小説2編同時上映「テンプレ、それは魔術」「魔術、それこそがテンプレ」

この小説は、Twitter小説アカウント「レッズ・エララ神話体系」で連載されたものを加筆訂正したものです。

レッズ・エララ神話体系 現代~近未来編「ほうき星町」シリーズ 「テンプレ、それは魔術」

中世編「時雨とエヴィル」シリーズ 「魔術、それこそがテンプレ」

今回は2編同時上映です。 


「テンプレ、それは魔術」

登場人物

セリゼ…少女吸血鬼

レルエリィ…書店店主

「魔術、それこそがテンプレ」

登場人物

エヴィル…天才黒魔術師

時雨…少女剣士


「テンプレ、それは魔術」

【これまでのあらすじ】

世界最強のセリゼは小説を書くつもり


「ところで芹の字、なんで俺に聞く?」

レルエリィという元貴族の青年は私をこのように呼ぶのが不可解だ。

私は答える。

「いやだって、本屋のカシラやん」

「その貴族らしからぬヤクザ語彙力は小説を書くのに向いてると言えなくもないがなユーイルトット卿」

「まあそれはええねん、レル」

私も貴族だからね。

「カフェーで奢ってもらってる立場上無碍にはしないが…ええと、そう、【何から書いていいかわからない】っていう話だったな」

「それでやす」

フー、と貴族的な溜息をついて、ほうき星町の書店「懐中水時計」店主レルエリィは呟く。

「余りに初心者丸出しで、皮肉抜きにその素直が称賛に価する」

「いつもの私だったらメンチカツ肉に変えているところだが」

「お前さんのは冗談になってねえよ世界最強。しかし小説というフィールドにおいては素人もいいとこだ」

はー、とため息をつく私。

「だから教えてくれよん」

「別にいいんだが、芹の字にしてはプライドがないな」

「私は小説を読むの、素人だしね。創作全般そうだけど」

「それで小説を書こうっていうのが俺みたいな読書人からしたら驚愕もんなんだがな…だからさっきのは皮肉じゃないんだぞ」

「そんなもんかい?」

「余りにコジらせてる奴らが多くてな文芸業界」

「滅んじまえよ」

「まったくだ」

こっちは皮肉。


レルエリィは言った。

「【何を書いたらいいかわかんない】に対する答えの一つは【お前のテンプレを作れ】だ」

「テンプレ?」

「フォーマット、形式、お約束、と言い換えていい。とにかくお前さんの表現のテンプレを作るんだ」

「…それって、自由がなくなりゃしない?」

「逆だ。テンプレは自由を内包しつつ個性を尖らせる」

「テンプレ創作がなぜいいかというと、【型を自分で作って自分で取り合えずハメる】と言い換えようか。これは【何を書いたらいいかわからない】を【このテンプレの中で何をするか考える】まで難易度を落とす。余りにデカい下げ方で、これは効く」

「話が抽象的すぎるな…」

「例えばお前さんの日常に例を取ろう。食べる、厄介者を殴るor殺す、散歩する、の三択だろう?」

「殺すぞ」

「まあほぼ事実に近い仮定だが、このうち【何かを殴る】を主体にして、【何があってもワンパンチで事件解決】ってテンプレを作るとする。あ、完全にお前だわ」

「話を続けないと殴るぞ」

「とりあえずこれで【爽快なバトルもの】【起承転結の結】が決まったわけだ」

「……お?」

すげえ手際がいい論理だ。

「そんでな、敵役を決める。これで、少なくとも【数で相手してくる奴】や【知能で相手する奴】【薄汚い手段を使う奴】【真っ向勝負】といくらでも出てくる」

「おお!」

「じゃあワンパンで決着がつかないときは?」

「人気回になる。何せテンプレを逸脱するんだ。読者にとってみたら爽快だろう。しかしテンプレを無視していい話にはならない。インフレになるからな」

「テンプレから逸脱するだけですごくなるのか……」

「作りやすいだろ、話が」

「うん」

「芹の字、お前さんのいいとこは普段バカにされがちなこの簡単で奥深い方法を素直に受け止めるとこだ。魔術にも似て奥深い……テンプレはそこから無限の物語を導ける。スリーコード・ロックンロールの意味合いはそこだ。単純だから素晴らしいのもあるが、単純から複雑と深さを導き出すことこそだ」10


「魔術、それこそがテンプレ」

【これまでのあらすじ】

天才黒魔術師のエヴィルはルポライターになったのだが……?


まだ書けねえ。文章の夜明けが来ねえ。自分の書きたいものはいっぱいあるのに、文章に……魅力のある文章になかなかならねえ。苦しい。何かを作る苦しさってこんなだったか?

テンプレを作る必要がある。「型」を作るんだ。

だが、魅力あるテンプレが生まれない。なぜか。

それは、誰かのテンプレを借りようとしてるからだ。それが自分でわかっていながら苦しいのは、テンプレを自分で作る努力をおこたっているからだ。すべて理由はついている。それなのに……。

すでに何人何冊もの文体模倣はやってみた。だが、どれもしっくりこない……というのは予想していたことだ。

していたが、ここまでしっくりこないものだとは……。

服のようなものだ 、サイズのあっていない服。

キツい。どれもキツい。体が痛くなる。心までもが軋んでいく。

その一方で、他人のテンプレが光り輝いて見える。

作者たる彼らは俺様ほど頭はよくない。

だが輝くテンプレを作ってしまえた。それがうらやましい。それだから模倣からでも進めないといけないのだが、心は重い。

「珍しいね、ここまで悩むの」

時雨君である。

「よい文章を書こうとしてるだけなのにな、俺様」

「時雨君だったらどうする?」

「エヴィル君の言い回しを使うなら【自分自身を精査せよ!】かな」

「ああ……」

わかっている。テンプレ……力のあるテンプレを自分が勝ち取るには、自分の中を精査し掘らなくてはならない。

つまり俺様は自分自身を省察するのをサボってるだけなのだ。

「私の話をするとね、私の【我流・シュトフィール・改】って剣術は、お母さんの我流剣術の型の模倣なんだよね」

「それを徹底的に自分流に改造したのが、時雨君のだろう?」

「……参考になるかな?」

「あんまりあっさりしすぎてるぜ!

…………

……………………

……そうか…そうか……」

結局、模倣より独創は始まるということか。

「でも、肝心なのは、時雨君が悩んできたことだよな」

「悩み?」

「どういう基準で改造を施してきたのか、っていうこと」

「実戦あるのみだね」

「そうだよな……」

「エヴィル君の場合、黎明は近いと思うよ。今まで見てきたこと、考えてきたことの文章化なんだから、あとは書くだけ、型を見つけるだけ」

「そうかな」

「そうだよ。敵は自分だよ。そして源泉も自分だよ」

「そうか」

とりあえずその言葉を俺様は信じようと思う。この手の努力をサボってきた人間からしたら、この手の努力の最高峰の言葉は重い。

黎明は……近いか。

自分のこれまでの蓄積とは……。




――岩から水が染み出る瞬間を待って。

突破口は針の穴より小さくとも。

それでも、「書こう」と思ったとき、すでに貴方の手元には【己】という鉱脈があるのだから。

きっと鉱脈の底で、人生が凝縮された鉱物が静かに煌めいている。

――すべての物書きへ。

がんばろう。


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