扉

復興支援企画|「新汗覚キャンピング」は、 どのようにして企画されたのか。

 災害ボランティアと言えば、ヘルメットを被ってスコップで土砂をかくというイメージを持っている人がほとんどだろう。復興支援の専門家ではない、単なるアウトドア好きの私もそんなイメージしか持っていなかった。
 先週の土曜日、2月22日に相模原のキャンプ場(青野原野呂ロッジキャンプ場)で開催された「新汗覚キャンピング」は、災害ボランティアのイメージを変える野心的かつ実験的な試みであった。年齢も職業もバラバラの人たちが土砂ではなく「汗をかく」という行為で結束し、歓喜の声(ときに奇声)を発しながらワイワイと盛り上がる。『助ける』だけじゃない。『楽しむ』という災害ボランティアの新しい形を模索する一風変わった復興支援イベントとなった。
 マイナスの被災状態から生活を復旧させる支援。そして、被災地に根付いていた仕事や商いを再建させ、プラスの軌道に乗せていく支援。今回は、後者に該当する試みだ。台風19号で甚大な被害を受けたキャンプ場に再び、いや、今まで以上に賑わいを取り戻すというプロジェクトである。 
「こうした新しい支援の形を、もっと広げていきたい」。
このプロジェクトの発起人である社団法人FUKKO DESIGN木村充慶(以下:木村P)の要請を受け、「新汗覚キャンピング」が発案→実施されるまでの経緯と思考プロセスを企画に携わった私からレポートしたいと思う。今後、この手の災害ボランティア企画の参考になれば幸いだ。

「アウトドア好きですよね?」

 謎のファーストコンタクト

遡ること1月下旬。
私がオフィスで仕事をしていると、木村Pがノソノソと急接近してきて「いきなりですけど、アウトドア好きですよね?」と訊いてきた。もはやYES or NOの二択を迫る勢いなので、仕方なく「YES」と答える。
 少しの沈黙の後「じゃ、決まりですね」と言い残し木村Pは去っていった。 何がどう決まったのか全くもって不明ではあったが、程なくして届いたメールによると、その週の日曜日、木村Pと一緒に相模原市にある野呂ロッジというキャンプ場を訪問することになった、らしい。
肝心な訪問の目的はメールに記載されていないが、集合場所と集合時間も書いてある。一体、何がはじまるというのだろう?

新しいボランティアの形を模索する、らしい。

 2月上旬の日曜日、野呂ロッジキャンプ場。
オーナーである野呂さんとマネージャーの加藤さんに、木村Pがキャンプ場の支援企画の趣旨を説明している。なるほど、と頷く野呂さんと加藤さん、そして私。この時点で企画趣旨を理解している自分も自分だが、木村Pも木村Pだ。最初は、自家用車を持たない木村Pの運転手に任命されたってことか? などと呑気に考えていたが、話を聞いているうちに、数日前に木村Pが言い放った「じゃ、決まりですね」の決定事項の全容が見えてきた。

要点をまとめるとこうだ。

◇台風被害でキャンプ場はほぼ壊滅的状態に。
◇キャンプ場の復旧支援は後回しにされがち。
◇野呂ロッジは自力再建中。一部営業を再開。
◇だが一部再開の情報はまだ知られていない。
◇春からは本格的キャンプシーズン。多くの人
にキャンプ場を訪れて欲しいと願っている。


キャンプ場の情報を発信して、来場を促す。
そんなボランティア支援ができるのではないか?

と、木村Pは考えたのである。

なるほど、そういうことか。
そういうプロジェクトなのか。

木村Pはなおも話を続けた。「この人(私のこと)はアウトドアの知識もあるし企画もできます。いろいろとアイデアを出しますので!」と言いながら、私の方をビシッと指さしている。

なるほど、そうきたか。
どうやら私は運転手ではなく、プロジェクトの企画を考える中核メンバーに選ばれたようなのだ。

 木村Pの強引なメンバーアサインに戸惑いを隠せない私であったが、オーナーの野呂さんと加藤さんと話をしているうちに、そのポジティブかつキャンプ場再建への強い思いに心が動かされ、自ら積極的に力になりたい!と思い始めていた。

現地に行って、当事者の生声を聞く。
それが、何万文字で綴られている資料を読み解くよりも、「やるべきこと」と「自分ができそうなこと」を最も早く発見する近道になる。「やろうじゃないの!」という情熱に火をつける導火線になるのだ。ある意味で、木村Pの強引な現場への連行は奏功したことになるわけだ。

