“濃い音楽ファン以外”にも支持される夏フェス

『夏フェス革命 音楽が変わる、社会が変わる』(blueprint)の内容をベースに、夏フェスをモデルケースとして2010年代のマーケティングのあり方について考える連載企画です。今回は第3回目。

ちなみにこんな構成を考えていますが、変更するかもしれません。

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①提供価値の拡張
夏フェス=コンテンツ×エクスペリエンス×コミュニケーション

②協奏のサイクル 
夏フェスは「参加者が主役」、すなわち「ユーザーは事業のパートナー」

③「周辺」のユーザーを取り込む ←今回これ
“濃い音楽ファン以外”にも支持される夏フェスのあり方

④SNS時代の基本原理 その1
夏フェスは最強の「自己演出コンテンツ」である

⑤SNS時代の基本原理 その2
夏フェスで理解するスクランブル交差点(ハロウィン、サッカー日本代表戦)

⑥「モテ」はビジネスをドライブさせる
「カップルでフェスに来てる奴らは○ね!」

⑦時代に合わせた事業ドメインのスライド
ロッキング・オン社と渋谷陽一氏の何がすごいのか?

⑧ユーザーを育成する
「フジロック型」ビジネスと「ロッキン型」ビジネス

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前回の当連載にて、フェスで自然と駆動していた「お客さんが勝手にフェスの楽しみ方を拡張して、音楽以外の楽しさを見出した」「そしてその動きを主催者が追認し、フェスの場を作り変えた」というような流れに着目しました。そしてそれを「協奏のサイクル」と名づけました。

1.商品/サービスの提供
2.ユーザーによる顕在化していない価値への着目
3.ユーザー起点での新たな遊び方の創出(異なる概念との組み合わせ含む)
4.企業が当初想定していたクラスターとは異なる層によるファンベースの拡大
5.企業による新たなユーザー層・楽しみ方の取り込みとそれに合わせたリポジショニング

本稿では、このサイクルがフェスにおいて具体的にどうやって回っていったか?について触れます。このサイクルがきっちり動き出すと当初想定しなかったユーザーまでを獲得することができる、という観点において様々な産業のモデルケースになるのではないでしょうか。

なお、フェスにおける「協奏のサイクル」の背景については、次回以降で触れていきたいと思います。様々な社会の動きが流れ込んでいき、またフェスが社会そのものに影響を及ぼす中で、フェスマーケットが取り込むファン層はどんどん大きくなっていきました。ここでは予告的にその概要をお示しします。

こんな流れも踏まえつつ、まずはフェスにおける「協奏のサイクル」のありかたについて詳述したいと思います。

>>以下『夏フェス革命 音楽が変わる、社会が変わる』より引用/編集

ここまでの議論を先ほど提示した「協奏のサイクル」に即してまとめると、以下のようになる。

1.商品/サービスの提供
・「豪華アーティストのライブを楽しめる」こと(フェスが提供する価値「①出演者」)を最大の売りとして、フェスというものが開催されるようになる
・この時点では「ライブ以外の時間も楽しい」「そこでの参加者間のコミュニケーションこそ重要」といった価値(フェスが提供する価値「②出演者以外の環境(衣食住)」「③参加者間のコミュニケーション」)については、運営側の頭の中にはぼんやりと存在しているものの顕在化はしていない

2.ユーザーによる顕在化していない価値への着目
・フェスの参加者が「ご飯」「自然」「ファッション」「夏らしいイベント」といったメインコンテンツに付随する価値(フェスが提供する価値②③)にフォーカスするようになる
・前提として、フェスの参加者は運営側から“あなたたちが主役である”“フェスは自由である”ということを絶えず訴求されている

3.ユーザー起点での新たな遊び方の創出(異なる概念との組み合わせ含む)
・「フェスでのおしゃれを追求する」「SNSにアップする写真を撮る」といった行動が広がり、「仲間とのひと時」に重きが置かれるようになる

4.企業が当初想定していたクラスターとは異なる層によるファンベースの拡大
・「音楽にはそこまで詳しくないけど〈3.〉のようなことには興味がある」という層がフェスに流入する
・その層は、当初の売りであった「豪華アーティストのライブ」(フェスが提供する価値①)にはさほど関心のない人たちも含まれている

5.企業による新たなユーザー層・楽しみ方の取り込みとそれに合わせたリポジショニング
・運営側は〈4.〉のような層を排除することなく、その人たちも楽しめるようなアクションをとることで催しとしての性質が変わる

