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スイス震撼!の時計売上げ急ブレーキを嘆く人々が見落としている点

2024年4月22日に、スイス時計協会から2024年1Q(1−3月)の腕時計輸出額の統計データが発表されました。

出典:スイス時計協会FH https://www.fhs.jp/jpn/homepage.html

その内容が予想を大幅に超える急ブレーキだったため、業界関係者に激震が走りました。

昨年から緩やかな下降局面ではありましたが、2024年2月までは約‐4%程度の一桁代下落を維持していました。
そこから一転し、3月は急激に−16.1%も減少したからです。
その結果、2月までの統計-0.7%から2024年1Qは−6.3%までに一気に転落してしまったのです。

出典:スイス時計協会FH https://www.fhs.jp/jpn/homepage.html

今回の下落インパクトがどれくらいかというと、コロナ後に相場が一気に急落した2022年の1−3月期に匹敵する恐ろしい急ブレーキっぷりです。

この数字を見て、早速悲観論をブチ上げる時計メディアもありますが、まあそりゃこの数字見たら気持ちはわからんでもないです。
2022年の相場急落インパクトはすごかったので、日本でも中古時計屋はいくつか吹き飛ばされましたからね…

そして今年の下落を読み解くと先進国含む、主要輸出国全てが一斉にマイナス転落したからです。
じゃあ時計相場は終わったのか?私は少し違った見方をしていますので、Ref.2021的に冷静に読み解いていきます。


急落の原因はやっぱり…

今回急に輸出額が減った理由は明確で、絶賛大不況中の中国です。
それに加えて、その中国に完全に飲み込まれてしまった香港マーケットも仲良く没落してしまったからです。

出典:スイス時計協会FH https://www.fhs.jp/jpn/homepage.html

この2カ国だけが飛び抜けて、-40%以上と一気に急落していますよね?
それが大きく影響したのです。
今年に入ってからも大きく時計輸入額を減らしてましたが、ココに来てついに経済がにっちもさっちも行かない状況になったのでしょう。

そして、これまで時計マーケットの中心地だった香港ですが…。

実は中国化が強まった関係で、身の危険を察知した世界の時計バイヤーが香港から逃げてしまったそうです。なので今では主に投機目的の中国勢向けのマーケットに成り下がっていたため、仲良く下落です。

つまり、大きく下げた理由は、中国の先の見えない経済状況による影響が主だったものだったと見て間違いありません。
先進国でも僅かに下がっていますが、これも投機目的中国勢への輸出向けが不調が原因と私は見ています。
どういうことかというと、例えば日本国内販売店でも、インバウンド向け販売や中国富裕層向けに輸出する時計店が多くあります。
そういった中国輸出向け販売が落ちれば自ずと発注量は減るわけです。
その結果が先進各国のマイナスに現れたというのではないか?
それが私の見立てです。

(個人的に)投機中国勢の時計マーケットからの退場は朗報

正直、今の相場乱高下の主な原因は投機目的で買った中国勢に相場を引っかき掻き回された結果でもあります。そこに揉み手しながら擦り寄ったコングロマリット企業は正直消えてくれ!と思っています。
そういった中国勢がマーケットから退場するのは、健全化に向けて私は朗報と見ています。
私はこれまで、投機中国勢が何年も溜め込んだ時計をどの規模で市場に投げ売りしてくるかを最も注視していました。

ここまで爆買いしまくった時計を市場に一気に放出させたら…クオーツショックも真っ青の状況に陥ると思っていました。しかし蓋を開けてみると、中国が元の国外流出を抑える政策に走ったおかげで、どうも時計を国内でしか売却できない状況に陥っているようです。売るにしても旅行に出かけた際に数本売る程度に留まっているのでしょう。それでもこの下落っぷりです…14億パワーは恐るべしです!

そのため一番大きく下落の影響を受けているのが、一本の単価が高い雲上ブランドなんじゃないかな〜と感じています。国外に持ち出す際、数本で大きな金額を手にできるため、手っ取り早く売却候補に選ばれやすいのでしょう。

ちょっと話逸れますが…

特に中国に過度に肩入れしすぎたヴァシュロンは、その代償が大きかったようで、三大雲上の中で特に大きくブランド価値を下げた状態です。
リシュモンは流行にのった商売をやり過ぎで、その手法のせいでバシュロンのブランドに傷を付けたのはちょっと許せないし、ブランドを守るという視点では見ていられません…

ヴァシュロンは現存する時計ブランドで最古の歴史があり(※ブランパンは、なんちゃって😂最古ブランドと私は認識)、脈々とキャビノチェ精神を受け継ぐ、私が尊敬するブランドの一つです。なので個人的に下手くそ商業主義リシュモン抜けて、マーケティング巧者のロレックス傘下に入って欲しいと思うくらいです!