 キャンプ場オーナーの野呂さんとは、自分の父親と話しているような感覚になるほど、親近感を感じはじめた私。

 情熱という名の炎で火だるま状態になった私は、初回の訪問からあわせて計3回、ほぼ毎週のペースで現地視察を行った。何回も現場に足を運ぶと、いろいろな発見ができる。
 最初は「土砂、すごいな」くらいにしか思わなかった私であるが、だんだんこのキャンプ場に隠された潜在能力のようなものを感じるようになってきた。

現地視察で見えてきた5つの潜在能力

1、 都心から1時間半で、圧倒的な秘境感。
 国道413号から急坂をクネクネと下った先に野呂ロッジキャンプ場はある。まさに渓谷に潜り込んでいく感じだ。入口を抜けると、火山プレートの巨大岩盤がドーン。清流には吊り橋が架かっていて、その先の獣道を進むと徒歩15分で荘厳な大滝に到着。写真の撮り方によっては、「アルプスに登山にいきました!」と虚偽報告をしてもバレないレベルの秘境感なのだ。

2、 丸石がゴロゴロ、流木も取り放題!
 そもそも水流の勢いが強いのだろう。土砂となって流れてきた石は、大福のように丸っこくてツルツルなものばかり。台風被害により四方八方に堆積している。何だか異世界の惑星に迷い込んだ感覚だ。また、吊り橋の欄干あたりには流木がドッサリと溜まっている。何かに使えそうだ。

3、 ワイルドな焚火が楽しめる!
 キャンプ場の被害状況を説明してもらっているときに、野呂オーナーがポロリと一言。「うちのキャンプ場、直火OKなんですよ」。
それ、重要だし! 私はついつい叫んでしまった。
 多くのキャンプ場では焚火台の使用が義務化されている。野呂ロッジキャンプ場は渓流のすぐ脇にあり、河原だからなのだろう。直火OKなのだ。原始の時代から受け継がれてきた焚火スタイルを楽しめる! もうこれは立派なアドバンテージだろう。

4、 澄んだ清流。夏には天然のプールに。
 野呂ロッジキャンプ場の自慢は何と言っても眼前を流れる清流だ。
夏になると大人も子どもも清流に飛び込んで水遊びをするらしい。今の季節が冬であることも忘れ、澄んだ清流にダイブをしてしまいそうだ。少し青みを帯びたコバルトブルーの淀みには、不思議な魔力があるのだ。季節は冬。それでも、この清流にダイブできないだろうか?

5、 常連さんの一言。「今日、キムチあります?」
ロッジ内で談笑をしていたときに、お泊りの常連さんがキムチを買い求めに来たのである。何でも、野呂ロッジでは自家製のキムチを漬け込んでいるのだそうだ。それ、重要だし! 私の二度目のシャウトだ。数多のキャンプ場あれど、キムチを漬けているキャンプ場はそうそうないだろう。試食をさせてもらったら、旨いなんてもんじゃない。メガ旨いわけです。これは使える!

企画の材料は揃った!

 整った設備や高価なキャンピング道具を必要としない私のような“野良キャンパー”にとって、もう充分すぎるほどに企画材料は揃った。台風被害にあった野呂ロッジキャンプ場だからこそ体験できる新感覚キャンピング。今ある材料をポジティブに捉えていけば、きっとプライスレスな体験をつくるこができそうだ。早速、私はスケッチブックを広げてアイデアを書き出していった。

東京・麻布十番のとある会議室。
プロジェクトメンバーに、アイドルグループ(アップアップガールズ(2))のマネージャーである山田さんとイベントプロデューサーの浦澤さんを加え、お互いのアイデアをぶつけ合う。

コンセプトは「新汗覚キャンピング」!

