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世界の美しい瞬間 9

9 重なる光

なぜだろう、あの人が今この瞬間、同じ時代に生きている。

幸せだ。

そう思える人の一人である、彼について。

***

彼はいつも言うのだ。

「僕には才能がない。だから、ひとつをやる。手を動かして、とりあえずやる。やっているだけです」

ゼロから1を10回重ねると、10になるかも知れない。

僕はいつもゼロです。才能はないです。

その彼のライブステージを、全国のファンが次の公演は今かと待っている。

チケットはいつもほぼ完売。

「僕は劇場にいます、って言っているけれど、劇場に行ったらお客さんがいるんですよね」

***

またもう一人の彼は言う。

「才能ないんだよね、だからいっぱい作るしか、ないんだよ。曲が降って来るのが羨ましい。そんなこと一回もない。いつもないから絞り出してる」

ライブハウスに来いよと言う。

こっから帰ったら現実が待ってる、けれど、ライブはお前らのもんだから、ライブハウスの中でだけは、絶対に楽しませるから。

ここに全部置いていけ、と真剣に約束する。

ライブでしか顔を合わせない客全員を、無条件に信頼する懐の広さ。

彼の言葉に、歌詞に、曲に、ライブに、励まされ、力をもらい、一瞬でも生きる楽しみを貰ったファンは計り知れない。

もちろん、チケットは即ソールドアウト。

***

ジャンルやカテゴリーは全く違う。

生きる世界が重なることがない二人は、顔を合わせたことはおそらくない。

それでも、二人が言っていることは、同じなのだ。

自分の持つ世界観が、多くの支持を得られず、誰とも重なることがないと気が付いたとき、どうしただろう。

世界から逃げるか、世界を作るか、世界に合わせるか。それらのミックスか。

幼い頃、合わせることしか、わたしには生きる術が見つからなかった。

そして、自身しかいない場所へと逃げ、世界に対して、ネガティブなエネルギーしか発していなかった。

けれど、大きくなってから、彼らに出会えた。

彼らがわたしにその生き様で訴え続けてくれていることは、ただひとつだ。

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今、ある先生に教わっている。

夢を叶えるには、ということ。

先生は私の1.8倍くらい生きておられる。

先生は彼らと全く同じことをしつこくしつこく、おっしゃって下さる。

「やるだけです。ただそれだけの違いです」

今の自分がどうだろうが、才能があろうがなかろうが全く関係ない、ただやるかやらないか。

もちろん、ステージ上でしか会わない彼らとは違って、具体的なことを細かくアドバイスして下さる。

彼らに惹かれ続けているのは、ライブステージを観に行くのは、ずっと、自分に言いたかったことを、彼らが訴え続けてくれているからだ。

才能なんか関係ない、やるだけだ。

少し先で、彼らが行動で、態度で、結果で指し示してくれている。

わたしの生きている世界に、光のように現れ、こっちだと示し、存在し続けてくれる彼らは、

たとえ一回も会話を交わしたことなどなくても、かけがえのない存在である。

彼らの存在そのものが、ありがたく、美しい。

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