連作30首「感情がなくて悲しい」

第60回短歌研究新人賞応募作品「感情がなくて悲しい」です。



人生のスタートダッシュを間違えてそれから走るふりをしている


最下位になったら拍手されるのに馬鹿な道化は演じたくない


笑ったら笑ったことを笑われてどの申請も許可が下りない


ばりばりと雑言の滝を浴びているマイナスイオンは感じなかった


感情がなくて悲しい 感情がなくて本当に助かりました


へえこれが同情というやつですか一緒に死んでくれるんですか


恵まれた人が手ぶらで現れて何も買わずに帰っていった


かわいそうだって慰められているわたしはかわいそうだったのか


爆弾を作ってそうと思われる前に作っておいた爆弾


可視化した悪意を全部吸い取って膨らんでいくお腹が痛い


非生産的な感情工場で怒りの試作品を生み出す


しっかりと恨めているか気になって蓋を開けたらまだやわらかい


わたくしは便利な道具でございます操作手順を誤って死ね


不規則な鼓動を刻む心臓の安全装置に手を掛けている


メンタルの動作不良を誤魔化してお薬手帳みたいな日記


箱舟のいかりを上げる体温のある動物は連れて行けない


怪物になって短い溜息をひとつ残らず飲み込んでいる


返り血を浴びる覚悟もないくせに扱いやすいナイフが欲しい


雑巾のままでいいのにべそべそのぼろ雑巾になってから寝る


きみはもうひとりじゃないよこれからは毎日呪い続けてあげる


気持ちいい朝の鮮度はすぐ落ちて電車の中で腐ってしまう


生きたまま腸に届いた勢いで内臓を突き破ってほしい


わたしって狂ってるから狂ってることを証明させてください


芸術家タイプだねって言われてるなんかもごもごした言い方で


サイコパステストを受けて正常な人間の烙印を押される


ご歓談中の皆様すみませんちょっと毒ガス吸ってきますね


できるだけ心を揺らさないように爆弾を抱きしめて歩いた


なんだろう涙と同じ成分の液体が溢れようとしている


ぶつかっただけで砕けてしまうからユニットバスの水面を殴る


傘なんていらないと思って、捨てて、でもやっぱりだめで、まだありますか

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