OriHimeを知ってますか?

 僕に『OriHime』の存在を教えてくれたのは、タケヒロくんという名の当時13歳の少年だった。彼との出会いは彼がくれた一通のメール。

『魔法をかける編集』を読んですごく勉強になり、納得しました。頑張りたい気持ちになりました。僕は特別支援学校の中学部2年です。複雑心奇形という生きて生まれてこれる確率3パーセントという難病で生まれました。こども病院に長いこと入院していました。僕の病気の平均寿命は15歳程度だそうです。僕は学校にずっと行けていません。不登校というか、学びの場を学校ではないところを選びました。身体がしんどいので、どちらにしてもみんなと同じようには動けません。だけど、限られた時間で僕は楽しくやりたいことをいっぱいしたいのです。僕のしたいことは「子どもの病院にエンターテインメントを届ける」ことです。僕のあとにも次々入院してくる子どもたちが、気持ちが楽になり痛いことを我慢するだけの入院生活にならなくていいように、CGの絵本展や、プロのカメラマンが記念日の撮影をしにきてくれる企画や、幼児向け音楽ではく、Jーpopのバンドがきて、ノリノリのライブをやったりしてみました。めちゃくちゃ喜んでもらえました。患者だけでなく、看護師さんやドクターも笑顔になりました。これらを地域の学校や病院、施設など、全ての人が安心して希望を持って自然に助け合う地域のシステムにしたいです。僕がどう編集すれば、僕の住む町が優しい地域になるか、子どもが大切にされる地域になるか、一緒に考えてもらえませんか。

 こんなメールをもらって、かけつけない大人はいない。しかも彼のお家は僕の家から車で20分くらいのところにあって、僕がよく行く銭湯のすぐ近くだったから、なんだか余計にご縁を感じた。

 彼のお家にうかがってまずわかったことは、タケヒロくんと同じくらい、お母さんがすごい。ってことだ。タケヒロくんを全力でサポートするお母さんのユウさんは、人に対して深い愛情を持つ人で、それはときに、ある種のエゴとなって見えない圧をつくるけれど、ユウさんはそういうのがまったくなかった。実におおらかで、怒りの感情ですらグッと塊にして背中のあたりからコロンと落とし、それをサッと箒で掃いて捨てちゃえるような(そんなわけはないんだけど、そう思わせるような)そんな切れ味のある優しさをもつ人だった。

↑先日、タケヒロくん14歳の誕生日に彼が行きたかったUSJに行こう!と友人たちが集まって、入園前にもう号泣しちゃったユウさん。ほんと素敵なお母さんだ。

 そんなユウさんの話を「僕はコミュ障なんで」と言いながら、絶妙なフリと合いの手で盛り上げるタケヒロくんは、もはや「ユウさん」というスタンドの使い手のようで、つまりはどちらが本体でどちらがスタンドなのかわからない。そこにきて僕の目の前に現れたのは、まさに彼のスタンドかと思う『OriHime(オリヒメ)』という一台の小さなロボットだった。

 分身ロボットと言われる「OriHime」は、吉藤オリィさんというロボット研究者が開発したもので、タケヒロくんのように自由に外に出るのが難しい人たちが自分の代わりに行きたいところに行ける最高なロボットだ。

 OriHimeのポイントは、AIではないところ。あくまでも操作する人間の分身だから、いわゆるAIBOのようなペットロボットではない。誰かが自分の分身であるOriHimeを連れて行ってくれれば、現地でOriHimeが見ている景色を、自宅や病院からiPhoneやiPadを通して確認できるし、またマイクを通して会話もできる。手をあげたり、喜んだりという基本的な動作も可能で、そうやってコミュニケーションを続けていくうちに、不思議とその人そのものに見えてくる。OriHimeの顔は変化しないものの、その時のコミュニケーションの流れや、会話や動作から、喜び、悲しみ、怒り、など、あらゆる感情を読み取れるようにとてもニュートラルな表情になっているのが秀逸。その素晴らしさは使ってみるととてもよくわかる。要は能面だ。

  タケヒロくんのように身体的問題から行きたいところに行けない人だけでなく、出張の多い僕は、家にOriHimeを置いておけば、旅先のホテルからログインすれば、家族団欒でご飯を食べれるじゃん! とか(こっちはコンビニ弁当かもしれないけど)、冬の寒い時期に外に出るのが困難なタケヒロくんにオホーツクの海を見せてやりたいなあ〜とか。いろいろと妄想した。

 テクノロジーの進化は、できなかったことをできるようにしてくれる。そのシンプルで最高な喜びはかけがえがない。乗れなかった自転車に乗れた瞬間や、ギターで弾けなかったフレーズが弾けるようになった瞬間の、あの喜びは間違いなく僕らを豊かにしてくれた。大人になるということはそんな「できた!」を重ねていくことだけれど、いつしかその山に登りきったような気になって今度は数々の「あきらめ」を重ねる。だけどタケヒロくんのような障害をもったこどもたちは逆だ。生まれてすぐに「あきらめ」を突きつけられる。けれどテクノロジーの進化のもと、まるでロックマンやカービィのように新たな「できる!」を手に入れて、タケヒロくんはいま最高に輝いてるし、何よりかっこいい。彼の登る山はとてつもなく大きく高い。そしてきっと彼はそのてっぺんから見える景色をOriHimeを通して僕らにみせてくれるんだろう。

 僕は間違いなく彼とユウさんに出会って世界が広がった。

 タケヒロくんとユウさんは親子で「こどもエンターテインメント」を立ち上げている。その志にぼくは共感しまくっているし、僕なりに編集を掛け算して協力できることがあるんじゃないかと思っている。このエントリーをきっかけに、まずは二人の存在を知ってもらえたら嬉しい。

タケヒロ、14歳の誕生日おめでとう。

kodo=鼓動 endless=永遠 
心臓病の僕の鼓動が永遠に続く様にと、願いを込めて立ち上げました。
こどもによるこどものための
welfareエンターテインメントカンパニーです。 
TK/みうらたけひろ

その鼓動がこの先も永く永くずっと続きますように。



↑誕生日は終えましたが、仲間にWHILLを無料レンタルできるようにと、タケヒロくん自ら立ち上げたクラファン継続中です。ぜひご支援ください。


ここからはいつも応援してくださっている定期購読者の方むけに、タケヒロくんの誕生日の日の写真をいくつかあげています。

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藤本智士(Re:S)

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Re:S note(りすノート)

2006年に創刊した雑誌「Re:S(りす)」編集長の藤本智士が、いまあらためてお届けする、あたらしい“ふつう”のnote「Re:S」。 日々のこと。旅のこと。地方のこと。編集のこと。 記事アップは月4回以上かなぁ。
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