【S05:STORY】サポートミュージシャン集団を繋ぐ『音楽への愛』

PAエンジニアを本職とし、Key.&Gt.&Per.の演奏家としても活躍する櫻井雅芳(さくらい・まさよし)ことスクオペア♪。彼が主宰するサポートミュージシャン集団・スクオペア♪バンドの内実と、メンバーの音楽人生に迫った。

音楽で生きていく覚悟を決める

東京都町田市出身の櫻井は、音楽好きなごく普通の少年だった。中学時代は吹奏楽部に所属、カシオペアなどの楽曲に親しんだという。

「フュージョンジャンルの二大巨頭のもう一方、T-SQUAREもリスペクトしています。二つをかけあわせたのが僕の名前、『スクオペア♪』です」。

櫻井は音響にも興味を持っており、高校の文化祭では野外ステージ企画を立ち上げ、二年間運営を担当した。

卒業後は音響の専門学校への進学を希望していたが、家庭環境等の事情から断念。一般企業へ就職し、約7年間、仕事一筋の生活を送った。

そんなある日、会社への行き帰りの道で、カホンを演奏する男性と出逢う。「なんだ、この面白そうな楽器は?」。心惹かれた櫻井は、仕事の合間を縫って彼の演奏を聴きに行くようになった。

音楽への興味を取り戻した櫻井が、聴き手から演者へと立場を変えるまでに、長い時間はかからなかった。路上ライブを楽しむうち、音楽仲間はどんどん増えた。

その一人に「今度、秋田犬(※編集部注:秋葉原に現存するライブハウス)で演奏するんだ。ピアノでサポートしてよ」と頼まれたことが、大きな転機となった。

初めて『ライブハウス』に足を運んだ2010年。よりよい音を追求するミュージシャンやPAに出逢い、衝撃を受ける。

「音楽だけで生活していきたい」。覚悟を決めた櫻井は、13年に脱サラ。積極的に路上ライブを行い、ライブハウスに入り浸って色んな人とセッションをするなど、音楽漬けの生活を始めた。

「『ギャラをくれ』なんて言える立場じゃないし、『勉強させてください』って感じでやってましたね。貯金を切り崩しながらの生活でした」と回顧する櫻井は、14年末の時点で50組以上のミュージシャンとセッションを行ったという。

音楽学校等には通わず、『楽器と向き合う』ことと実践によってカホン・ピアノ・ギターなどの演奏技術を習得し、音の作り方を学んでいった。

櫻井は「音響やサポートミュージシャンを志望している人が、もし『音楽で食っていくことを目指すか』『サラリーマンしながら音楽をするか』で迷っているなら、僕は『仕事なんか辞めて音楽一本で頑張ってみろ』と言いますね」と語る。

「サラリーマンとして働くのが楽しくて、プラスアルファで音楽をやりたいって人は良いと思います。ただ『音楽をするために稼ぐ』『休みを使って音楽をする』の繰り返しをしている人には、無意義だと言いたいです。

仕事しながらだとのめりこみきれないし、土日しか時間がとれないから、呼ばれるライブの本数が減ります。平日も動ければ、月に数万円ほど収入が変わってきます」

「音楽一本で生きていくって決めて、全身全霊でやれば必ず道は開けます。少なくとも5年頑張れば、絶対に食えるようになりますから」

自身の体験を根拠とした言葉の数々には、並々ならぬ迫力があった。

スクオペア♪バンドの結成

秋田犬のPAとなった櫻井は、出演者のサポートを積極的に行った。

最初はボーカリストに頼まれてピアノで伴奏をする、ギターで伴奏をする、といった『一対一』の依頼が多かったが、ある時期を境にして、バンドでのサポート依頼が増えていく。

「『次のライブでピアノを弾いてくれ』と頼まれて行くと、同じようにサポートを依頼されたギターやベース、ドラムの人がいるんです。ボーカルさんのことは知っていても、彼らとは初対面。お互いの音楽の癖や考え方、スキルなどを探り合うところから始まります。これが一時間くらいかかったりして、しんどいんですよ」。

サポートミュージシャンならではの苦労を抱えていた13年、いつものように呼ばれた現場で、Ba.山本洋士(やまもと・ひろし)と出逢った。

三重県出身の山本は、中学2年生の終わり頃にカシオペアの音楽にはまり、ベースを弾くようになった。高校生になると、友人たちとバンドを結成。全国規模のコンテストにエントリーし、県大会を勝ち上がって地方大会へ出場したこともある。

大学入学と同時に上京。学内外の友人たちと音楽活動に勤しんだ。卒業後も企業に勤めながら活動を続けていたが、30歳を目前にする頃、すべて辞めてしまった。

当時を振り返り、山本は「辛かったんですよ」と言う。「プロになりたい、ならなければという気持ちでやっていた。しかし、そこまでの実力もなければコネもない。自分より上手い若手がどんどん出てきている。限界だと思いましたね」。

