見出し画像

【R12:STORY】瀟洒なアコースティックユニット・flosstRINGs

gt.山口宗治郎(やまぐち・そうじろう)とvo.新井一徳(あらい・ただのり)によるアコースティック・ユニット、flosstRINGs(フロストリングス)。スラム奏法やタッピングを駆使した演奏が特徴的な山口と、エレクトロニック・ロックを中心に歌ってきた新井が出逢い、ともに音楽を奏でるに至った物語を綴った。

音楽専門学校を経て上京し、バンドやユニットで活動

兵庫県南あわじ市出身の山口宗治郎は、玩具やゲームが好きな少年だった。

「大人になったら任天堂かタカラトミーに就職するのが夢でした」。

ただ遊ぶだけではなく、ゲーム音楽にも強い興味をもっていた。「一番好きな曲を選ぶのは難しいですね。最近だと、ゼルダの伝説ブレスオブザワイルドの『魔獣ガノン戦』が気に入っています」と、取材時の彼は語った。

幼いころからエレクトーンを習っていたが、良い思い出がないと言う。「長くやったわりには上達しませんでした。もしかしたら、嫌々やっていたのかも」と渋い顔を見せたのち、「それでも音楽は好きだったんです。家にはギターもあったので、『じゃあこっちをやってみようか』となりました」。

彼の両親も音楽好きであり、宗治郎の名前は、日本を代表するオカリナ奏者・宗次郎氏にちなんでつけられたものだ。

高校を卒業した宗治郎は、大阪の音楽専門学校へ進学。エレキギターを中心に学び、卒業後は3人組のロックバンド・Ray-Arties(レイアーティーズ)へ加入した。「僕がエレキギターで、あとはベースとボーカル。ドラムはサポートで入ってもらってました」。

宗治郎が上京したのは、バンド活動のためだった。

「僕が入ってすぐに『東京へ行こう』って話になって、思い切って3人で上京しました。ルームシェアしながらライブとかしてましたね」。

だが、約3年後、バンドは活動休止。「代わりに、ボーカルと僕のふたりで、アンライヴァルドというアコースティックユニットを始めました」。

宗治郎がアコースティックギターに関心をもったのは20歳のころ、アンディ・マッキーの動画を見たことがきっかけだ。

アンディ・マッキーといえば、2004年のカンザス・フィンガースタイル・ギター・チャンピオンシップの優勝者であり、独特な作曲センスと卓越した演奏技術で知られる。日本ではドコモのスマートフォン・GALAXYのCMに起用された楽曲『Rylynn』がつとに有名だ。

「ネットカフェでたまたま彼の動画を見て、すごい弾き方するなぁ、って。僕もこういうのが弾きたいと思って、アコースティックギターを始めました」。

14年夏に始動したアンライヴァルドは、秋葉原にあるライブハウス・Live Garage 秋田犬を拠点に、川崎銀座街バスカーライブなど多数のイベントで演奏。さらにインターネットラジオ番組のメインMCを務め、NHK番組『囲碁フォーカス』へ出演するなど、精力的な活動を行っていた。

「色んな人と縁が繋がっていって、今日までやってこれた感じですね」。

対バンで出逢い、flosstRINGsを結成

新井一徳は、歯科医師として働くかたわら、16年ごろから『キックン★イックン(※編集部注:現在はELECTOILEに改名)』というシンセサイザーロックユニットで音楽活動をしていた。

17年9月17日、Live Garage 秋田犬でのライブイベントにゲストとして招かれた新井は、対バンしたアンライヴァルドのステージを見て衝撃を受ける。

「宗治郎くんの演奏がカッコよくて。ギター一本なのに、いくつもの音が同時に鳴って、パーカッションまで入っていて、感動したんです。彼のようなギターを弾く人は見たことがありませんでした。ぜひ、一緒に音楽がやりたいと思って、『曲を作ってほしい』と依頼しました」。

声をかけられた宗治郎は「僕でいいの?」と困惑した。

「だって新井先生は、イケメン歯医者としてテレビに出てたり…。そんな人と組むなんて、畏れ多かったです」。

新井の歌を聴いたときは、どんな感想を持ったのだろうか。

「『イケメンがイケメンなことやってるなぁ』『まぶしいなぁ』『こんなテクノな音楽やるんだなぁ』とかですね。だから、僕が新井先生のために曲を作るなら、全然違う雰囲気にしよう、と考えました」。

ここで宗治郎が書き下ろしたのが、ジャジーな演奏と美しいメロディラインが印象的な『DANCE on the LEAF』である。

「最初に聴いたとき、素直に『良い曲だな』って思ったんですよね」と、新井は当時を懐かしむ。

「キックン★イックン時代は相方が作詞作曲をやっていたので、僕が歌詞を書いたのは『DANCE on the LEAF』が初めてでした。宗治郎くんの曲のお洒落な雰囲気に合わせて、自然界の、雨上がりの話にしました」。

出来上がった歌詞を見て、宗治郎は感心した。「イックンが歌詞を書けるとは知らなかったので、『イケメンがこんな歌詞書くんだ』って」。

紆余曲折を経て、ふたりの共作曲が完成したのは、18年の春のことだ。

「次はどうする?」と話を振ったのは、宗治郎からだった。

「一曲だけじゃ足りないな、また違ったのやりたいなと思ったんです。その時点で、イックンが作っている曲も知っていたから、僕のギターを合わせたらどうなるかな?って興味もあって」。

彼の申し出を受けた新井は、「凄く嬉しかったですね」と言う。

「始まりが、僕からお願いして曲を書いてもらう形だったんで、ちょっと不安だったんです。『実は面倒くさいと思っているのに、仕方なく付き合ってくれているんじゃないかな』と。だから続けようと言ってくれて、ほっとしました」。

