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腐葉土の謎に迫る④

落ち葉といりこ(煮干し)、枯れ木や枯れ葉の鰹節

前回、だしと腐葉土を並べて解説しました。
最後に落ち葉や枝などは
いりこや鰹節とイメージをリンクさせて書きましたが、
いりこはまぁ、良しとして、
鰹節は加工品だから落ち葉や枝と
並列にすべきではないと思われたのではないでしょうか。

その通り。
腐葉土を語る時に、絶対的に語りたく、語らねばならないこと。
それが鰹節にはあるのです。
前回の記事を引用します。


落ち葉や枝も同じで、ただ集めて放置するだけで良い腐葉土ができるわけではないし、放置の仕方ひとつで栄養価を損なうこともある。
植物の葉なら何でもいいのか、同じ腐葉土ができるのかと言えば
それも違います。
紅葉樹、常緑樹、針葉樹それぞれに適した腐葉化があるので、
そういう見極めが絶対的に必要なのだと思います。


このうちの
「ただ集めて放置するだけで良い腐葉土ができるわけではない」
ここと鰹節の製法がポイントです。

鰹節の製法


鰹節のうち本枯れ節の製法を紹介すると、概ね次のようになります。
地方によって流儀が異なるので、多少の違いはあるものとお考えください。

まず、新鮮な鰹を頭を落として3枚に下ろします。
これを塩水で茹で上げ半身にし、血合と骨、を取り除き、
頭近くの鱗を削ぎ落とします。この時はまだ荒削りの状態。

次に荒い整形の茹で鰹の身を燻製にします。
表面がタールで覆われるほどに燻した鰹を乾燥させます。

しばらく乾燥させたかつおはタールがついたまま上面を柔らかくする程度に
蒸します。

タールが柔らかいうちに手作業でタールをこそぎ落とし、
再び乾燥させますがこの時に鰹の表面にカビがつきます。

長い時間をかけてカビが鰹節を熟成させます。
その間に何度も状態を確認し、形も整形したのち本彼武士は作られます。

腐葉土が本枯れ節、枯れ節になった後のことを表すなら、
腐葉土になる前の鰹節を作る工程にあたる部分を紐解く必要があります。

「じゃ何か?落ち葉を蒸したり燻すたりすればいいっていうのかね?」
「それはあまりに馬鹿馬鹿しい!」

確かに燻すのはちょっと現実的ではありませんが、
そこは「茹でる」「乾燥させる」「整形する」の回数を増やすことで
対応しましょう。

でも、その作業をするのは人ではないんです。
自然のちからで「自然に」やってもらうのです。
というか、自然が自然にやっているというのが正しいかな。

落ち葉の鰹節化

そもそも広葉樹が秋に紅葉して短期間で葉を落とす理由は何でしょうか。
紅葉した葉を食べたことがある人はあまりいないかもしれません。
時々もみじの天ぷらを食べさせてくれるところもありますが、
私はそうでなくても食べてみます。
リフォレスターを思いつくほど変態なので。

ざっくりと言って、赤く紅葉する葉は甘く、香りも甘い。
黄色く紅葉する葉は酸味があって香りにも酸味を感じます。
(ただし、イチョウは含みません。
 理由を書くと長くなるので腐葉土に関しては扱いません。)

落ち葉の味は分解過程の速度や発熱に大きく関係します。

紅葉樹の落葉は、そもそも養分の自家生産サイクルの一つで
夏までに葉に養分を蓄えておき、
気温の低下をトリガーにして葉への水分供給を止めはじめ、
日光に当てながら糖化させる。
糖化が進むごとに葉が固くなるので水分供給を止めても葉の形は保てることが大切で、最終的に主に雨の力で落葉させる。
風ももちろん影響するけど、風邪で飛ばされる葉については
別の戦略を持って。

葉の形が萎れて縮まるので意味がはなく、
可能な限り面、あるいは筒の形で落葉して
地面にミルフィーユのような層を形作るように葉を落とすことが
最重要ポイント。
雨の日は葉は自分の足元に葉をたくさん落とすことができるけれど、
自家製産だけに頼ると栄養のバランスが取れないので、
風の力を借りて他の種類の木の葉とブレンドする。
それが、大風の日より、雨の日の方が多く落葉する理由。

鰹節作りでいうところの、鰹の水揚げにあたるのが落葉のフェーズ。

「3枚に捌いて茹でる」工程にあたるのが、
木の実の落下と、枯れ枝の落下。鳥や動物の活動。
そして雨上がりの太陽の熱。
自然のプロセスは人と違って効率的ではないけれど、長い目で見ると
効率的で無駄な力がありません。
一気に捌いて一気に茹でるのではなく、少しづつ捌いて、少しづつ茹でる。
小さな営みの多くの連続。

枯葉は一度の衝撃で破れる必要はなく、
どんぐりが落ちた時の衝撃や、
落ちた木の実を啄むために降りてきた鳥の爪、動物の歩み
そんな何でもない衝撃で枯葉のどこかに傷がつけば良い。

