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【R02:STORY】音楽と生きていく意味を探して、 美しい庭でパーティを開こう

Vo.梨奈(りな)とGt.渋木新(しぶき・あらた)が2016年に結成したポップスユニット、garden#00(ガーデンシャープ・ゼロゼロ)。それぞれが歩んできた道のりと、今後の展望に迫った。

TKサウンドに魅せられ、音楽の道へ

「両親によると、3歳のころにはC-C-Bのドラムを真似して遊んでいたようです」。そんなエピソードが飛び出すほど、幼少期から音楽に心を惹かれていた渋木新。小学生になると、リコーダーやピアニカ、エレクトーンなどの楽器に親しんだという。

彼に大きな影響を与えたのが、小室哲哉の楽曲群だ。「僕もこんな風に鍵盤を弾いてみたい」。中学入学を期にキーボードを買ってもらうと、TM NETWORKの楽曲をコピーしたり、音色を似せてみたりした。だが、どうしても憧れたほどには弾きこなせなかった。

ちょうど同じ頃、ギターを持っていた兄が、MY LITTLE LOVERの『Hello, Again 〜昔からある場所〜』のイントロを耳コピで弾いたことに感動。ギターにも興味を持つようになった。

高校では友人に恵まれた。「GLAYの『誘惑』を夏休みの間に完コピして、誰が一番上手くなれるか勝負しようぜ」。自分のギターを買い、友人たちと競い合うなかで、めきめきと腕を上げていった。

「もっとギターを弾けるようになりたい」。音楽系の専門学校へ進んだ新はギターの演奏技術や音楽理論、音作り、アンサンブルの基礎などを学んだ。

しかし、卒業後は「暗黒期がありましたね」。かつて『誘惑』の腕を競い合った友人とともにバンドを組んだが芽は出ず、ギタリストとして幾つかのバンドを転々とする日々を送った。

それでも腐ってはいなかった。「毎日DTMに触ることを自分に課していました。『ギターだけでは自分のやりたい音楽ができないんじゃないか』って気づいたんです」。暇さえあればDTMの使い方を研究していた経験は、今に大きく生かされているという。

暗黒時代の終わりは、ギターサポートを務めていたToySpeaker(※編集部注:clear レーベルに所属する音楽ユニット。現在は活動休止中)へ正式加入する頃に訪れた。ToySpeakerのメンバーとしても、ギタリストとしても充実した日々を送り、新たな繋がりを増やしていった。

そしてある日、ソロシンガーの梨奈と出逢った。

なすがままに、音楽と日々を過ごして

梨奈の幼少時のホームビデオを見ると、歌っている姿か踊っている姿ばかりが映っているという。「両親がジュリアナ東京世代だったこともあり、家にはいつもダンスミュージックが流れていました」。

「小学生の頃は沢山習い事をしたんですよ。英会話とか、水泳とか…。エレクトーンも習ったけど、楽しさを見いだせなくて。唯一続いたのがダンスでした」。中学から高校にかけてダンス部に所属。厳しい練習や上下関係にも耐えられたのは、踊る喜びがあったからだという。

絵を描くことや、パソコンを使ったデザインに興味を持っていたため、IT系の大学へ進学。ダンスはもう辞めるつもりで、友人に誘われるままサッカー部のマネージャーになった。

だが「これは本当に私のやりたいことなのかな?」と違和感を覚え、半年で退部。迷った挙句、もう一度ダンスをやろうと決意した。

ダンススクールへ通いはじめてしばらく経った頃、「なんとなく、歌いながら踊るって楽しそうだなと思って」。たまたま受講したミュージカルのレッスンで、講師から「ちゃんと歌を習った方がいい」とアドバイスされたことが転機となる。

ボイストレーナーに師事した梨奈は、改めて歌うことの楽しさを知った。さらに周りの歌を聞くようになり、「もしや自分は『歌える』方なのではないか」と思ったという。

「私、人の言葉や周囲の環境に影響されやすいんですよね」。過去を振り返り、梨奈は照れたように笑う。「今もそうですけど、何事も、とりあえずやってみる感じです」。

梨奈はオーディション雑誌を購入し、数社へ自分の歌のデモ音源を送付した。そのなかには、ToySpeakerが広告塔を務めるclear レーベルもあった。

縁あってclear レーベルへ所属することになった梨奈は、2013年頃からソロシンガーとしての活動を本格化。複数のアーティストから楽曲提供を受けながら、2枚のミニアルバムと1枚のシングルUSBをリリースした。

また、Tokyo Boot Up!2013(※編集部注:『日本初の音楽見本市』をスローガンに開催されていたライブイベント)にてポピュラーアクトアワードを受賞するなどの活躍もあった。

しかし、心の中には葛藤があった。「私は特別な世界観を持っているわけじゃなくて、ごく一般的な女性なんです。歌うのは楽しいけど、アーティスティックなものを期待されるのは苦痛でした」。

