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【S01:STORY】ピアノ2台で歌を奏でるユニット/call....it sings

ボーカル&ピアノの森本千鶴と、ピアノのヤエオ雄太による男女二人組ポップスユニット、call....it sings(コール・イット・シングス)。結成5周年を迎える二人の歴史とは。

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1000人ホールでの結成ライブ

「二人のユニット結成ライブは4ヶ月後、(高砂市文化会館)じょうとんばホールや。前金も払っておいたから」。

同郷ながら深い親交はなく、それぞれの音楽活動を行っていた森本千鶴とヤエオ雄太。二人は、馴染みのライブハウスの店主の行動をきっかけにしてユニットを結成した。

森本は「急だったんで、お互いを理解する暇もなかったですね。当時、私は東京、彼は兵庫を拠点にしていましたし。ユニット名もサクッと決めました」と振り返る。

「最初は『やえもり』でええやんって言ったんだけど、ダサいって却下されました」とヤエオは笑う。「横文字の名前がいいと言われて、ふと思いついたのが『call....it sings』。明確な意味はないですね。外国の人が、意味がわからない日本語のTシャツを「かっこいい」言うて着るのと同じですよ」。

彼の説明に、森本も頷く。「5年間の活動を通じて、様々な意味や愛着が生まれましたね。あとはお客さんの想像にお任せしてます」。

いきなりキャパシティ1000人規模のホールを予約され、音楽性も活動拠点も違う二人が、ユニット名を練る時間すらなく活動を始めるなど前代未聞だ。二人は何故、結成を決意し、活動を続けてきたのだろうか。

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言葉に心を乗せる、天性のボーカリスト

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古川市に生まれた森本は、物心つく前から歌うことが好きだった。学生時代のバンド活動を経て、シンガーソングライターになったのは当然の成り行きと言える。

転機となったのは、最愛の母親の死だ。「涙が止まらない日々のなかで、歌っている時だけは涙を流さずに楽な気持ちでいられたんです」。現実から逃げるように音楽へのめり込んだ。ソロ時代の代表曲『まっすぐいこう!』は、前向きな歌詞を詰め込んだ応援ソングである。

彼女の第一の武器は、声だ。朗々と響き、女性らしい柔らかさと透明感をも兼ね備え、一度聴いたら忘れられない。さらに、繊細な感性と豊かな人生経験から紡がれた歌詞は、その情景を表現する確かな歌唱力をもって、聞くものの心を打つ。

インストアライブやラジオ番組等への出演を重ね、自主制作CD 7000 枚を完売。アーティストとしての地位を確立し、母を失った悲しみも癒えてきた頃だ。ともに活動していたスタッフに「上京してはどうか」と勧められ、心が動いた自分がいた。「色んな人に支えられて、ようやく、もっと歌で勝負をしたい、どこまで行けるか試してみたいと思えたんです」。

直観をメロディに変える作曲家

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ヤエオは小学生の頃、ピアノを少しだけ習って辞めた過去を持つ。「同じことを延々と繰り返すだけの練習が退屈だった」。しかし高校生になった彼は、久石譲の『フレンズ』と出逢って衝撃を受ける。

「曲を聴いているだけで、色鮮やかな映像が脳裏に浮かんだ。俺も、こんなピアノが弾きたいと思った」。

ピアノを再開し、作曲に熱中していくヤエオ。「一人で、家での創作活動を楽しんでいたんですけどね。そんな様子を見るに見兼ねたのか、親からコンテストのエントリー用紙を渡されました。「曲を作ったなら、誰かに聞いてもらえ」ってね」。

オリジナル曲『すべてにメリークリスマスを』で『加古川リバーファンタジー・イルミネーション・イメージソングコンテスト』のグランプリをいきなり受賞。2013年には『姫路文化賞・黒川録朗賞』も受賞し、数々のアーティストや団体へ楽曲を提供していくことになる。ピアニストとしても幅広く活動し、多数の地元メディアに取り上げられた。

色、においなど「五感で捉えた全てに音をつけたい」と言う彼は、呼吸するように楽曲を生み出す。しかし彼は「音楽で食っていきたいという気持ちもなく、日常に満足していました」。

東京で、より多くの人に、自分たちの音楽を届けたい

そして話は、冒頭の場面に遡る。

上京したものの、今一つ次のステップへ進めずにいた森本。地元の生活圏内で、マニアックな創作活動に終始していたヤエオ。かつて広告代理店に勤めていたという店主は、二人の化学反応に期待したからこそ、ユニット結成を勧めた。彼ら自身も、新たな可能性に魅力を感じたからこその決断だった。

森本は「結成以来一番大変だったのは、あのホールライブ」と懐かしむ。「ユニットとしての曲作りと集客に必死でした」。それでも、幾つかの小規模なライブを経た後、第一弾CDを携えて開催したホールライブでは700名を動員。大成功を収めた。その勢いに後押しされ、加古川在住だったヤエオが上京を決意。東京での本格的な活動がスタートした。

周りから形作られてきた彼らは、5年の月日をかけて『中身』を充実させてきた。演奏形態、楽曲の方向性、ライブの演出や衣装。自分たちの個性を確立した時間だった。「俺は作曲しかできんけど、他は森本ができる。ユニットの相方としては最適。口うるさいと思うときもあるけどね」と語るヤエオ。「東京は人が多くて、スピードが速い。音楽的な刺激が違う。森本と組んだからこそ上京できたし、出てきてよかった」。

森本も「ヤエオは寡黙で、何を考えているか分からなくて腹が立つ時もあります。でも、創造力は本物。だからここまで続けてこれた。これからも続けていきたい」と抱負を述べる。

19年3月、ファーストフルアルバム『LIFE』を引っさげ、東京と兵庫の2ヶ所で行う結成5周年記念ライブ。彼らの本当の意味での門出と、今後の飛躍を見守りたい。

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text by Momiji | photographs by Lin-ya Kanzaki | illustration by Kei | casting by Smitch


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