枯葉の傷に雨水が触れて糖が溶け出す。
雨上がりの朝露は無数のレンズと変わりないので、
太陽の光を集めて落ち葉の表面を茹で始める。
焼くほどの熱でなくても、水に溶け温められた糖は保温効果が高く、
発酵もしやすい。どんなに僅かな熱でも集まればそれなりのエネルギー
になるので、直接日光に当たらなくても影響しあって温まる。
日中は発熱し、夜は冷えるを繰り返して徐々に糖の発酵が進む。

糖の発酵が進むと、きのこや粘菌、地衣類が吸収しやすい柔らかさと
熱環境になるので、ここではじめて腐葉土への工程が始まる。
鰹節のカビつけ工程の開始。

では、「整形」はどういうことかといえば、
1番わかりやすいのが積雪。
物理的に雪の重さで枯葉が圧縮される。
けれど、圧縮自体は雪の降り始めから数時間で、
実際は枯葉の発熱で地面に近い雪は溶けるので
コンスタントに溶け続ける雪の水の重み、あるいは落下する水滴の衝撃が
「整形」と言えると思う。

こんな感じで自然界で腐葉土が作られる工程はものすごく小さな規模で、
眩暈がするほど多くの営みで時間をかけて作られるけれど、
「完熟」するまでには1年近くかかっているのだと思う。
キノコの習性から計算すると、10月落葉からはじまって7月上旬で完熟。
おおよそ10ヶ月。もちろん、分解が終わる速度は一様ではないから
春くらいから徐々に使われ始めて落ち葉のうちの発酵過程まで進めた
落ち葉の分解自体が終わるのがその頃。

畑のリズムとは異なるけれど、
腐葉土化のプロセスを自然の営みから見るとこうなるというお話です。

落葉した落ち葉が全部発酵することはなくて
発酵できなかった落ち葉は夏の熱と乾燥、雨の力で砕かれて、
秋の枯葉の発酵が始まるのを待つのではないかと思うのです。
いつまでも発酵できないものはいつまでも残り続けてしまうのは当然で、
身近なところで言えば、天然素材の蔓カゴや、箸などの食器、
リースに取り付けた松ぼっくりやドライフラワーはかなり
長く持ちますよね。
植物とて、発酵が始まるための水分や糖がなければその先のプロセスには辿り着けないのも鰹節と変わりません。

鰹は腐るじゃないかって?
腐るための菌を近づけないようにすれば、
例えば冷凍すれば腐らないし、真空パックという手もありますよね?
並列で見るのは、考え方と工程と、そして想像する肌感覚です。

いりこはその年の落ち葉と発酵できなかった落ち葉

腐葉土の腐葉土になる前のプロセスはお話ししましたが、
同じようにいりこにあたるものも説明しないといけません。

腐葉土と落ち葉堆肥の違いについてずっと考えていたのですが、
腐葉土になる前のプロセスを見ると落ち葉堆肥の意味がないのではないかと思えます。
落ち葉堆肥をやっている方の多くは、
いきなり落ち葉を土に漉き込んでいる方が少なくないと思いますが、
発酵しない枯葉はいつまで経っても枯葉のままですからね。
しかし、私は思うのです。
発酵しない枯葉も、発酵できなかった枯葉の残骸も
だからこそいい出汁に、じゃなくて良い堆肥になるのではないかと。

ただ、落ち葉に関しては土に漉き込む前にできるだけ細かく砕くことが
良いのだと考えます。

理由は一つ。落ち葉のまま土に漉き込む場合、
その落ち葉の分解者は「菌」ではなく微生物になるからです。

腐葉土のプロセスでは、地上の落ち葉分解の先駆けとして
キノコ菌、粘菌、地衣類が活躍します。

けれど、こういった菌類は土の中では活動できないからです。
「いや、キノコは土から生えるだろう」って?
違います。
菌類の多くは植物に寄生していて、必要に応じて菌糸を地表に伸ばします。
菌糸を伸ばせるケーブルがないと単独では存在できるけど、繁殖できない生き物です。

リフォレスター実験を見る限り、菌類はいなくても、
微生物だけでも植物片は分解できます。
土全く微生物がいないということはほぼありえないので、
発酵していない細かな枯葉はそのままの状態でも十分微生物の餌になる。

ここからは推測ですが、
土に埋もれた枯葉はその場所で分解され、
量は少しだけれど、肥料としてその場にとどまる
植物は成長過程で栄養素を探して根を伸ばす。
変な話だけれど、植物にも学習能力はあると思っていて、
それは思考という意味ではなくて、
肥料を探索する学習能力何だと思うのです。
それを踏まえて、
土の中にまばらに肥料が存在していれば、
その肥料を探して八方に根を伸ばすのではないかと思うのです。
つまり、発酵しない落ち葉を漉き込むことで根張りが良くなるのではないかって。

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