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船上保守と陸上保守の違いは現場レベルではどう作用してくるのか?

みなさまこんにちは、徒然です。
このnoteでは通信士関係の資格や仕事内容などを書いています。最近はわたしの仕事のお気持ち表明みたいなきもい内容ばかりでしたが、今回は久々になかなか気合の入る内容です。船上保守と陸上保守、というのは通信士の配乗が必要な船舶では必ず必要であるものの、ほどんどその実態は理解されていない分野です。そして実際に現場で働く通信士がこの保守内容によって、具体的にどういった違いが発生するのか。このあたりの説明していきます。

まず通信長職の配乗が必要な船舶から。これは言葉で説明すると『航行海域がA3海域以遠の国際航海有りの船舶』です。A3海域というのは、簡単にいうと海外です。(中にはA2海域の海外もありますが、ごくごく日本領土から近い地域です、韓国台湾樺太の一部が該当します)
また国際航海有りの船舶も通信長職の配乗があります、「国際航海」とは簡単にいうと他国岸壁施設に着岸することです。
(ただし海域、船種、着岸の目的など例外はいつくもあります。これについては制度で考えるのではなく、例えば自分の船がどういった区分に該当しているのか考えた方が早いです、あとよくわかってない人から変な情報をもらうのはよしましょう)

(今回は船上保守/陸上保守の話なので、それが対象である船舶に絞っていきます)、対象の船舶のついては基本的には船上保守か陸上保守かは選ばなくてはいけません。(GMDSSの詳しい保守要件の数などの説明は長くなるので省略します)

基本的には専任の通信長職はおらず、外航船の航海士は3海通を取得しその資格から3級海技士(電子通信)を取り通信長を兼任している場合がほとんどです。(わかる方はここでもう「陸上保守」であることは理解出ると思いますが、)3級海技士(電子通信)では陸上保守しか選択できません、これはそういう決まりです。船上保守にしたければ海技士資格は2級海技士(電子通信)以上が必要です。基本的には2級海技士(電子通信)以上の取得者はかなり数が少なくなってしまうので数少ない対象船舶でも3級でOKになる陸上保守にしていることが多いです。

わたし程度が把握している数少ない「船上保守」の船舶は3隻知っていますが(もちろんここではその船名は言えません)、後継者という意味ではどうなんでしょうね??(え?あの船で後継者がいないの?ちょっと興味あるんだけど〜)と思ったこともありますがそれくらい有名な船でもそういった現実です。なので、専任の通信士がいない、いらない、そういう制度になっている。なかなか面白く難しい制度と現実です。

わたしは幸運なことに、この数少ない船上保守の対象船の経験者です。そして陸上保守の経験者でもあり専任の通信士、今は局長です。
ではここからは船上保守/陸上保守が専任の通信長職に与える仕事の違い、をわたしの経験を基に説明していきます。

まず、陸上保守。陸上保守というのは具体的に何のことかというと、無線機器のメンテナンス業者とのメンテナンス契約になります。これは「保守事業者」との契約締結によって、船内のGMDSS機器(例えばVHF無線機やインマルサットなど)に必要な点検や確認事項をその契約メーカーにお任せしていますよ、という内容です。そして、簡単にいうとこの保守事業者は古野電気や日本無線などの大手航海計器メーカーが担当しています。会社ごとに、あるいは船によってGMDSS関係の航海計器はフルノかJRC(日本無線のことね)のどちらで揃えているでしょう、そのままその会社が陸上保守の保守事業者になることがほとんどです。うちの船の航海計器類はJRCだけど保守事業者はフルノです、という会社もあるんでしょうか?よく知りませんがあるかもしれませんね、わたしなら嫌ですけど。基本的には船内の航海計器メーカーに保守事業者になってもらった方がいろいろとスムーズです、そういうもんです。ちなみに契約は当然ただではありません。年間の契約料をメーカー側に払うことになります。(いくらかはだいたいは把握していますが大人の事情にて省略。)

