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【S01:COLUMN】微笑みのルークトゥン

タイに行ってきた。

タイという国は至るところで路上ミュージシャン、というかホームレスがハンディカラオケで歌っている。特に上手くもないのだが歌い終えるや胸を張っておひねりを求める緩さが個人的には好きだ。聞こえてくるローカル音楽は歌謡曲中心で、調べてみるとルークトゥンと呼ばれるジャンルらしい。

旅の記念にアルバムを持っておくのも良いかと思い現地のレコード屋に赴いた。アジアらしい雑然とした店内で、カウンターには無愛想な小太りの青年が座っている。

こっちの人は言うほど微笑まないよなと思いながら店内を見回すと外国曲が目立った。どうも若い人はK-POPのようにハッキリした曲調を好むみたいだ。RADWIMPSの『前前前世』も大きくフィーチャーされている。タイ人アーティストは隅に追いやられパッケージも色あせているので今ひとつ買う気になれない。これでは日本とあまり変わらないな〜、と少し落胆する。

帰ろうかと踵を返したところで入り口脇に置かれた新入荷のCDに目が止まった。7インチレコード大の紙ジャケットにはビーチでCHILLするアロハシャツの若者が描かれ、クレジットにはHI-FI THAI COUNTRYとある。

こういうのでいいんだよ、こういうので。

試聴できないものかカウンターにCDを持っていくとおデブちゃんが目を輝かせる。手元のiPhoneを操作すると備えつけのスピーカーから音楽を流し始めた。どうやら彼のレコメンドするところだったらしい。

英語はたどたどしいが、身振り手振りで「音質が良いから最高のオーディオ環境で聴いてくれよな」と伝えていることが分かる。牧歌的なタイ語歌唱にCHIL HOUSE MIXの都会的な音像は中々イケていた。そんな訳で迷わず購入し帰国の途に着くのであった。

早速MacBookに取り込み作業用BGMとして愛聴している。

後で分かったことには、そもそもルークトゥンは「田舎者の歌」という意味になるらしい。要はカントリーである。侮蔑的なニュアンスで捉えられていたところにインディー方面から伝統音楽再評価の機運が高まり、満を持して登場したのがHI-FI THAI COUNTRYというユニットになる。割と批評的なバックストーリーである。

既発は 『Hi-Fi Thai Country』『Hi-Fi Thai Country 3D』(続編に3Dと銘打つセンス!)『Hi-Fi Thai Country CHIL HOUSE』、合わせて3枚。B級品というバイアスに反発するようにゴールドCDで発売するなど音質に拘りを見せる。

どこまで本気でやっているのか分からないが遊び心に知性を感じすっかり好きになってしまった。

ということでこの1枚、貴方もいかがだろうか。渋谷のエル・スール・レコーズでも手に入るみたいです。

text by トマトケチャップ皇帝/This Charming Man

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