恐妻家日記~妻の風邪3~

ギリギリまで様子を見た妻は、昼過ぎになりようやくでかいケツを持ち上げた。限界が来たらしい。まずはスマホを手に取り産婦人科へ電話する。現状を説明する。相槌を打つ。「どうしようかなぁ」とまだ迷い出す。病院の回答としては、「急を要する訳ではなさそうだが、来るなら今から来ても構わない」というもの。ハッキリとすぐ来いと言ってほしそうだった妻。それは全く同意する。
私はあせる気持ちを押さえつつ、笑顔で妻に優しく言った。
「とりあえずいっといた方がいいよ。絶対その方が安全だよ~(*´ω`*)」
出勤予定時刻は刻々と迫る。かかりつけの産婦人科までは車で片道15分と少々。往復で30分は悠に取る。行くなら行くで早くしてくれ。時刻は1時を迎えようとしていた。
ようやく決心を決めた妻がいそいそ準備を始めると、ここで新たな刺客が現れる。長女(2歳)である。「ママと一緒に行く!」と駄々をこね出す。彼女はいつでもそうだが、出掛けると決めてから玄関で靴を履いて外に出るまで信じられないほど時間がかかる。ワクワクうきうき、楽しいお出掛けの時間になると喜びのあまり牛歩作戦に打ってでるのだ。この天晴れな奇策に我々夫婦はいつもヤキモキさせられる。そして最終的には母子喧嘩コントをして半泣きになりながらようやくバイバイをする。
その嵐が過ぎ去ると、とっくに時刻は1時を過ぎていた。
出門に至って、妻にいかほど時間がかかるか尋ねた。
「さあ」と妻。「わからないけどなるべく早く帰る」と言った。確かに言った。私は聞いた。
ここで私の余計な優しさの見せ所である。
「事故とかしないようにね。しっかり診てもらってね」そして最後に、「3時までには家を出たいけど、どうしても無理なら4時までならなんとかなるからね」
なんとも優しく哀れな男よ。いま振り返り、堪えきれない涙を流しながら書き綴る。この先待ち受ける妻の非道なる裏切りを知る由もなく私は妻と娘を見送った。
重ねて言おう。私は「“どうしても無理”なら4時」と言った。さらにもうひとつ重ねて言おう、「時刻はとっくに1時を過ぎていた」。