例の生活保護の住居扶助に関する雑考
令和5年6月12日
ここ数日、以下の件でTwitter界隈は大いに盛り上がっています。
本件の特徴を正しく捉えられていない考察・感想等も散見されるようですので、久々に記事を書こうと思った次第です。
結論だけ先に書くと、現段階では最近のメガネスーパーの事例とほぼ同一と評価されても仕方ないように思えます。
メガネスーパー
12,000円の眼鏡を、医療扶助の上限に近い22,800円として自治体に請求し、10,800円を上乗せしていた。
本件
30,000円の家賃を、住宅扶助の上限である53,700円として自治体に請求し、23,700円を上乗せしていた疑いがある。
もちろん本件については団体より何らかの釈明があると期待されますので、断定的な評価を下すにはそれを待ちたいと思います。
本稿は上記結論に加え、相場よりも高い住居扶助費が支払われている類似のケースとの違いにも言及します。
1、前提
① 生活保護と住宅扶助について
生活保護制度は、生活に困窮する方に対し、その困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障するとともに、自立を助長することを目的とした制度のことです。
費目別に保護の種類は分かれており、その内の「住宅扶助」が今回話題になっている費目となります。
詳細は省きますが、賃料相場はバラつきがあるため、住宅扶助上限金額は地域ごとに分かれています。東京の場合は53,700円が上限になっているのは暇空氏の記事の通り。
② 住宅扶助の問題点
これは制度上の問題ですが、生活保護受給者の賃料というのは、一般的な相場よりも高い水準になってしまっているのが現実です。
「生活保護受給者の家賃は国が負担するのだから、上限目一杯で設定しよう」という貸す側の思惑が反映されている可能性は大いにあるでしょう。
以下はネット上で読める論文の一例。参考まで。
微妙な問題ですが、住宅扶助が支出されている生活保護受給者の家賃が適正かどうかを一々検討するようなマンパワーが役所にないせいか、この事象自体は問題になっていないのが現実です。
この点を踏まえて、今回のケースを評価してみましょう。
2、類似パターンと今回のケースの比較
今回のケースを評価する前に、まずはよくあるパターンをどのように評価するか考えてみましょう。
①一般物件で生活保護受給者の賃料が一般入居者よりも高いケース
これは非常に多いです。実務上、同じ建物の同ランクの部屋よりも2~3割程度高いことが多いというのが個人的な感覚です。
では、これを不正と責めることができるかというと、なかなか難しいように思います。
事実はどうあれ、「生活保護受給者は特有のリスクがあるため、賃料は高く設定する」と貸主が主張するのは自由です。
そして、少なくとも建前上(※)は生活保護の受給とアパート等の貸主は無関係なのです。借主が自由意志に基づき、貸主の家賃設定を受け入れて賃貸契約が成立しているだけであり、その賃料水準に対して第三者が物言いをつけるのは筋違いと言えるでしょう。
(※実際は不動産所有者と生活保護斡旋業者が繋がっているケースも少なからずあり、問題になることもあります)
② 生活保護受給者の支援施設の賃料が一律で高いケース
これもよく聞きます。いわゆる支援団体が生活保護受給に協力した上で、自ら運営する施設への入居を斡旋して、生活保護受給者を住まわせる形態です。
こちらに関して私はあまり明るくありませんが、賃料水準に比べると劣悪な住居環境であることも少なくないようです。
その程度が著しい場合は問題になり、いわゆる「貧困ビジネス」として報道されたりもしますが、相場よりも明らかに高いが「著しい」とまでは言えないケースはどうでしょうか。
これを不正と責めることができるかというと、施設側にも賃料設定について、言い訳の余地が一定程度あるでしょうから、これも容易ではないように思います。
以上を踏まえ、今回のケースを評価してみましょう。
③ 今回のケース
さて、今回のケースはかなり特徴的です。団体自らが生活保護受給に協力した上に、自社施設への入居も斡旋した場合の家賃が53,700円、一般入居者の家賃が30,000円と、不均衡になっているわけです。
賃料が不均衡な点は①に類似しています。①のケースでは「条件が折り合ったので契約が成立しただけ」という言い訳が可能ですが、本件の場合は団体が入居を斡旋しているようなので、その言い訳は使えないように思えます。
団体が借主の生活保護受給に協力し、自身の運営施設に入居させている点は②に類似しています。②のケースでは「何らかの理由で賃料を高くせざるを得ない」という言い訳ができるかもしれませんが、本件の場合は一般入居者に対して低い賃料を設定しているので、その言い訳は使えないように思えます。
この場合、当該物件を賃貸に出した際の一般相場と照らして「53,700円が著しく高額ではない」場合は言い訳の余地が生まれるかもしれません。
シェルターに供されている物件は承知しています(※)が、いずれの物件も161,100円/月(53,700円×3部屋分)の価値はないようです。
(※特定を避けるため具体的には一切言及しません)よって、①・②のパターンは共に「不正があっても言い訳されると立証が難しい」ことが多いのに対して、本件は「言い訳」の余地があまりないパターンだと思います。
本件事例は冒頭で示した結論の通り、「メガネスーパー事件」と同様の問題点があると論評するに足る根拠があると言えるでしょう。
以上
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