自殺系アイドル「SuicideS」を知ってくれ


皆さんは「SuicideS」をご存知ですか?

2017年結成、メンバーはだいたい8人の、整ったほうではあるもののそれほど映える顔立ちではない集団がお送りする寂れた人気の地下アイドルです。

何故私がそんな日の目を浴びていない彼女たちを推し布教するに至ったかというと、それは強いコンセプトとメッセージ性にあります。




目を惹く何かを持たないと生きていけない地下アイドル業界において、彼女たちはどういったコンセプトを掲げているのか。

それは「自殺系アイドル」です。

メンバーはそれぞれスカウトされた自殺志願者のみによって構成されており、「アイドルになることで生きがいを見つける」という目的の元に集いました。

また独特な特徴として、写真や動画撮影が禁止であることが挙げられます。この記事に画像が添付されていないのはそういう理由です。可愛い子がいっぱいいるのでホントはもっと見てほしいんですけど、宣材写真すら存在しないし、インディーズCDのジャケット写真も風景のみなんです。なぜそんなことをしているのかというと、彼女らが「記録より記憶」というのを売りにしているから。物に残るものよりもその目で見たものを。物を見てやっと呼び起こされるぐらいの記憶ならその程度だった。私たちは記憶にこびりついて離れない命懸けのパフォーマンスをしてみせる。一度捨てかけた命。もう私たちには何もないから、せめて目の前のことだけを一生懸命に。これはセンターになった子が代々語り継いでいる言葉です。

上で書いたように記録には残りたくないグループなため、かなり現場主義を徹底しています。


公式グッズはありません。インディーズCDシングルのみです。しかもそれもリリースイベントを逃せば購入できません。

なんと自分たちの劇場というのも存在せず、リリースイベント以外はツーマンなど複数のアイドルがいる状況でしか公演をしません。しかも告知をする公式アカウントも持っていないため、共演するアイドルの告知、もしくは公演終了後の出演者集合写真の奥に写り込んでいた(こういう集合写真の場合でもなるべく写るのを控えています)ことでやっとSuicideSの出演を知ることだってありました。

まあ自殺志願者たちの集まりということで、常連のオタクはメンバーの病み垢を特定しそこから公演情報を把握する、という手段を取っていますが、それも新規さんには至難の業だと思います。メンバーも黙認してくれているのでわりとわかりやすく情報開示をしていますが、それでも一応病み垢ですからね。

でも告知やSNSでのファンへの対応に時間を割かない分、オタクが苦難を乗り越えて見た彼女たちのパフォーマンスは、歌もダンスも完成度が高くて本当に良いものであると思います。


先ほどコンセプトが「自殺系」だと述べましたが、どうして「自殺志願系」でもなくその他諸々の表現でもなく、「自殺」なのか。それは何度か例外として扱っていたリリースイベントにあります。

リリースイベントは正真正銘ワンマンライブなので、告知を見て出向くという行為が実質不可能です。だからこの公演は非常にゲリラ的です。一応センターの子に縁のある土地で開催されるとはいえ、時期が特定できなければどうしようもありません。

そしてそのリリースイベントが、センターの子の最終公演であり、最期の公演になります。

SuicideSには卒業はありません。引退も独立もありません。それは契約の段階で決まっていたことです。

リリースイベントのパフォーマンスには、「センターの少女の自殺」が組み込まれています。そしてその様子は映像に収められ、リリースイベントで手売りしている彼女の「ラストシングル」に封入されたQRコードを読み込むと、翌日には無修正のそれが見られるようになっています。まさに、記録より記憶。一度その光景を目に焼き付けた人間だけが再びそれを目の当たりにする機会を得るというわけです。

メンバーのことを「だいたい8人」と表現したのもそのためで、不可逆的なメンバーの喪失をした直後約2ヶ月────49日の間は新メンバーが加入しないようになっています。その間に残されたメンバーは新たなセンターを選び新体制でパフォーマンスをする準備をし、亡くなった彼女を弔うように、どんな曲であろうと黒い衣装のみを纏って歌い踊るのです。

生命のかかった眩い輝き、仲間を失っても懸命に微笑む姿、人の生死をもコンテンツに組み込んだ画期的でセンセーショナルすぎる、まさしく命懸けのアイドルは後にも先にも彼女たちだけでしょう。


SuicideSの魅力はまだまだ沢山ありますが、百聞は一見に如かずともいいますし、一度見ていただけば彼女たちの良さがわかると思います。現メンバーならばMANAちゃんの歌は一聴の価値有りです。
ちなみに私の推しメンは現センターのSAKURAちゃんです。次の火曜(3月31日)にニイジュク駅構内でリリースイベントを行うので、お暇であればぜひいらしてください。リリースイベントは無料なので、気軽に足を運べますよ。

