道未だ成らず『Shenmue the Animation』第7話「嚮後」

『Shenmue the Animation』第7話の感想を書く。

https://www.nicovideo.jp/watch/so40461289

ついに桃李少と対面した涼。今回は武徳が全部で4つあることを告げられ、新たな武徳を得るために奔走する。

これまでのあらすじ
香港に到着した涼は、到着早々地元の不良少年たちにバッグを盗まれてしまう。桃李少の居場所の手掛かりも掴めずにいると、公園で太極拳を行う老人・建民と出会い、小禽打という技を教わる。技を木に打ち込んで落ち葉で地面を覆うことができれば、桃李少についてのヒントを教えると建民に言われ、涼は小禽打の修行を始める。そんな中、涼は以前港で出会ったジョイに会い、彼女がバッグを盗んだ少年・ウォンの居場所を知ることを聞く。しかし彼らを傷つけるだけの力を持つ涼にその居場所を教えることはできないとジョイに拒否されてしまう。涼は建民との修業のなかで「武術は本来人を傷つけるためにするものではない」ことを悟ると、ウォンたちを傷つけないことをジョイに約束し、居場所を聞き出す。涼は無事彼らを傷つけずにバッグを取り戻すと、建民から出された課題も達成する。桃李少に会うためのヒントとは、これまでの修行のなかで武徳のひとつ「功」を会得すること。
武徳を修めた涼が文武廟を訪ねると、桃李少が姿を現す。桃李少の正体は以前寺院で会った女性・紅秀瑛だった。

武徳集めは続く

武徳の「功」を会得した涼は、桃李少こと紅秀瑛と会うことに成功するも、彼女から協力を拒まれる。涼は武術家として秀瑛に完敗し、文武廟を立ち去ろうとするが、秀瑛の下で働く道士・漢輝から4つの武徳を得れば秀瑛の気も変わるかも知れないと助言され、彼から光武館という道場の情報を聞く。
前話を観て、今後アニメでも話の途中に武徳が絡んでくるのだろうと思ってはいたが、まさか武徳のひとつを知るためだけに一話まるまる使われているとは思わず驚いた。武徳集めはゲーム的な要素の強いお使い的な部分であり、4種類それぞれにエピソードがあるため、まともに描こうとすれば長くなることは必至だ。前回得た武徳の「功」についても、幾つかのイベントと組み合わせた形で一話の中に取り入れられていた。今回だけが特別だったのか、それとも残りのふたつ分、武徳についてのエピソードが今後再現されるのか気になるところだ。また、漢輝が武徳集めを涼に促すのは原作同様の役どころだが、彼のなかに秀瑛を慮った意図があって涼にヒントを教えていることが明確に描かれた。なお文武廟では秀瑛を慕う道士・薫芳梅が初めて登場する。芳梅はゲーム版の真面目な性格から、やや悪戯めいた性格に変わっており、受ける印象が大きく異なっている。

戒を破った男

光武館に到着した涼は、道場の師範・玄周善に武徳について尋ねる。
しかし周善は、かつて弟子を正しく導けなかった自分には武徳を語る資格はないと涼からの申し出を断る。やがて涼はかつての周善の弟子で、道場から破門された浮浪者同然の男・宗泉と出会う。彼から半ば強引に大道芸のような真似をさせられ、涼は投げ銭稼ぎに利用されてしまう。一見いい加減で調子が良く見える宗泉だったが、涼が武徳について尋ねると周善と同様、武徳については語ることないと返し、その日の稼ぎを涼に分け与えその場を立ち去ってしまう。
かつての師弟という周善と宗泉の関係性はゲームに忠実だが、アニメでは宗泉が破門された後に武徳についてどう捉えて生きてきたのかが、現在の彼の姿から浮かび上がるようになっている。今回涼が会得する武徳「戒」(驕り高ぶることなく己を律し、無闇に拳法を使わず、みだりに技を見せず)は、その戒めを破ってしまった宗泉を通して伝えられるものだが、ゲームとアニメで伝わり方は異なる。ゲームでは涼をきっかけに、師が悔いていることを知った宗泉が自らが破った戒めと改めて向き合うことで、気付きを得てこれからスタートしていく瞬間が描かれる。一方アニメでは、宗泉は自身の破った戒めについて、涼と出会う前から既に向き合い続けており、現在も師の教えを守ろうとしている。武徳を得る涼の視点に立てば、ゲームでは周善と宗泉ふたりの間に起こるドラマを見ているといった趣だったが、アニメでは現在の宗泉の生き様自体が「戒」を体現することで涼が武徳を見出している。
今回アニメ化されたのは原作の武徳の中でもおそらく最も簡単なイベントで、周善と宗泉の間を一度行き来すれば終えることができたものだ。これまではゲームを省略した形のシーンを見ることが多かったが、この回ではゲームを大幅に肉付けして物語が展開されている。ゲーム後半に登場する香港の闇組織「黄天会」がこの段階で登場し、涼と宗泉に因縁を付けてきた組織の男が「おめぇとはまた会えそうだ」と明らかに伏線めいたことを言っていたり、噂を聞いたレンが涼を探し回っていたりと、原作に無かった要素が数多く絡んでいる。


今回は原作にあるひとつのイベントを初めから最後まで一貫して描いているという意味で、『Shenmue the Animation』のなかでも珍しい回だった。自分としては、宗泉が自らの過ちを冷静に捉えているという描き方はゲーム以上に好きな部分だ。
一点気になった点として、宗泉は武術を見世物にしていないと涼が発言した部分がある。たしかに宗泉本人は武術を見世物にしておらず一応筋は通っているが、涼に武術を使った投げ銭稼ぎをさせているので、他人にさせる分には良いのだろうか?と思ってしまった。
新たにひとつ武徳を得たとはいえ、秀瑛はまだ涼の助けをするつもりはないらしい。そうは言いつつも彼女は自分の部屋に涼を宿泊させてくれる。全ての武徳を集めてから部屋に案内し、そこから涼の修行が始まるというのがゲームでの流れだったが、はたしてアニメではどのようになるのだろうか。
武徳集めともども期待して観ていきたい。

『Shenmue the Animation』公式サイト

『シェンムーⅠ&Ⅱ』公式サイト

『シェンムーⅢ』公式サイト


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