見出し画像

【SP】小さなもので大きな価値をつくる『かわいい屋さん』・だいきぁ

『かわいい屋さん』のだいきぁは、ギター弾き語りシンガーソングライター、ラッパー、キャラクターデザイナーなど、幅広い分野で活動中だ。彼が目指す『かわいい』の内実と、その思想に辿り着くまでの道のりを聞いた。

『完璧』を信じ、追い求めた青春時代

北海道札幌市出身のだいきぁは、歌うことが好きな少年だった。

「親が聴いていた曲、たとえば大黒摩季の『ら・ら・ら』をよく歌っていた記憶があります。小学校の音楽の先生にも『上手いね』と褒めてもらえて、歌うことがどんどん好きになりました」。

楽器を始めたのは、中学校2年生のころだ。

「『タイヨウのうた』というテレビドラマを見て、ヒロインの歌手志望の少女に憧れたんです。ギター弾き語りっていいなと思って、おばあちゃんに頼んで、ギターを買ってもらいました」。

まもなく、楽器をやっている友人とバンド活動を楽しむようになる。

「友達の家に集まって、当時流行っていたRADWIMPSやMONGOL800のコピーをして遊びました。お客さんを集めて、市民会館を借りて、ライブをやったこともあります。僕はボーカル兼ギターでした」。

高校進学後は、別の友人と新たなバンドを結成。オリジナル曲の作詞作曲や、DTMにも取り組みだした。

しかし、そのころから自身の『完璧主義』に悩まされるようになる。

「『完全な、何の傷もない、究極の曲を作ろう』とか『まだ誰もやっていない新しい音楽をやろう』とか考えだして、逆に、曲が作れなくなりました。バンド活動に対しても違和感が強くなって、解散してしまいました」。

彼は難しい顔で振り返る。

「当時は言語化できませんでしたが、今思えば、常に固定されたメンバーで音楽をやることが嫌だったんですよね。

楽曲によって『今回はギターじゃなくてピアノ中心の編成がいい』とかあるじゃないですか。表現したい内容に合わせて、必要なときに必要な人が集まる方がいいのかもと思っちゃったんです。

でも、これって、メンバーにとっては酷い話ですよね。あのころの僕には配慮が無かったな」。

バンドを解散したのち、一人でギター弾き語りを始めたが、思うような歌が歌えるようになったわけでもなかった。

「スランプってやつですね。自分の音楽に納得できなくて、そのまま辞めてしまいました。家に楽器はあって、たまに触るけど、曲を作るほどの気持ちにはなれない、みたいな」。

高校にも行かなくなった。

「みんなと同じように勉強していくこと、強制されることに、漠然と疑問を覚えたんです。メインストリームを外れていく、ズレようとしていく人間性のはじまりでした」と、彼は笑う。

空いた時間を利用して、絵を描いたり、オブジェを作ったり、多様な表現活動を行った。「それまで音楽に入れこんでいた反動で、違う方向に興味が向いたんですよね。色んなアートについての情報を集めて、独学しました」。

さらに、幾つもの企業でアルバイトをしたことで、視野が大きく広がった。

「特に、とあるブランド企業で働いたときは、考え方やデザイン、アプリ制作の基礎など、多くのことを勉強させてもらいました」。

実践と思索の末に辿り着いた『かわいい』

フリーターをしながらアート活動に勤しんでいただいきぁは、ふと気づくと、25歳になっていた。

「四半世紀生きてきて、そろそろ『何か残したい』と思いました」。

そのとき、彼が手に取ったのは、パステルだった。

乾燥した粉末顔料を練り固めた画材である。なじみ深いところで言えば、サクラクレパスは『オイルパステル』と呼ばれるパステルの一種だ。

「パステルって、創作活動に似ているなと思ったんです。たとえば楽曲を作る時は、『こういうイントロで』とか『こういう歌詞で』とか、たくさんのアイディアをまとめて、時間をかけて練り上げて、一つの作品になりますよね。そこから発展して、世界のあらゆる粉、すなわちアイディアを、作品に練り込めるんじゃないかって」。

