僕の夢だった。これを成功と言わずしてなんと言おうか。僕の一つの夢が叶った。そんな二日間だった。

 ここからは定期購読いただいているみなさんにむけて、当日の写真を20枚ほど。残念ながら来られなかった方は、ぜひ来年!

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藤本智士(Re:S)

編集者。1974年兵庫県在住。『Re:S』『のんびり』編集長。著書に『風と土の秋田』『ほんとうのニッポンに出会う旅』共にリトルモア、『魔法をかける編集』インプレス。『ニッポンの嵐』『るろうにほん 熊本へ』など手掛けた書籍多数。

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