暇空さんの都への住民訴訟の注目点

令和5年7月14日

R3年度若年被害女性等支援事業に関する訴訟は以下の通り。

訴状は監査結果発表(2022/12/28)後、都の再調査の結果発表(2023/2/28)前の2023/1/20に提出されているという時系列も踏まえる必要があります。

さて、上記裁判について、サポート(投げ銭)等によるご支援と共に依頼がありましたので状況の整理と私個人が注目しているポイント等を書きます。
依頼は『解説』ということでしたが、私にはそんな御大層なことはできませんから、ただ私見を述べているだけだとご理解下さい。

再三再四申し上げていることではありますが、現段階では「東京都がいい加減に委託事業を監督しており、またその後の調査も適正ではなかった」かもしれない以上のことが言及できる状況ではありません。
特定団体への、特に感情的な非難は慎まれた方が皆様の御身の為かと思います。

1、経緯の整理

① 監査について

  • 監査は本事業実施に係る収支に関する帳簿、領収書その他の諸記録を合わせて『本件帳簿記録』と呼んでいます。

  • 費用毎の調査のほとんどが、その「本件帳簿記録を調査したところ」中略「経費に計上されていること『は』確認できる」という書きぶりになっており、踏み込んだ調査を避けているように見える点が印象的です。

監査結果より「会議費」の例
  • 住民監査は請求人が示した、過大請求が疑われる事象を一因として行われたのですから、会議費の例であれば都事業に係る帳簿、領収書その他の諸記録に当たった上で事業者の会計書類にも当たらなければ請求人の提起した問題は解決しないはずです。

  • 監査が必要な調査を行わなかったことは不思議でなりません。

  • また監査の結論も、調査対象局の福祉保健局に対して「事業の実施に必要な経費の実績額」を『再調査及び特定』することと、『客観的に検証可能なものにすること』を勧告したことからも、監査自身がその支出が委託事業の費用として妥当かどうか判断することを避けたかったのではないか?という印象を受けてしまいます

  • なお、調査対象局、言い換えると「まずいことがバレると困った立場に置かれる部署」自身に再調査を指示することは、監査業務においてあまり一般的ではない結論だとは言えるでしょう。

監査結果より
  • 単に領収書と帳簿を突き合わせるだけでなく、例えば支援記録と支出に整合性があるかどうか、会計書類に付随する総勘定元帳や仕訳帳及びそれに添付されている領収書と都事業の支出を比べて整合性があるかどうか、当該支出が都委託事業遂行に必要なものかどうか等の調査を行うことが一般的な監査で行われる、『客観的資料により支出の事実を裏付ける』(訴状から引用)ための調査です。

  • 監査がこれを怠り、監査対象局に対応を任せたのは問題と言えるかもしれません。

② 再調査について

  • 福祉保健局は再調査で、領収書等や台帳と突合する等で矛盾がないかを見たようです。その調査方法だと、台帳通りに支出がされていれば何でも経費に認められてしまう気がします。

  • 「事業の実施に必要な経費の実績額」を『再調査及び特定』することと、『客観的に検証可能なものにすること』という勧告を満たす調査でないように感じます。

  • この調査結果は都知事名で監査に提出され監査はそれを特に咎めることなく受領しています。

  • その結果、後述する『事業の実施に必要な経費』か疑わしい経費の存在等を含め、数々の疑念が残ったまま監査が終結してしまった印象です。

参考:東京都住民監査請求結果(令和4年受付分)

③ 『実際』について

  • Colaboは6/29付の答弁書で「都には認められていないが『実際』は委託事業に支出していた費用」を出しています。

  • この『実際』の資料ですが、現段階では直接的に裁判の趨勢に影響する資料ではないように私には見えます。
    (間接的にはこれを検証することで色々と判明することもありますが)

  • 現状、裁判では最終的に監査が確認した「表3」(総額29,057千円)が基準数値になっていますが、今後は「再調査結果(表4?)」(総額27,131千円)が基準になるはずです。

  • Colaboが『実際』いくら支出していて、東京都がなぜ『実際』を認めなかったのかは定かではありませんが、それは東京都とColaboの話であって、裁判とは無関係です。

  • 裁判の争点は『東京都が認めた27,131千円の支出の内、不当なものがあるかどうか』に終始すると思います。

  • 再々調査が行われて東京都が認定する事業費の総額が変われば話は変わりますが、さすがにそんなことはないでしょう。

  • 東京都とColaboがこの『実際』を出した目的については、この先の裁判の展開でおそらく明らかになるはずですが、現段階では「よくわからない」以上のことを言える方はいないはずです。

2、注目:財産取得に係る経費

  • 上記の通り、監査及び再調査はあまり真剣に行われなかったようにも見える状況です。

  • ただ都事業の支出として適当かどうか判断が分かれる可能性がありそうな費用の存在も『実際』により判明しましたから、以下に幾つか列挙します。

参考:人件費についてはこちらにまとめています

① 事業で取得する「財産」の取り扱い

  • 東京都の若年被害女性等支援事業は国からも事業費の一部が補助されており、「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律」(いわゆる補助金適正化法)の対象となることは確認されています。

参考:ガーシー元議員の質問主意書に対する内閣府の回答

参考:補助金適正化法

  • 補助金適正化法では『補助事業者が補助事業により取得し』た財産は処分(補助金の交付の目的に反する使用、譲渡、交換、貸し付け、担保提供)が制限されると定められています。

  • 複数年にわたる使用が前提となる備品やソフトウェア等の財産取得費用の満額を経費として認めることは、補助事業者(東京都)が受託事業者(Colabo)に対して実質的に事業終了後に財産を「譲渡」しているのと同じですから、問題があると言えます。
    (下記の通り、Colabo自体は補助事業者ではない点は留意が必要です)