高校に行かなくなってから約8年、追い求め続けた『究極の創作』の集大成として作り上げたのが、直径1mのパステルカラーの球体だった。

「アルミの板に顔料の粉を張り付けて、絵を描く感じで作りました」。

画像1

完成した球体は、札幌市内各所でゲリラ的に展示した。しかし周囲からは、思ったような反応を得られなかった。

「この思想は、広く伝えられるものじゃないなと気づきました。当時は『難しければ難しいほどいい、複雑なほど奥深い』と考えていたけど、『伝わらなきゃしょうがない』っていうのが実感としてわかりました」。

パステルという思想自体は、一つの成功だと彼は言う。

「世界中が粉で出来てて、それを一か所に練り固めれば作品になるっていう考えは、今も僕の核としてあります。ただ、もっとみんなが普段考えてるような言葉で説明しなきゃ、って」。

平易な表現を模索した彼は、『かわいい』へ到達する。

「パステルに興味を持って、パステルカラーのものを見ているうちに、いわゆる可愛いキャラクターや雑貨に繋がったんです。可愛い物って、基本的に単純で、わかりやすいんですよね。これは、僕が抱えていた『難しいと伝わらない』という問題を解決してくれるんじゃないかと思いました」。

元々、可愛いキャラクターを好きだったわけでない。

「子どものころからサンリオが好きだったとか、そういうことはないんですよ。20代も後半にさしかかってから、考えに考えた結果、偶然辿り着いたのが『かわいい』だったんです」。

彼は「『かわいい』に救われた」と語る。

「『かわいい』って、完璧主義の真逆なんですよね。どこか崩れてるとか、できない、間違っていることがポジティブな価値として評価される。アイドルでも『あの子は八重歯が可愛い』『この子は踊りが下手だけど頑張っていて可愛い』とか、あるじゃないですか」。

「『完璧主義のままでは自分は幸せにならない』って気づいたとき、『どんどん間違えていこう』、と決めたんです。そもそも自分は高校から行かなくなって『一般』の枠を外れているんですが、それさえ『かわいい』価値があると思えました」。

長年縛られてきた完璧主義から解放されたからだろうか。不意に「今なら曲が作れそうだ」と感じただいきぁは、2019年1月3日、約10年ぶりの新曲『タイトル考え中』をYouTubeにて公開した。

さらに「一度は東京で暮らしてみたい」とも考えていた彼は、「今がそのタイミングなんじゃないか」と考え、同年春に上京した。

『かわいいピラミッド』を後世に残したい

「東京で得たものがたくさんあります」と、だいきぁは言う。

「上京した時点では、『かわいい』についての考えが固まっていませんでした。でも東京でライブ活動をしていくなかで、ぽろっと『かわいい』について話をすると、反響が大きかったんです」。

たしかに、音楽と『かわいい』を正面から掛け合わせているアーティストは少ない。いや、若い女性がきゃぴきゃぴとやっていることはよくあるが、だいきぁの思想的なものとは違うだろう。

「僕の『かわいい』は、長年考えを巡らせて辿り着いた結論なので、新鮮なのかもしれません。今の僕はむしろ、子どもや若い女性といった『可愛いのネイティブ』たちに、彼らの『かわいい』を学んでいるところです」。

彼のアーティスト名もまた、『かわいい』と繋がっている。

「元々、本名の『だいき』で活動しようとしていましたが、同性同名がたくさんいたので、差別化のために『ぁ』を付けたんです。最初は深く考えていませんでしたが、このおかげで、『小さいアイディアが大きい変化を起こすことがある』っていう『かわいいの力』を体感できました」。

いったい、どういうことだろうか?

「初対面のひとに『だいきぁです』と自己紹介するだけで、『不思議な名前だな』とか『どう読むんだろう』とかって思われます。こんなにも小さな一文字、小さなアイディアなのに、みんなに違和感を与えられる。東京という大都会で、自分は小さな存在だけど、ちょっとした爪痕くらいなら残せる。これってまさに『かわいい』なんです」。

「完璧主義のときは、『大きくてすごいもの』を追い求めていました。でも『かわいい』には、赤ちゃんとか子猫とか、小さいものを愛でるって側面があります。たとえば、ちょこんとした子猫のぬいぐるみに癒されたとして、『癒される』って、日常にとって大きなことですよね。