次に船上保守。船上保守は船内で保守機器やメンテナンス機器、相応の資格(1,2級電子通信、1級通信)が必要ですが、別途メーカーとの契約料が発生することはありません。船上保守、と聞くと船内でメンテナンス行為を行っていると思う人もいるかもしれませんが(あまり)そういうことでもありません。

船上保守と陸上保守。この実態はメンテナンス行為の有無ではなく、単純に制度上の選択によるものの側面がかなり強いです。どういうことかというと、船上保守とはいっても陸上保守みたいなやり方をしている船もあるし、陸上保守でも船上でなんとかする以外ないというやり方になっている船もある。ということです。(おそらく全然意味わからないでしょうけど、このまま進めます)

船上保守、というのは単なる言葉であり、ただの制度です。これは陸上保守でも全く同じです。船上保守だから船内メンテナンス、陸上保守だから陸上の保守業者のメンテナンス、現場ではそれほど単純な話ではないのです。現場においてはどうようになっているのでしょうか??? ではクイズです。
Q:あなたは船長です、エンジンルームで配管に穴が空いたと報告がありました。さてどうしますか???
すぐにエンジンを止めて、修理!と思った方、残念ながら0点です。
どんな船で、どこを航行していて、何の配管に穴が空いて、それによって何が、どうなるのか??????船を止めるかどうかはそういった状況が全て出揃ってから判断すべき事項です。そういった状況の確認がこれだけでは何もわかりません。航路で真後ろに船いてもエンジン切りますか?場合によってはそれも正解になるかもしれませんね、ですがそれはそういう状況下にあった時のみです。

船上保守でも陸上保守でもわたしにすれば同じことです。理由は保守が必要な状況において、状況の判断をした結果、必要なら可能なら自分で保守を選択し、自分で保守を行うことができない、または自分で保守をやるべきではない分野においては陸上のメンテナンス業者に依頼するからです。
洋上において機器の故障が発生した際、目的地まで行くべきか、あるいは緊急入港するべきか。どういったことをどこまで応急処置できるのかによっても判断は全く違います。わたしは自分の乗った船において、配管だけでも、海水、潤滑油、排気管が航行中に破れた経験があります。その際、場所や程度によって航行を続けることができるのかできないのかは違いました。港に引き返したこともありましたし、そのまま航海を続けたこともありました。

無線関係では、例えばレーダーが映らなくなったらどうするか???
この場合の0点は『いきなりメーカー担当者に連絡する』でしょう。
表示部の問題なのか、回転部は正常に動いているか、電気は来ているか、レーダー波は出ているか、映らないというのは画面のどこが映っていないのか…、わたしの乗っている船はレーダーは2台あるので1台故障してもとりあえずは航行は続けることができるでしょう。昼と夜とでは判断に、また修理にかけれる時間が変わります。夜間、大雨強風の沿海航行中におそらくレーダー回転部に問題があるのではないかということになったとしても『この船は船上保守だから、いまからレーダーマストに登って点検』、わたしならやりません、危ないからです。1台あるならとりあえずはOKとします。
これは想像の話ですが、ですが局長になれば大小はあるもののこういったことの連続です。毎日故障のシミュレーションであり、バックアップの想定です。
一番は予定の作業、予定の航海が無事完了することですがトラブルはつきものです、その際どの状況で、どこまでがOKであるかの判断をすることが求められます。

長の最たる仕事は、判断です。そしてそれに関する責任です。わたしは局長なので、担当の関係機器については判断し意見は出します、そして航行の最終判断は船長が行います。

もう一度言いますが、陸上保守と船上保守は選択上の制度に過ぎません。実際の現場での保守、メンテナンス、トラブル対応はその時の状況において、船上保守だから陸上保守だから、という理由で何かが決定されることはほぼありません。陸上保守でも船上で保守しないといけない時、船上保守でもメーカーにお願いして修理しもらう時、時期や組織、会社によってやり方はそれぞれです。大切なのは制度ではなく、現場状況と判断理由、そして責任です。専任の局長であることは尚更そこが重要なのです。

TKS BIBI OUT


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