音楽から離れて3年後のことだ。会社の後輩から「バンドのベーシストが欠けて困っている。サポートに入ってもらえないだろうか」と頼まれた。

「久しぶりだったけど、とにかく楽しもうと思って行ったら、本当に楽しくて」。サポートミュージシャンとして活動を再開し、音楽を奏でる喜びを思い出した頃、櫻井と知り合ったのだった。

カシオペアファンの櫻井と山本は、すぐに共鳴した。「カシオペアは、主にギターとピアノでメロディを作っていくインストバンドで、楽器の技術力が半端ないんです」「聴いてみればわかります。ものすごくカッコいい」。筆者に対して異口同音にその魅力を語ってくれた二人は、「運命を感じる出逢いですよね」と笑った。

14年、櫻井は別の現場でDr.柳島亮祐(やなぎしま・りょうすけ)と出逢う。

幼稚園の頃はエレクトーンを習い、中学生の頃はアコースティックギターでゆずのカバーをしていた柳島。彼がドラムを始めたのは高校生の時だ。友人とバンドを組み、大学に進学しても活動を続けた。

卒業とともに、通っていたドラムスクールに就職。以後は講師として働きながら、サポートミュージシャンとしてもステージに立つ日々を送っていた。

櫻井と柳島は地元が同じどころか、同じ中学校の先輩・後輩関係だった。すぐに意気投合し、「これまた運命だと思いましたね」。それから櫻井はサポートに呼ばれた際、アーティストがパーカッションも必要としていると分かれば、柳島に声をかけるようになった。

リハーサルで初めて知り合った者同士の腹の探り合いは、単純に時間のロスであり、依頼主のボーカリストを不安にさせる要因ともなる。

「気心の知れた仲間とあらかじめバンドを組んでおけば、そういうのを取っ払えるなぁ」と考えた櫻井が、サポートの現場で知り合った柳島、山本とスクオペア♪バンドを結成したのは自然な流れだった。

静岡県を拠点に活動する女性ボーカルグループ・ORANCHEをサポートする際は、Gt.松本けんじ、Sax.田尻由紀(たじり・ゆき)も参加し、フルメンバーは5人となる。

『音を楽しむ』素晴らしさが、末永く続くように

スクオペア♪バンドのメンバーたちは依頼主の要請に応じて集まり、リハーサルをする。「個人での『練習』はほとんどしませんね。音源と譜面の確認はするけど」と櫻井は言う。

「手を抜いている訳ではなく、やっても無駄だと思うんです。カバー曲なら『ここは合わせないといけない』って部分がはっきりしているので、多少は意味があります。

でもシンガーソングライターのオリジナル曲は、普段の彼ら一人での演奏と、バンドでの演奏は大きく違う。他の楽器の音を聞きながら演奏内容を考えたいし、リハーサルの様子次第で変わる部分が大きいので、敢えて練習はしません」。

スクオペア♪バンドの活動範囲は都内だけではない。呼ばれれば日本全国どこへでも、櫻井が運転する車で駆けつける。ギャランティは、定価をアーティストへ伝えたうえで、予算や交通費の扱い等を相談しながら決めている。「かなり柔軟にやってますよ」。

今後の目標は?と問いかけると、「特にないけど…需要がある限り続けていきたいですね。何より音楽を楽しんでいたい」。

さらに櫻井は、少し考えたのち、こう付け加えた。「僕は音響が本職なので、そういう意味では、色んなアーティストが集まれる空間作りをしていきたいですね。自分でライブハウスを持てればいいのかな」。

「チケットを売らなきゃとか、CD買ってほしいとか、そういうとこを抜きに『音楽って楽しいな』と感じてもらいたい。生の音には振動があります。身体でしか味わえないものがあります。YouTubeなどのインターネット配信もツールとしては良いけど、やっぱり現場に出て、ネットとリアルの両軸で活動してほしいと思います」。

CDが売れなくなって久しい時代。良いライブハウスが次々と姿を消していて寂しい、と櫻井は嘆く。

「自分が路上出身だからというのもあるけど、ルールを決めたうえでの路上ライブっていいですよね。たとえば神奈川県川崎市の取り組みなんかは素晴らしい。路上でお客さんを掴み、ライブハウスに連れて来るような流れが、もっと都内でも広まってほしいですね」。

ともすれば影に隠れがちな存在のサポートミュージシャン。彼らは誰よりも深く音楽を愛し、ライブハウス文化の持続的発展を願っていた。

text:Momiji photos:by Lin-ya Kanzaki casting&PR:Smitch

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