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【S06:STORY】縁を繋ぎ、縁に生きる音楽ユニット・ワダノヒト 【後編】

Gt.&Vo.の箱守啓介(はこもり・けいすけ)とKey.&Vo.の赤司渉(あかし・わたる)による音楽ユニット・ワダノヒト。中学校のクラスメイトだった2人が18年の時を経て再会し、音楽活動を開始するに至った軌跡とは。
(※本記事の前編はこちら!)

ライブでお客様に楽しんでもらうには

ワダノヒトの2回目のライブは、同じく高円寺の老舗BAR・楽やへの出演だった。「せっかくだから、オリジナルをやってみよう!」と、オリジナル曲『あじさいのメロディ』を携えて本番に臨んだ2人だったが、ライブの出来は残念なものとなった。

「1回目と違ってミスが多く出て、2人の息が合いませんでした。他の出演者の方々は上手だったのに」と赤司は悔しそうに振り返る。箱守も「ミスをカバーしなきゃとか、上手くやらなきゃとか、プレッシャーで練習の成果が出せなかった」。

ライブ終了後、2人はすっかり沈み込んでしまっていた。演奏が上手くいかなかったこと以上に、何より見に来てくれたお客様に申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。

それから一ヶ月後のこと。高円寺の和食DJ居酒屋・割烹DISCO大蔵(かっぽうディスコ・ダイゾー)にて、中学の同級生が企画するイベントに参加していた2人は、その場で「演奏してほしい」と頼まれた。

『DJ居酒屋』というコンセプトが表す通り、生演奏を行うような空間ではなかった。しかし、30人前後が集まっているイベントの最中に行った演奏はとても盛り上がり、2人に原点を思い出させた。

「知らない人達ばかりだったけど、みんな本当に盛り上がってくれて。お客さんとセッションしながら即興の曲を作ったんですよ。歌詞もめちゃくちゃだったし、シンプルな3コードくらいの演奏だったけど、みんなの心が1つになるのが分かりました」と箱守。

「当時はまだ、外で演奏するためのキーボードを持っていませんでした。仕方なく、おばあちゃんの家にあった40年前くらいのYAMAHAをもっていったら、ボリュームが全然出ませんでした」と赤司は笑った。「でもそんなことは関係なく、最後はみんなで肩を組んで歌っていました」。

ライブでお客様に楽しんでもらうには、”誰よりも自分達が心から楽しむこと“。

2人が忘れていた1番大切なことを思い出させてもらったのだった。

限りある人生を、どのように生きるのか

一度きりのつもりでユニットを結成してから3年半、月1~2回のペースで、精力的なライブ活動を続けているワダノヒト。楽曲はもちろん、箱守の美しい歌声、赤司の歯に着せぬMCなどが注目を集め、着実にファンを増やしている。

「昔は『音楽をやるなら上手くないといけない。プロを目指さないといけない』と自分を縛ったり、ひとと比べて凹んだりしていました。今はそれがなくて、純粋に音楽が楽しいです」と語る箱守。「一番良かったことは、人との繋がりが増えたことですね」。

ワダノヒトの活動を通じて老若男女問わず、演者や観客といった立場も関係なく、『音楽』というジャンルの枠さえ超えて、多くの人と出会った。「自分の世界が広がって行く喜びがあります。こうした『繋がり』をテーマにして活動できるのは、ひと年取って結成したユニットだからこそかもしれません。今後も、人の輪を広げていくことを目標にしています」。

赤司は「忙しない毎日の合間にしか活動できていないけれど、僕のなかの位置づけとしては、ワダノヒトが最優先。死ぬまでやりたいです」。

「音楽が好きだけれど、演奏する場すらなくしていたところをハコに救ってもらいました。打算も計算もなく、純粋な美しさと楽しさを追求できる。自分はハコと違って性格も悪いけど、自分にとって最もピュアな部分を引き出してくれるのがワダノヒトです」。

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箱守も、ユニット活動へのこだわりを口にする。「まだまだワダノヒトとしてやりたいことがあります。1stアルバムを作れたから、次は2ndアルバムを作りたい。もっとたくさんの人にワダノヒトを聴いて、知ってもらえたら嬉しいですね」。

人間性も音楽の好みも全く異なる2人は、しばしば意見が食い違う。だが互いにリスペクトがあるため、いがみあいにはならず、相乗効果が生まれている。「自分一人で生み出せるものなんて、たかが知れてますから」。

「僕らの周りには『真剣に音楽をやりたいけど、外で演奏する機会がない』という人が結構いるんです。そういう人たちをイベントに呼んだり、僕らが地元のお祭りに偶然呼んでもらった時に『一緒にやったら面白いんじゃない?』と声をかけたり。縁を広げていくことが楽しいです」。

「繋がりを大切にする」という想いが込められた、ワダノヒトのロゴマーク。よく見ると、『高円寺』という地名が入っていることに気づく。「今では色んなところでライブをやるけど、やっぱり高円寺は特別です。高円寺で演奏するときは『帰ってきたな』と感じるし、ワダノヒトが始まった場所。音楽の力で盛り上げて、恩返ししたいですね」と赤司は言う。

また、彼らの地元には『セシオン杉並』という複合施設がある。約600席を有する多目的型ホールは音の響きの良さで有名だ。「学生のとき、合唱コンクールなどでホールのステージに立ちました。今度はワダノヒトでライブをしたいと思っています」と箱守は語った。

インタビューの最後に、赤司は「みんな、自分の一番良い時が、常に今であるように生きてほしい」と声を強めた。

「僕もハコもサラリーマンをやっていて、それなりに忙しいけど、大好きな音楽をやれてます。だからこそ僕は、何かやりたいのに躊躇している人全員へ『やればいいじゃん』と言いたいです。自分自身、20代の頃は考えることばかりで何もできていなかったから」。

箱守も頷く。「忙しい方が言い訳できないんで、ちゃんとやれますよ」。

出逢いや再会、ほんのちょっとしたきっかけや縁を大切にすることで、人生は拓けていく。ワダノヒトの生き様が、令和の時代のモデルケースになればいいと思った。

【前編も、こちらからお楽しみください!】

text:momiji

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