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病んだらネイルを眺める癖

実は私は、風俗のお仕事で病むことはほぼ無い。

無いというか、無くなった。慣れた。
病み疲れ、病み慣れ。

1年目は本当に辛かった。

初めてのソープランド。
予約が入らないとき、待機中、誰も居ない個室でベッドのシーツを握りしめて泣き腫らした。
帰りたいの言葉しか頭になくて、申し訳ないと理解しながらも、店にやって来るお客さんが全員憎かった。

「何でお客さんは店にやって来るの」
「いやいや、指名の子がいるからだよ」
「でも私なんかじゃない」

ああもう何も言うなって、声も聞きたくない。
頼むから私の前で何も言わないで。
皆、来るな来るな。もう嫌だ。うんざりだ。


私の気持ちも何も知らずにフリーで入りやがって、何がおねーさんだよ、最初に名前名乗っただろうが、ヘラヘラしないでちゃんと人の話聞けよと思った。
おねーさん、と言われたらおにーさんと返答した。

なんだか
性格が捻じ曲がった心の寂しいおねーさんだな、私。

もう諦め。
私の心が悲しいと泣いていた。


新人期間中、予約が途切れた時点で突然送迎車で最寄りの駅まで送られ強制的に帰らされた。
受付時間、あと5時間残して。
出勤人数と地域的なものだと思うが、何故その時点で何かがおかしいと気付けなかったんだろう。

14時間待機してお茶の日もある。
Twitterで他店のお姉さんと状況報告の会話。
その後寝疲れ。運動不足。精神不安定。
窓はあるが走って逃げられず、心がざわついて発作的に助けを求めて、別の地域のお姉さんにLINE電話して慰めて貰う。携帯を持つ手が震えていた。

多分、もう心が限界だった。
その店今すぐやめろと言われた。

言われてから半年後に辞めた。
理由は引越し。
このお仕事だから引っ越すのさえ一苦労。

行動するの遅いよと言われたけれど、コロナだから、なおさら辞める勇気が無かった。
本指名様もたくさん居る状況だった。
でも、あのお店は私の初めてのお店で良かったなと心から思う。



その後、風俗街は全国各地に存在することを実感する。
日本は狭くて広い。
どの地域のソープ街も夜になるとキラキラ煌めいていた。
私は待機中、仲の良いお姉さんと一緒に街を歩きながら、自分の未来を熱く語り合った。
朝マックを買って、清掃中の荒れた夜の街から待機場所に帰り、短時間でも一緒に寝て、早朝になると学校に行く私と昼職に行くお姉さん。

年下の業界の先輩に、仕事帰りにクラブとバーに連れて行ってもらったこともある。
朝帰りでそのまま授業に行く体力こそあったけれど、オンオフの切り替えが全然できず、夜脳のまま登校するので、大学の授業が始まると思うと再び憂鬱になる。

まだまだ未熟で命知らずだけど
今の私は、自分の足でどんな地域でも生きていけるんだと確信する。
人生初、やっと自分の手で掴み取った自由だった。



だが、自分自身の人格を変える事は非常に難儀だ。
どんなにお金を得ても、美容に投資しようと、服を新調しようと、私は自分の内面にあまりにも自信が無さすぎる。

悲嘆の日々。

一体何が私をこんな運命に陥れたんだ、と本気で思った。
ここぞとばかりに登場するのが、風俗の世間的な印象。

「だから私はこの仕事しができないんだ」
から
「どうして私はこの仕事すらまともにできないんだ」
に変わる場面は多々存在する。


2年目。

結果的に風歴2年にして病むのなら、せめて未来の私が悲しまないための、自分の新しい可能性を作ってあげなければならないと思った。

何故なら、
繁忙期と閑散期による売り上げの大幅な波
在籍店での他の方との接客歴の違い
お店と私のコンセプトの不一致
目出しするか否かなど
いろいろな条件が人それぞれ違うから、病む必要が無い。

当然だ。

誰が人気とか予約状況とか、一切関係ない。
他人が自分に口を出す権利も必要もない。


私自身の頑張り所は風俗では無い、本業だ。

というスタンス。

でもね、正直...本音はどっちも好き、大好き。
と思っている私の素直な心も、尊重して大切にすべき。

風俗嬢である事実は変わらない。
それこそが立派。
だからお仕事以外の、その他の不審な発言や付き合いに自ら顔を突っ込む訳にはいかない。

やはりセンシティブなお仕事だからこそ、仕事のモチベーションや目的意識は絶対違う。
高ければ素晴らしい訳でもないと私は思う。

例えば、
暇だからとか、体力の限界に挑戦する理由で出勤時間を増やせば、あの子は借金があると逆に変な噂を立てられた。


だから
何かしらの媒体や偶然お店に来た人で、私のお部屋に来てくれたお客さんを真面目に接客すればそれでいい。


...と気楽に思っていないと、純粋な心が折れ曲がる。
心が体が不健康になり、体が痛んでしまう。
やっていられない。


だから私は病んだら、まず自分の爪を見る
少しだけ人より派手なネイルが私は好き。

大学の教授が派手なネイルをしていたのを横目で見ながらずっと羨み続けていた。
風俗で得たお金でまず私が行った一番初めの自分磨きだ。

やったじゃん、私にもできたじゃん!
ずっと憧れのネイル、私だってやれたじゃん!!

それにしても爪に色を塗ると高くて2万円もかかるなんて想定外だったな。
でもネイルサロン通いなんて、街中のおしゃれさんの仲間入りになれるなんてと思うと、凄く嬉しかった。

その感情、一生忘れない。

病んだり辛いとき、痛いとき。
マイナスな感情の抑制手段、まずネイルから。

生々しい話、ソープの背後からの挿◯時に痛いのを我慢するとき、顔は下を向いてネイルを眺めている。

お客さんにその爪良いねと言われたら、一緒に爪塗るのやろう?なんて何故か私が男性にネイルを誘ってしまうのは、単純な性への照れ隠しから。

なんかネイルってまだまだ女の人がやるものの印象が強すぎて、お客さんにそう言われるとなんとなく...性別を意識させるから、ただただ恥ずかしくて。




死ぬ程言われるけれど
君の親が悲しむよ、君の親、泣くよ。って。

でもね
このお仕事をしなければ、未来の私が泣くから。

お金を貯めて、得たひとつの可能性をここで諦めてしまったら、過去の私達が泣いちゃうから。
頑張った過去の私達に失礼だからって、未来の自分のために、今の私は私を捨てない、諦めない。

ネイルは勲章。
誇りの証、お仕事頑張りましたで賞。

そんな感じ。

だから私は病んだときに、まずはネイルを眺めるんです。

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