ここで重要なのは「4.企業が当初想定していたクラスターとは異なる層によるファンベースの拡大」のステップである。提供する価値が「①出演者」だけでなく「②出演者以外の環境(衣食住)」「③参加者間のコミュニケーション」にまで押し広げられた今の時代のフェスには、仮に音楽に詳しくなかったとしても比較的気軽に参加することが可能である。

思い返せば、フェスというものが生まれ始めた2000年初頭において「音楽に詳しくない人をフェスに誘う」というのはあまり考えられない行為だった(筆者はその頃ちょうど大学に入ったタイミングだったが、自分の周りでは「そもそもフェスとは……」から説明しないといけなかったように記憶している)。フェスが「夏の定番イベント」として取り扱われている今とは隔世の感がある。

また、エンターテインメントとしての間口が広くなったゆえか、最近では恋愛と結びつけて語られるケースも見受けられる。

 実は、フェスは運命の人と出会える可能性も秘めた場所なのかも?? 「だと思いますよ。音楽を通じて、ひとつの価値観を共有できた訳ですから。合コンとかで知り合う人よりは、心のハードルが低くなって、気軽に連絡先の交換できちゃうかも(笑)。実際にフェスで知り合ってゴールインした『フェス婚』カップルって、私の周りに多いですしね」
 音楽から恋愛まで、あらゆるエンターテインメントが詰まった、フェス。忘れられない夏 の思い出をここで刻めることは、確かだ。
( Men's JOKER PREMIUM 「美女がこっそり教えてくれた【夏フェス】の楽しみ方 美人プロモーターの夏フェスの楽しみ方の巻」 )  ︿http://mensjoker.jp/22630 ﹀/2017年 11 月 22 日最終アクセス)

ここで紹介した記事の前半には音楽に関する話もされている(「毎年、どこかで楽曲を聴いて、観てみたいなと思うアーティストが必ずラインナップされているんですよね。また、それを目当てにして行くと、前後に自分の興味にあうミュージシャンとの出会いもさせてくれる。こんな音楽もあるんだ、という発見を与えてくれる場所だと思います」)ということをあらかじめ補足しておくが、メジャーレーベルで働くいわば「業界の中の人」が(ファッション誌のウェブサイトという媒体特性があるとはいえ)フェスにおける「音楽以外の側面」を強調しているのはなかなか興味深い構図である。

「音楽に詳しい人向けのお祭り」から「恋愛要素もある夏のイベント」に進化したフェスは、今では花火大会やテーマパークといった娯楽と同じような位置づけで語られるようになっている。これが意味するところは、「音楽ファンに限らず、すべての人が想定顧客になる」ということである。

もちろん「人混みが嫌」というような人は除外されるだろうが、世の中の娯楽の細分化が進み音楽もその渦中にいる状況下において、フェスはそんな流れに逆行するように最大公約数的な側面を持つエンターテインメントになった。「音楽イベントである、だけど音楽を知らなくても聴かなくてもいい」という一見すると歪な構造こそがフェスマーケットが拡大する鍵であり、「すべての人が想定顧客」である以上まだまだ残されたパイは大きいと考えられる。

ちなみに、この流れに即して指摘しておくと、今のフェスには「音楽にそこまで関心のない層」が参加者として一定数含まれているのが実態であり、「フェスの参加者=耳の肥えたロックファン」というわけでは必ずしもない。いわゆる「ロック」とは縁遠そうなアーティストがフェスに出演してその場を盛り上げた際に「ロックファンをも唸らすステージを繰り広げた!」というようなことが書かれた記事がテンプレート的に登場するが、本当にこの無邪気な表現が適切かどうかは都度精査する必要がある。そこで盛り上がっていたのは「誰がライブをしても盛り上がる人たち(まあまあ有名なアーティストのライブであれば、なんとなくイベント感があってOK!という人たち)」の可能性が大いにある。

コアな音楽ファン以外に対しても訴求力を担保し、今後もその市場のさらなる拡大が予見されるフェス。これだけ聞くと万々歳、未来は明るいという気になってくるが、一方で個人的に気になっているのは「このムーブメントは音楽産業全体にとっても“万々歳”なのか?」「ひたすら音楽を浴びる空間としてのフェスが好きだった人たちはどうなるのか?」という点である。そのあたりについてはこの先の議論の中で少しずつ触れられればと思う。

>>

次回は冒頭の表でも示した「フェスが音楽ファン以外に開かれていく流れ」について、その端緒となったSNSの隆盛とそれがフェスにもたらした影響を分析したいと思います。

詳細は拙著にて


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