質問主意書の答弁より
  • また、当然ですが委託事業の支出対象費目は「本事業の実施に必要な」範囲に限定されています。『本事業の実施』期間は2021/4/1~2022/3/31です。

委託事業の仕様書より
  • 以上より、令和3年度若年被害女性等支援事業において、補助金適正化法及び委託事業仕様書の両方を勘案すると、複数年にわたる使用が前提となる財産の取得経費が認められるのは2021/4/1~2022/3/31に使用した分に限るという取扱いにする蓋然性が高そうです。

  • 上記を踏まえつつ、『実際』を見ていきましょう。

『実際』より

② 備品代・ソフトウェア代

  • これらについては、上記赤線の通り、Colaboの主張する通りの金額が事業費として認められています。

  • しかしこの費目については特に不適当だと思われます。

  • 何故ならば、「給食費」や「宿泊支援費」等と違って、支出の効果が数年以上にわたる費目だからです。

  • Colaboが補助事業において消耗品費の費目で購入した備品は以下。

『実際』資料をまとめたもの
  • 備品代で購入した備品及び資産性のあるソフトウェア開発費用(システム保守費用は資産性がないので除いて考える)は以下。

『実際』資料をまとめたもの
  • 明らかになっている物をサンプルとしましょう。備品代がPC購入費だということは既に判明しています。

再調査結果より
  • 2/26に購入しているPCの取得費用166千円に着目しましょう。

  • これは「支出の根拠」は具備しますし、また「支出を管理している台帳」とも整合します。ゆえに上記の東京都の監査・再調査はクリアすることになります。

  • しかし、委託事業のための経費として全額を認めるのは不適当です。取得した財産は複数年にまたがって使用できるのに、委託事業に寄与するのはその内の1か月間にしかならないからです。

  • PCの耐用年数 及び 財産の処分制限期間は4年(48ヶ月・下図参照)ですから、補助金適正化法 及び 委託事業の仕様書の定めを踏まえると、事業に使用する期間分(便宜上1か月とします)の費用のみを認める取り扱いが適当でしょう。

  • 2/26の支出は計166千円なので、計算すると適正な経費は約3千円(166千円 ✕ 1/48)という計算になります。

  • このような計算で事業経費を算定しなければ、東京都は国から受領する補助金でColaboの単なる財産取得を支援することになってしまいますから、補助金適正化法及び委託事業の仕様書の定めに反する可能性が高いと思われます。

  • 今般、『実際』によりPC購入費以外の備品代やソフトウェア開発費の存在が明らかになりました。

  • 合計すると2,000千円近くなる財産取得に係る支出の中身はわかりませんが、家具家電や汎用性のあるソフトウェアへの支出なのだとすれば、過半が不適当と見なされる可能性もあります。

  • 複数年にわたる使用が前提となる財産の取得費用を東京都が経費として認めたことが適当かどうかは、裁判でも言及されるかと思います。

下記サイトより
小さくなってしまったので拡大して見て下さい

参考:物品の法定耐用年数(国税局)

参考:厚労省 補助金適正化法で処分制限期間が設けられる財産の一覧

3、注目:「自立支援」事業向け経費

これは以下で既に述べていますので、要旨だけ簡記します。

① 「自立支援」事業の扱い

  • 若年被害女性等支援事業はアウトリーチ事業、居場所の提供に関する事業、自立支援事業の概ね3つに大別されます。

  • その内、自立支援事業については「居場所での支援が長期化する利用者」に向けた支援であるとされており、「長期化」とは保護が2週間を超える場合を指すことが以下より読み取れます。

仕様書より
  • そしてColaboが「長期」保護した人数は0人ですから、おのずと自立支援事業は行っていないことになります。

実施状況報告書より
  • 一方で、東京都は厚労省向けの事業報告でColaboが行った「自立支援」事業の成果を報告しています。

  • このことからは、東京都が仕様書とは異なる解釈で「自立支援」事業を認識していたことがわかります。

厚労省向け報告書より

② 給食費・宿泊支援費について

  • こちら、詳細は上記記事に記載していますが、支援対象者のお祝い費用や合宿費用等、「自立支援」目的の支出がかなり含まれているようです。

  • 上記の通り、仕様書に照らすと「自立支援」目的の支出は「自立支援」事業の対象者がゼロ人である以上、経費としては認められない可能性があります。

  • また『実際』により監査が指摘している以外の高額な食費の存在等が確認されていますので、それも「自立支援」目的のお祝い等であれば、経費として認めるのは適当でないかもしれません。

  • 旅費交通費にも相当程度「自立支援」目的の支出が含まれているはずです。

  • こういった支出がどの程度あるかは定かではないので、裁判を通して『客観的に検証可能』になることを願います。

まとめ

  • 監査は福祉保健局に対して「事業の実施に必要な経費の実績額」を『再調査及び特定』することと、『客観的に検証可能なものにすること』を勧告していますが、実際は当該勧告で求められたレベルに及ばない再調査が行われ、監査は終結しています。

  • 単に領収書と帳簿を突き合わせるだけでなく、例えば支援記録と支出に整合性があるかどうか、過大請求疑惑があるのであれば会計書類に付随する総勘定元帳や仕訳帳及びそれに添付されている領収書と都事業の支出に整合性があるかどうか、当該支出が都委託事業遂行に必要なものかどうか等等の調査を行うことが一般的な監査で行われる『客観的資料により支出の事実を裏付ける』(訴状から引用)ための調査です。

  • これらを東京都が怠った可能性が高いことは上記の通りであり、裁判では争点になっていくはずです。注目したいと思います。

以上


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