小さい存在ってバカにできないというか、なんなら人生を変えることさえあるんじゃないかと思います。

『かわいい』は、小さいもので大きい価値を作れるんです」。

『かわいいの力』に確信を得た彼は、それをテーマにした歌などを作り、ギター弾き語りシンガーソングライターとしてライブを重ねた。

だが20年初頭、仕事の都合により帰郷。その後に続いたコロナ禍のため、現在も札幌を拠点に活動している。

「2020年はもう『可愛ければなんでもいい』となって、イラスト、手芸、キャラクター作りなど、色んなことに手を出しました。クレープ屋さんで働いたりもしたんですよ」。

特にキャラクターは、一つの表現ジャンルとして面白いと言う。

「キャラクターって、あらゆる表現の中心におけるんですよね。たとえば、ポチャッコのテーマソング、絵本、アニメという具合に。だから僕もかわいいキャラクターを作って、かわいい曲をつけたり、アニメにしたり、ふくらませていきたいな、と思いました」。

21年1月までに約80匹のキャラを制作。気に入ったものに対して、曲作りなどの企画を進めている。

「長い間、ぐるぐると同じようなところを迷走してきましたが、遂に表現活動の軸というか、やり方を見つけたかもしれません」。

また、新たな音楽ジャンルとして、ラップに興味をもっている。

「これまでは『タイトル考え中』のようなゆるい歌を歌ってきましたが、ノレない、踊れないって問題点はあるなと思っていたんです。今まで通りの自分らしい曲に加えて、ノレる曲もやりたいな、と考えるうちに、ラップに辿り着きました」。

まずはDTMでかわいいビートを作り、ゆるく言葉をのせてみるつもりだ。

「攻撃的なことや難しいことをやろうとは思ってないから、『かわいいラップ』。子どもが言葉で遊んでいるような雰囲気でやりたいです。ラップって基本カッコいいものっていうイメージなので、僕が入っていける隙間もありそうな気がしています」。

楽曲が完成したらYouTubeに公開する予定だという。

「コロナ禍が落ち着いたら、ライブがしたいですね。拠点は札幌のままだと思いますが、また東京にも行きたいです」。

さらに数年内の目標として、『かわいいアプリ作り』を掲げる。

「かわいいに特化したSNSがあったらいいな、って。そこを見れば常にかわいいものがあって、みんなでかわいいを育てて行ける場所です」。

この発想には、可愛いお店で働いた経験が繋がっている。

「お客さんが、それぞれの商品に対して、それぞれに『かわいい』って言ってくれるんですよね。そういう、みんなが色んな場所で使ってるバラバラな『かわいい』を集めたら、大きな力になるんじゃないかって」。

思い出の写真も、バラバラのままでは失くしやすいが、アルバムにまとめておけば長く残る。『点で散らばっているものを集める』というのは、彼がずっと追い求めているパステル的思想そのものだ。

「ひとりじゃ生きていけない、って話でもあります。たくさんの人と繋がって、みんなで作り上げたものは、長く残る大きなものになるんですよね。

僕自身、自分の小ささを実感したので、仲間が必要だと考えています。一緒に活動する仲間を増やすための、出会いの場も自分で作りたいんです」。

そんな彼の最終目標は、『かわいいピラミッド』を作ることだ。

「ピラミッドは、数千年残っている遺跡です。そのくらい遠くの未来の人に残せる、かわいいものを作りたい。概念だけじゃなくて、形として」。

彼が地球規模の視点をもつようになったのは、フリーターをしながら思索を深めていた20歳のころ、一人で海外を旅行したことがきっかけだ。

「コロンビアとか、キプロス島とか、日本から遠く離れた異国にも生活している人がいて、全然違う文化があるんだなって知ってから、『遠くの人』っていうのを考えるようになりました。

地球のどこかに、かわいいピラミッドがあってもいいと思うんです。仲間を増やして、時間をかけて、ライフワークとしてやっていきたいですね」。

いったいいつ、どこに、どんなピラミッドができるのか。

ぜひ、生きているうちに、その完成に立ち会いたいものだ。

Text:momiji

Informaition

2021.07.24(Sat) / 25(Sun) 11:00〜17:00
札幌ハンドメイドマルシェ

北海道最大級のハンドメイドイベントに出店予定。
[会場] つどーむ(北海道札幌市東区栄町885番地1)
[詳細] https://spr.handmade-marche.jp/

2021年、『ちいさなアルバム』配信・リリース予定!乞うご期待!!

関連記事


お読みいただき、ありがとうございます。皆さまからのご支援は、新たな「好き」探しに役立て、各地のアーティストさんへ還元してまいります!