日記

いまわたしは、サザンを聴きつつ、お酒をのんでいる。溺れてしまっている「ウエハースの椅子」を読みながら。

桑田佳祐の声はずるい。心の海のはしっこにふれられたみたいな、あぁここが帰りたかった場所だ、と思わせてしまう声。

わたしが好きになる男は、いつだってずるい。こんなにびしょびしょに泣いている時に目を覚まさなくたっていいのに、しなしなに弱った心に寄りそわなくていいのに、そんなことをされたらわたしは本当に耽溺してしまうのに。

わたしの人生は恋とともにある。

恋は人生であり、人生は恋だ。

臆面もなくこんなことを云える女になってしまった。

恋人と出会った夏を思い返してみる。蒸していてくるしくて情熱的で晴れていた夕方だった。人ごみの中にいても、彼は彼だとはっきりわかった。その時から、わたしは今こうなることは分かっていたのかもしれない。

わたしは恋人に耽溺している。
たぶん、次に空気を吸うときは、恋人に愛の言葉をつげる前だ。外は夜にみちていて、この部屋にはぼんやりした灯と、サザンと、小説とお酒がある。

もうすぐ恋人が帰ってくる。
それだけでみちたりてしまう。

わたしはいつかみちたりた湖になって、恋人が船で遊びにきてくれるのを待ちながら、おなかのなかにちいさい魚やよどんだ水草や誰かの思い出の本を飼いながら暮らしたい。

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