そう、テーマは『大発汗』である。
汗と言っても、「結果的にかいてしまう」という副産物としての汗ではなく、「かくことを積極的に楽しむ」という主目的として汗を位置づけたことがポイントだ。

 目の前に広がる道志川の清流、大滝から豪快に流れ落ちる冷水。朝には霜が降りるほどの真冬に“清らかな水”の魅力を体感するためには、人間の方が体温を急上昇&大発汗させるしかない! **そう考えたのである。
 汗まみれの火照った顔を冷た~い清水で洗い流してごらんなさい。
道志川万歳! 野呂ロッジ万歳!**と叫びだしたくなるに決まっている。

 そんな根拠なき自信はさらに発想を刺激し、最終的には7つの“汗だくアトラクション”なる企画が生み出された。その全体設計図がこれだ。

<汗だくアトラクション>
①大きな丸石を使って石焼きBBQ
②ふんだんにある石で建造する巨大カマド
③体内から発汗を促す特製マグマ鍋
④河原サウナで積極的清流ダイブ
⑤聖なる水を汲みに大滝アドベンチャー
⑥流木や石を拾ってつくるワイルドアート
⑦手作りステージで炎のアンプラグドLIVE

 土砂とともに堆積した石や流木を「楽しく活用する」ということ。重い石を運搬する、直火の調理場をつくる、飯を食べる…。そのすべてにおいて毛穴から汗が噴出する! という「汗ファースト」であることを発想のベースに置いてみた。

 汗をかけばかくほどに、道志川を流れる清流の魅力が体感できる! それが最大の狙いだ。

かなりザックリとではあるが、企画は決まった。後は、参加ボランティアのみんなとアドリブで対応して、最高の体験に仕上げるだけだ!

「一生懸命に楽しむ」というボランティアなんです!

2月22日。新汗覚キャンピング、開幕。
天気予報が告げた“春の嵐”の通り、強い南風が生ぬるい空気を運んでくる。少し晴れ間ものぞき、夕方まで雨は降らなさそうだ。

 アイドルと、そのファンと、NPO代表と、会社役員と、自治体職員と…。
 普通では交わることのない人々が集い、あーだこーだと言いながら作業を進める。一緒に汗をかいて笑いあう。参加者の一人から「楽しんでいるだけですけど、これ、ボランティアですよね?」と不安げに訊かれたが、そうです! これは“一生懸命に楽しむ”というボランティアなんです。
 全員が汗をダクダクと流しながら、さらに汗を流すためのアトラクションを作り出していく。当日の様子を写真で振り返ってみよう。

◆直火OKをフル活用! みんなで巨大カマドを建造。

◆石焼きBBQ肉の旨みが倍増している感じがする。

◆自家製キムチを投入した特製「マグマ鍋」。
カラダの中から大発汗だ!

◆河原サウナで大発汗。からの、清流ダイブ!

◆サウナ用の水を大滝に汲みに行って! 無茶ぶりに全身で応える参加者。

◆自作サウナは大失敗。清流ダイブ後の保温室として活用。

◆流木と石でワイルドアートに挑戦。材料? そこら辺に転がってます!

◆突如降りだした雨。アプガ(2)のアンプラグドライブは室内で行われた。

 こうして、額を流れ落ちる汗のように、アッという間に日没を迎えたのである。参加者全員が笑顔で互いの作業をたたえ合う。もう、それだけ最高に素敵な一日だったと言えるのではないだろうか。

**【最後に】

ここには「なにもない」がいっぱいある!

 台風19号は、バンガローをはじめキャンプ場の多くの設備を流し、整備されたテントサイトを土砂で埋め尽くしてしまった。キャンプ場内を見渡せば、そこには川が静かに流れ、大量の石が積み重なり、流木が溜まっている。オートキャンプ用の電源コンセントやテントサイト用のウッドデッキもない。近代的に整備されたキャンプ場に馴れた人からすれば、野呂ロッジキャンプ場には「なにもない」のかもしれない。
 でも、その「なにもない」ことから楽しさを発見して引き出していくことに、遊びのヨロコビがある。真っ白なキャンバスに絵を描いていくように自由で創造的な楽しみがある。
 そういった意味で、野呂ロッジをはじめとする道志川沿いのキャンプ場はいま、真っ白なキャンバスなのだ。都心から約1時間半。すぐ近くにある秘境には、「なにもない」がいっぱいある。想像力と遊び心があれば、楽しさは無限に広がり最高の思い出をつくることができる。これって、相当な穴場だし、台風被害をポジティブに捉え直せば、災い転じて「最高の遊び場」が出現したことになる。このタイミングだからこそ、このキャンプ場を訪れる意味があると思うのだ。

 この春、みなさんも野呂ロッジで全力で遊んでみてはどうだろうか?
『助ける』だけじゃない。
『楽しむ』ことも、立派な災害ボランティア。
アイデアを膨らませて、大自然と戯れてみよう!


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