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針葉樹を深掘りしすぎたら深海に行き着いちゃった話。(その2:重たい空気、重い水)

どこへも行けない故の生存対策

そもそも植物のうち樹木は一度根を張ったところから
移動することはできません。
草であれば概ね毎年タネを飛ばし新天地を目指す事ができるし、
多肉植物ならば肉厚の一葉を切り離す事で移動が可能です。
それぞれが移動できる範囲は遠近さまざまですが。
樹木の場合も全く移動ができないとは言えないものの
その歩みはおそろしく遅く、距離はおそろしく短い。
だから結局ほぼ変わらない同じ場所で暮らすことになります。

広葉樹の場合、木の食料のほとんどを自分で栽培し、
自分の足元に敷き詰めます。
栽培する葉は分解がしやすく、薄くて幅広で甘くして
微生物が好むように仕上げる。
それだけでは栄養が偏るので秋風を利用して
広葉樹同士で葉の交換も行う。
結果、広葉樹の足元には適度に甘さと酸っぱさがブレンドされた
良い落ち葉の層が出来上がり、
これらを微生物が分解することで根元が適度に温まり
寒い時期を暖かく過ごす事ができる。
分解がある程度終わる春には美味しく質の良い食料も手に入る。
実に効率的かつ、無駄のない戦略です。
ちなみに、全ての葉が風で飛ばされないように筒状に枯れさせて
高確率で根元に落とし、残すのも素晴らしい戦術。

ところが針葉樹の場合はそうはいきません。
なぜならその生息域の環境故に
クリアすべき課題がいくつもあるからです。
生存戦略における生物の優先順位は衣食住のうちどれでしょう。

広範囲に移動できる場合、生きるための最優先は「食」。
服や住処は必要に応じて現地調達したり適した場所に移動することで
何とでもなりますよね。

しかし、全く移動ができないとなると生き延びるための
最優先事項は「生き延びる事」になります。
針葉樹の場合、生き延びるために最優先にしたのが
「防寒対策」なのだと思います。

広葉樹を擬人化して考えると、
冬の広葉樹は発熱するカーペットの上で膝掛けをかけ、
ぬくぬくでみかんやお菓子を食べているようなもので、
足元が暖かいので上着も羽織るくらいで大丈夫。

しかし針葉樹の場合、
そもそもカーペットは発熱しないに等しいため
暖をとるというより、寒さを防ぐために
なるべく分厚いカーペットにする事しかできません。
寒いのは足元だけではないので、
まず指先は脂でコーティングして冷えを防ぎ、
体は上着をとにかく重ね着するしかない。

地上の防寒対策のうち、上着にあたるのが樹皮で
針葉樹の樹皮は広葉樹に比べ分厚かったり、
撥水性能が高かったりするのはそのためだと思います。

実際、樹木の樹皮は南へ行くほど薄くなり、
北へゆくほど分厚くなります。
そう考えると、針葉樹の種類によって、
樹皮の形状や特性は、毛皮っぽかったり、フリースやムートンっぽかったり
コルクのように分厚くて弾力性にこだわったり
杉や桧のように薄皮の重ね着にしてみたりとなかなかに興味深い。

また、葉に含まれる油分は
昔の海人や潜水士が寒さを防ぐ目的で身体に脂を塗って海に
入ったり、深海魚が表面に油分を含んだ膜を持つのと同じ理由で
獲得したものだと考えます。
葉の油分については形状の謎とも関わるので、
一旦置いておきますね。

葉の形状を左右するのは重力と水圧だった

針葉樹と広葉樹の葉の形状について
この謎を解くヒントも深海にありました。

深海生息するサンゴは、基本的に平面的な扇形のものがほとんどで
海綿類は立体構造の特性もある近い平面型、もしくは筒形の形状に
成長する傾向があります。
また深海になるほど、大型というか、丈のあるものは
細長い1本の筒の上に構造を展開するフラッグ形状のものが多くなります。

この形、針葉樹が持つ樹形にものすごくよく似ています。
サンゴの形と桧類の葉の形なんてもうそっくり!

でも、何で珊瑚の樹形も桧の葉の形状も平面的なんだろう。

そもそも、深海は全方向から水圧がかかると
私たちは学校で教わりますけど、だとすれば
ものすごい水圧がかかる深海の生物は真上から押される横広がりの形状か、
摩擦が最小限になるように球形になるんじゃないかと思うけど、
成長した深海のサンゴは桧と同じ扇形。
つまり、この形状から推測できるこっとしては、
水圧は本当は全方向から満遍なくかかるものではなくて、
結構な割合でムラがあるものなんじゃないかと思うんです。

おそらく問題は水圧だけではなくて、海流とか塩分濃度とか
火山からの噴出熱や物質なんかが関係して
結果として常に水圧の軽い裂け目みたいなものができたり消えたりしていて
その裂け目ができやすい部分に沿って無駄なく成長すると、
その形が扇形になっている。

と、仮定すると、
桧の葉の形状について一つの考えが浮かびます。
もし、桧の葉の形状が扇形になるために
水圧や水圧の裂け目に似た何かの作用があったとしたら
それは一体なんだろう。

重たいもの、重たい空気、重たい….。
眼に見えるもので重たいもの、それはやっぱり雲かな。
雲の中は息ができるってだけのほとんど水の中みたいなものだけど
でも、その雲は下から上がって上から降りてくるものよね。
何で降りてくるのかといえば、気圧に押されるから?

じゃ、なんで空気に圧力の高い低いができるのかって、
大気の層がガラスの壁のようになって
外へ出ようとする空気の流れを堰き止めてしまうから
力が逃げ場を失ってまるで跳ね返されるように地表方面に
戻ってしまうから。

もう一つ、山は標高が高くなるほど重力の抵抗もかかってくる。
つまり、本当は雲のない晴れている日でさえ、
高山にはある程度重めの重力が
常にかかり続けていると考えて良いのではないか。

だとすれば、
植物にとっては深海と同じく、
そして深海とは別の圧力との戦いがある。

針葉樹は重力、気圧、雲に含まれる水分の重さを
寒天やゼラチンのベールのように感じていて、
その重い空気を貫くのに効率的で効果的な形状として
針のような葉や、面の構造である扇型を取り入れてきたのかもしれない。

だとすれば、誰もがイメージする針葉樹の樹形が円錐形であることも
わかる気がしてくるのです。

もっとも、日本のほとんどの山では針葉樹も広葉樹も混在していますし
種の移動や植林などで元の感じはわからなくなってしまっているし
植林された樹木はその場に馴染む柔軟さもあるようなので、
実感するには手付かずの森にでも行かないとわからないのかもしれません。

けれど、針葉樹を紐解くにはまだ足りない要素があります。
広葉樹はほとんど必要としないけど、
針葉樹には欠かせない自然化学物質の存在です。



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