それでは。ここまで読んでいただきありがとうございました。
皆さんがSAKURAちゃんの、SuicideSメンバーの最期を見に来てくれることを願っています。










3/30 追記

まず、皆さんに謝らなければいけないことがあります。
SuicideSのファンとして上の文を書いていましたが、私は現センターのSAKURAです。
お金は出ていませんし誰かから頼まれた訳でもありません。
でもこの文章を信じてくださった皆さんを裏切るようなことをしてしまい、大変申し訳ございませんでした。

どうして今これをご報告しなければならないかというと、恥ずかしながらマネージャーに叱られてしまったからです。特に最後、明日のライブの詳細をこんな早い段階で漏らすことが本当にダメだったみたいで。だから明日のライブはニイジュク駅では行わないでしょうし、開催から24時間を切ったであろう今も場所も時間も知らされていません。楽しみにしてくれた方がいらしたら、本当に申し訳ありません。

今から書くことをまた読まれたら、多分また怒られるだろうなと思いながら書きます。そのせいでどんな仕打ちを受けてももうどうでもいいんです。明日私は死ななきゃならないんだから。

明日のライブの告知に失敗したことが、悔しくてたまらない。
お願いだから私の死をできるだけ大勢に見てほしい。
どうか色んな人の記憶の中に私を残してほしい。
記録されないならせめてできるだけ記憶に残されたい。
こんなの自殺なんかじゃない。
忘れられたくない。
見ていてほしい。
死にたくない。

なんでアイドルなんかなっちゃったんだろう。

ごめんなさい。 










 一昨日自殺した姉は、携帯を肌身離さず持っていた。現代的な若者と言えば聞こえはいいが、まあスマホ依存症と形容するのが的確だろう。警察や葬儀屋のあれやこれやで人を喪った喧騒がまだ冷めやらぬ頃、一人先に帰宅させられた私は亡き姉の部屋に訪れていた。

 既に遺品整理をしたかのような、不気味なほどこざっぱりとした部屋。掛け布団が乱雑に捲られているままのベッドに腰掛けて目を瞑れば、少し敏感になった嗅覚が姉の匂いを嗅ぎ取って、様々な彼女との記憶の輪郭線が鮮明に形づくられていく。姉に言い残したことはまだ沢山あった。私は私なりに姉のことが好きだった。鼻の奥がつんとしてきたのを感じて、抑えるように荒く目をしぱたたかせる。

────あれ。

 ふと上げた視線が彼女の勉強机を捉え、奇妙だなと思った。彼女が小学校入学のタイミングで親が成長に喜び勇んで買い与えたものを高校まで使い続けていたそれは、ある一点を除いては生前と何も変わらない。しかしあれだけ我が子のように目を離さなかったスマートフォンが、机の上に置かれている。自殺を決心して外へ赴いたのだと思えば有り得る話ではあった。奇妙なのはそこではない。

「20010720」

 器用に画面を避けてスマホケースの側面に貼られた、彼女の生年月日が書かれただけの付箋。

 それが正解なのかも分からぬまま恐る恐るスマホを起動させ、パスワードを求められるままに八桁打ち込む。あまりにも呆気なく解除された彼女の個人情報の塊は、開かれたままのブラウザは、昨今話題のとあるテキストサイトの一ページ、ログインされたまさにこのアカウントの持ち主が筆者である記事を示していた。

 ああ、これだ。

 多分これが、姉の────山崎咲良の死に関する不可解な点を突き止める鍵になる。

 どうしてアイドルをやっていたのか。本当にアイドルをしていたのか。このアイドルは存在するのか。この文章はどこまで真実でどこまで嘘なのか。最近はあれほどまでの希死念慮がなかったことのように振る舞っていたのはアイドルを始めたからなのか。どうしてこれほどまでの強迫観念に襲われているのか。どうして彼女は死にたかったのか。どうして彼女は死にたくなかったのか。どうして彼女は死んだのか。

 どうして姉は、私を自分の遺体の第一発見者にさせたのか。

 どうして姉は、あんな廃墟で死んでいたのか。

 何もかもが曖昧で未確定で、ぼやけていたそれらがこの文章をきっかけに勢いよく噴き出してきて、ただ混乱の渦の真っ只中に立ちすくむしかない。姉のシンプルな部屋がひどく大きく膨れ上がって見える。窓も開いていないのに、締め切られていたベージュのカーテンが一際強く揺れたような気がした。

 興奮と混乱に鼓動が激しくなっていく中で、ただ一つ────────

 私は姉のことを知る必要があると、それだけを確信していた。

 



本作は数年前に公開された作品に一部修正を加えたものの再掲となります。

また、2021年9月にmonogatary.comさんにて公開した小説「アイドル『スーサイド・クイーン』を知っているか」、
および同作を原作としてReader Storeさん・コミックROLLYさん・LINEマンガさんにて2023年8月に連載開始された縦読みフルカラー漫画のプロトタイプ版となります。


小説版1話
(今見返すと直したい箇所が多いのでいずれ加筆修正するかもです……)



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(毎週土曜更新、各アプリでは10/16時点で14話まで無料です)

LINEマンガさんはブラウザでも3話まで無料のようです。


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