18年6月18日、新井は自身のブログにてflosstRINGsの結成を報告している。

「とはいえ、17年の秋に知り合って、曲作りを始めて、互いのライブを見に行ったり、コラボをしたりしていたので…。いつが正式な結成日なのか、これまでに何度か話し合ったんですけど、答えが出ないんですよね」と、ふたりは顔を見合わせて笑う。

「『DANCE on the LEAF』がちゃんと仕上がって、やっとユニットを結成した実感がわいて、そんなブログを書いたのかもしれません。『気づいたら結成してた』って感じです」。

ユニット名は、新井が一人で考えた。

「宗治郎くんはギタリストだから、ストリングス(strings)。僕は歯科医師なのでフロス(floss)。このふたつをRINGが繋ぐイメージで、強調しました」。その名を聞かされた宗治郎は、一も二もなく賛成した。「小文字と大文字の使い分けがセンスあるな、と思いました」。

18年7月2日にLive Garage 秋田犬にて初ライブを行ったふたりは、8月3日には『DANCE on the LEAF』のMVを公開。以降、各地のオープンマイクやライブイベントへの出演や、YouTubeへの動画投稿などを重ねている。

やりたいときにやりたいことを、楽しく長く続けたい

flosstRINGsのコンセプトは?と訊くと、ふたりはしばらく考え込んだ。

「最初にイックンが気に入ってくれたのは、僕のバチバチ叩くギター演奏だから、そういう方向性でいったほうがいいのかな、とは思ったけど。アコギ一本とボーカルのユニットなので、普通のジャカジャカ鳴らすポップスはやりたくないんですよ」と宗治郎は言う。

「僕の我がままで、彼が好きなのとは違う方向性の曲ばっかり作ってて、申し訳ないです」。

新井は首を横に振る。

「宗治郎くんの良いところは、僕が作った詞や曲について『これは違う』と言ってくれるところです。『この曲はギターじゃなくてピアノっぽい』とか『フロストっぽくない』とか。彼のなかに『フロストらしさ』があると思うし、僕もそれに合わせて作っていくのが楽しいです」。

画像1

一般的に、アコースティックユニットではボーカルがメインになりがちだ。だが新井は「ふたりとも同じくらい見てもらえるユニットでありたい」と主張する。

「ポップスじゃなくても、宗治郎くんのギターテクニックにはみんな目が行くので。終演後にお客さんから『凄いギターだったね』と感想をもらったりすると、幸せな気持ちになります。彼のギターを多くの人に知ってほしいんですよ」。

だが、ELECTOILEでの活動が先行していた新井にとって、アコースティックでのパフォーマンスには慣れない部分がある。

「flosstRINGsを結成してしばらく経ちますが、未だに練習やライブで悩むことがあります。一人で練習しているときには出来ても、宗治郎くんと実際に合わせてみると上手くいかなかったりして。ELECTOILEはカラオケ音源に合わせての演奏だけど、flosstRINGsは完全に生演奏だから」。

新井は苦笑しながら「ふたりで練習する時は超集中してます。めっちゃ汗かいてます。『宗治郎くんが前に組んでいたユニットのボーカルさんは、こんな風じゃなかったんだろうな』と思うときもあって。アンライヴァルドさんは本当にカッコよかったし。…こちらこそ申し訳ないです」。

すると今度は、宗治郎が否定した。

「確かに昔、自分はロックバンドをやってて、その流れを汲んだユニットで活動してました。もちろん当時は、それがやりたかったわけだし、他にも沢山セッションをやってきたけど…今が一番いい。一番しっくりきてます」。

ありきたりではない、『お洒落』な音楽を追求したいと彼は言う。

「長いあいだ試行錯誤して、やっとここに辿り着けたのかなと思います。イックンのボーカルの良さを最大限引き出せるギターを弾きたいですね」。

今後の活動方針や夢はありますか?と訊くと、宗治郎は「配信を頑張りたいです」と答えてくれた。

「ライブもいいけど、会場まで足を運んでもらうのは大変ですし。これからは配信の時代だと思います。MVを沢山作って、YouTubeにアップロードできればいいな」。

新井は「flosstRINGsは『ゆるい気持ちで、でもちょっと本気出すよ』って感じのユニットだと思っています」。宗治郎も同意する。「やりたいときにやりたいようにやる、ってスタンスです。楽しく長くやりたい。おじいちゃんになっても続けたいですね」。

編者は彼らの楽曲を聴くにつけ、市井のライブハウスではなかなか出逢えないジャンルの音楽だと感じる。

彼らに言わせれば『フロストらしさ』を定義する宗治郎のギターテクニックと、それを引き出す新井のボーカルゆえであろう。

ライブや動画でflosstRINGsの演奏を見ると、ふたりが互いの音を聴き合っていることが感じられる。今回の取材でも、常に互いを褒め合い、謝りあう姿からは、ひたすらに仲の良さが伝わってきた。

『相思相愛のイケメンユニット』とでもキャッチコピーをつけたいところだが、誤解を招きそうな表現なのでやめておこう。

編者としてもぜひ、長く聴いていたい音楽であるからして、長く活動を続けてほしいものだと思った。

Text:Momiji

INFORMATION

flosstRINGs 公式YouTubeチャンネルでは、オリジナル曲のMVはもちろん、ライブ映像やカバー動画など多数配信中!

関連記事


お読みいただき、ありがとうございます。皆さまからのご支援は、新たな「好き」探しに役立て、各地のアーティストさんへ還元してまいります!