100年後を見据えたブランドを作るには流行に流されない確固たるアイデンティティと熱量が必要です。リシュモンも今回の失敗から、そこを肝に命じて欲しいところです。

人口ボーナス中のASEAN・インドの時計マーケットはまだ立ち上がっていない

私が長期視点でロレックスは下落しないと言い続けている理由の一つに、この新興マーケットの存在があります。
なぜなら歴史を見ると、ロレックスは新興マーケットが立ち上がった際には常にナンバーワンの地位を獲得してきたからです。

そして、今回のスイスの輸出統計の数字を見ても、先進国の購買力が萎える中、新興マーケットは力強い成長を見せています。

出典:スイス時計協会FH https://www.fhs.jp/jpn/homepage.html


まだシェアも数字も大した影響力がないですが、20年前の中国もそういった存在でした。
特にマレーシアとインドは2022年の同期比で+40%近い成長率です。

出典:スイス時計協会FH https://www.fhs.jp/jpn/homepage.html

他のASEAN諸国も2023年比は下げてますが、2022年から見ると大きく成長していますよね。

出典:スイス時計協会FH https://www.fhs.jp/jpn/homepage.html

高齢化・人口減少国家の中国14億人に対して、人口ボーナス中ASEAN・インドは20億人を超えます。このマーケットの時計市場は現在発展途上中ですが、平均20〜30%の成長を遂げているのです。

この他にも、中東の国々もシェアを次々に伸ばしています。石油依存を抜け、経済成長フェーズに入った中東のカタールなどもその一つです。

中国が減ったと言う目先の数字ばかり見ていると、こうした急激に伸びている新興市場を見落としてしまいます。

大盛況だったW&WG 2024

何より、私のこういった視点を裏付ける事実として、下落相場と矛盾した腕時計を求める・注目する若い世代の増加です。

ウォッチズ・アンド・ワンダーズ ジュネーブ事務局のリリースによると、あらゆる点で新記録を樹立したそうです。以下リリースより抜粋。

出典:https://www.watchesandwonders.com/en/geneva-2024/event

49,000人以上の来場者(2023年比 14%増)
・一般来場者が予約できるプログラムは、初日を待たずに満席
リテーラーのアポイントメントは 10,000件以上(対2023年比 25%増)
顧客の注文も大幅に増加
若い世代におけるこのイベントへの関心が高まり続けている
参加する学校が増えたことで、学生の入場も増加
・販売された一般チケット19,000 枚(2023 年は 12,000 枚)
・内訳は、昨年同様に 25%が 25 歳未満、平均年齢は35歳

出典:15.04.2024 - Watches and Wonders Geneva 2024 brings a sense of optimism and reaches new heights

相場や統計もファクトとして重要です。
しかし、こういった未来の時計好きが次々に生まれ、私たちのように憧れ、魅了されている現実は、まだ数字に現れてきません。

当然この主役交代が進むまで、数年は停滞するでしょうが、次に立ち上がったときは中国の人口を超える消費意欲を持った人々がロレックスや高級腕時計を買い求めるのは間違いありません。

そして、その時は、今以上にとんでもない事になると思います。

当然、一時的には中国のマイナスが大きく影響しますが、解毒の最中は苦しむものです。この膿を早めに出しきってしまうのが、結果正しいように思います。

今回は、中国復活待望論を語る時計投資家自称本当の?時計好き😏といった後ろ向きな人と違った、私がずっと言い続けている、時計業界の明るい長期的展望といった視点をお話ししてみました。

小さな「縦の繋がり」

以前、日曜劇場で下剋上球児というドラマが放送されていました。後半は毎話泣いていました(T_T)

出典:https://www.tbs.co.jp/gekokujo_kyuji_tbs/

このドラマの中に、ある1年生の学生が野球部を本腰入れて続けたいけど経済的な理由で踏み出せないというシーンがありました。彼は中学時代にやっていた軟式野球用グローブしか持っていなかったのも理由の一つでした。
そこで顧問の先生が背中を押す意味で、かつて自分が甲子園球児だった頃のグローブをプレゼントします。

そのグローブには、運命をかけて、のるかそるかの勝負をするという意味の「乾坤一擲(けんこんいってき)」の文字が。
学生は「こんな(大事な)グローブもらって良いんですか?僕、何もお返しできません。」と言います。

しかし顧問の先生は「お前が大人になった時に、若い誰かに返せばいいんだよ。」と言います。


こうした縦の繋がりって言うか、本物の大人って今の日本で絶滅しましたよね😂

私も思い返して見れば…
かつて、カッコいい大人が腕時計を身に着けている姿を見て、私は時計に憧れを持つようになりました。その時計にまつわるストーリーも教えてくれる大人もいました。

なのに今のオトナセコセコロレックスを神棚に隠し込んで…1万円でも高く売れるように一切身に着けず、夜な夜な自分だけヒッソリと楽しむのはやっぱり正しくないなと、今回の統計とW&WGのリリースから改めて思いました💦

私たちが昔、憧れたカッコいい大人に受けた恩を、今度は私たちが若者のために、時計を身に着けて憧れさせる番なのかもしれません。そうしないと投機勢に時計文化の破壊されてしまうかもなぁ…なんて思ったり。

もうすぐ夏ですが、私たちも恐れず時計を身に着けて、街に出掛けましょう!
これみよがしにTシャツとロレックスで😂

そして、時計と合わせてカッコいい生き様も見せてあげなくちゃ日本は元気にならないのかもしれませんね。そういった、知らず知らずの小さな「縦の繋がり」が100年後の時計文化を育むと信じて。


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