傍で見ていた新が「『私の生き様を聴け』ってタイプの歌手でもないから、悩んだ時期があったよね」と言うと、「そうなんです」と頷いていた。

Welcome to my garden

梨奈と新が初めて顔を合わせたのは、所属レーベルのレコーディングスタジオ内だった。その後、新年会などのイベントを通して親交を深めていったという。

二人が本格的に関わるきっかけになったのは、13年の夏、新が梨奈のライブを見に行ったことだ。彼にその時の感想を聞くと「『もったいない』と思いましたね。ボーカルとバックの演奏が噛みあっていなかったんです。それぞれのクオリティは高いけれど、互いの良さを引き出せていないというか」。

自分なら、こうするのに。音楽的なアイディアが溢れた新は、すぐレーベルの社長へ相談した。「じゃあやってみたら、という話になりました」。

梨奈のライブのサポート演奏をするようになった新は、楽曲の提供も開始。社内コンペで偶然採用されていた『L』に続いて、彼女のために『愛雨』を書き下ろした。

一方の梨奈は、当初、レーベルの先輩である新に対して距離を感じていた。「私なんかのバックでサポート演奏をしていただいてありがたいな、くらいの気持ちでした」。

それでも『愛雨』を受け取ったときは「良い曲だ」と素直に喜んだ。曲に対するイメージが二人の間で食い違っていたため、何度も作詞をやり直すことになったが、努力を重ねて双方が納得のいく形に仕上げたという。

気づけば新は、サポート演奏や楽曲の提供だけではなく、梨奈が出演するライブの演出を含めたプロデュース全般を担当するようになっていた。同時に「梨奈と新ってどういう関係性なの?」「実質的にユニットを組んでいるようなものだよね?」など、外野から質問されることも増えていった。

「外から分かりやすくするために、正式にユニットを組もうか」。どちらからともなく、当然のような流れで話が進んだ。「私は歌声が抜群にいいとか、個性があるわけじゃないので。ギターという比較対象が生まれることで、より輝けるんじゃないかという思いもありました」と、梨奈は語る。

しかし、ユニット結成は思わぬところで難航した。当時を振り返り、二人は苦笑する。「一年くらい、名前が決まらなくて足踏みしました。普段の楽曲づくりでも、歌詞やアレンジは完成したのに、タイトルが決まらなくてリリースできない場合がよくあるんですよね」。

ああでもない、こうでもないと議論を重ねる中で出てきたのが『garden』という言葉だ。「美しい緑の草木があって、色とりどりの花が咲き乱れる、自然にあふれた庭。そこに大切な人たちを招いて、幼い頃の誕生日会のように、賑やかなパーティを開く。そんな温かい場所を作りたいというコンセプトで二人の意見が一致したんです」。

さらに個性を出すため、ナンバリングの『#00』を付け加えた。二人での新たなスタートという意味も込められている。

こうして16年5月、SHIBUYA RUIDO K2で開催した梨奈のバースデーワンマンにて『garden#00』の結成が発表されたのだった。

音楽をやってきたことの意味を見つけたい

ユニットとして始動してから現在までに、ミニアルバムやLIVE音源を含む8枚のCDをリリース。他にもDVDやTシャツ、タオルなどのグッズを多数販売中だ。毎月3本以上のライブに出演し、定期的にツーマンやワンマンのイベントを企画するなど、精力的な活動を続けている。

今後の目標を聞くと、二人は揃って黙考した。

ややあって、梨奈は「今の私たちには『飾らない、ありのままの二人が好き』って言ってくれるファンの方が多いんです。人間性を認めてもらっているというか」。

「最初の頃は、私も新もアーティストっぽく仮面をかぶっていました。それでお客さんとの間に壁があったんですけど、ある時、いつも通りの姿を晒したら打破出来たんです。とてもありがたく思っています」。

活動を重ねるなかで生み出したファンとの輪を、もっと広げていきたい。とはいえ、今のままでは難しいのではないかとも感じている。

「音楽的な部分で、もっと多くの人に認めてもらえるようになりたいな。『こんなカッコいい音楽やってるけど、普段は面白いやつらなんだよ』って感じに、良い意味での二面性を出していきたいですね」。

一方の新は「所属していたレーベルを抜けて、全部自分たちでやるようになったことで、様々な面でスキルアップ出来ました」。今が一番、音楽的に充実しているという。「これを広げていくというか、より大きくなっていきたいです」。

「何よりも、音楽をやっていてよかった、という答えをずっと探している気がします」。梨奈と新は、それぞれの言葉で、同じ志を語った。

「自分たちの歌が誰かの役に立ったとか、喜んでもらったとか、そういうことが増えれば『自分は音楽をやっていてよかったんだ』と確信できるんじゃないかと思っています」。

売れたい、メジャーになりたい、そういった目標は馴染まない。「分かりやすいゴールは設定できないけれど、生涯を通して、よりよい形で音楽と関わっていきたい」と語る二人。

ポップな外見やサウンドに隠れた求道者たちの姿が、強く印象に残った。

text:Momiji photos:Miks

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